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第2話『赤の天使』

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第2話『赤の天使』



 ニュルンベルク殲滅戦作戦完了から数時間後のアメリカ、ユタ州、セーフガード地下施設。

 真っ白い壁に覆われた部屋の中央に、ベッドが一つ置かれている。実験室の様だ。ベッドの周辺にはさまざまな機材が置かれていた。一つ一つが静かな起動音を立てている。部屋の入り口から見て右側の壁は巨大なガラスで覆われ、モニタールームと実験室を仕切っていた。モニタールームには大きなガラスケースがあり、その中に人間の頭部が入っていた。顔は無残に抉り取られ、ガスマスクの様な物で顔全体を覆われていた。栗毛の短髪であることから、グレネードマンの遺体である事が窺える。ガラスケース内部で操作をする為に生やしたゴム手袋が外側に捲れてぶら下っている。その反対側には数機のPC端末が設置され、白衣の科学者達がそれを食い入る様に見つめていた。

その集団とは孤立して、一人の科学者が仕切りガラスの前で、実験室内のベッドの様子を窺っていた。ベッドの上には、金髪の少年が横になり、左腕を重厚な白い装置に入れて、天井を見つめている。
 「ザッ……気分はどうだ?」
 ざらついたスイッチ音の後に、研究者の声が実験室に響いた。
 「たいくつ~」
 それを聞くと背後の集団に振り向き「問題ない」と伝えた。
 集団の一人がそれを受けて頷く。
 「菌体注入開始」
 PC端末を操作していた科学者達が忙しなく動き出す。
 「菌体注入、開始します」
 「菌体注入、確認」
 「午後5時23分46秒、菌体注入」
 仕切りガラス近くの科学者が、手元のマイクのスイッチを押す。
 「気分はどうだ?」
 「さっきも言ったじゃ~ん」
 もう一度振り向いて、科学者達に報告する。
 「このまま経過を観察する」
 彼らは再びPC端末を食い入るように見つめた。
 天井に設置された電球からの眩しいスポットライトを浴びながら、少年は数時間前に殺害した男の事を考えていた。復讐、人を殺していい理由、そしてあの奇怪な自傷行為。考えれば考えるほどに判らなくなってくる。一番理解ならない台詞が、頭の中で映像となって浮かぶ。

 真っ赤に濡れた市街の残骸の上にちょこんと座っている姿。貧血でふらふらしながら、黒く焼け爛れている左腕を、何度も何度も膝に乗せようとして失敗する。肘のない腕がひょこひょこと空を掻いて、その都度男の体がガクッとバランスを崩す。怨みとも怒りともつかない、何とも惨めな顔で泣いていた。

 「何にもねぇのかよ!? テメェには!! ふざけんじゃねぇ! 人を殺していいのはなぁ……人殺しってぇのはなぁ!!」

 この言葉がとても印象的だった。その続きは、少年にも予測できた。復讐なら人殺しもオーケー。でも、少年にはそれが理解出来なかった。「何にもねぇのかよ!?」 それはそうだ。何故なら、人を殺すことに理由など不必要だからだ。
 何で人殺しに理由なんか考えるんだろう。……変な人。
 結局、あの人は変人なんだ、という結論に至った。途端やる事がなくなってしまった。
 少年が大きく欠伸をした。機材の機械音だけの静かな時間が流れていた。



 同時刻、同国、ワシントンD.C.、とあるホテルの巨大会場。
 
 急ごしらえの煌びやかな会場に相応しい上辺だけ上品な格好をした、気品という鎧をまとった猿共が、用意された餌を貪りながら、意味のない笑い声で他人を煙に巻き合っている。
 馬鹿馬鹿しい。独りその様子を遠巻きに見ている銀髪の男はそう思った。少年のモニターに出てきた科学者と同一人物の様だが、髪は撫で付けられてオールバックにし、上等なスーツを着ている。元々痩せ型で長身の彼は、ともするとファッションモデルの様で、あの爆発頭と同じ人物だとはとても想像も出来ない。
 彼の出席しているこのパーティーは、各界の権力者を集めてのセーフガードの四半期の活動報告、という形をとったプロパガンダであった。その様子はTV放送される事となっている。その事が彼の心に重くのしかかっていた。
 吹き抜けになっている上の階には、ずらりとカメラが並び、メディア関係者が陣取っている。その間を赤い制服がゆらゆらと監視して廻っている様子が男の居る階からも窺えた。
 ホールの奥には途方もない広さの間口をもった舞台があり、そこには一際高い場所に演壇が設置されていた。演壇に施された絢爛豪華な装飾も、その背後にある巨大なセーフガードの紋章も、彼には疎ましく思えた。

 あそこに上るのか……、そう思うと吐き気がした。
 トイレに行こうか、いやもうすぐ出番だ、我慢しなければ……。出来るだけ演壇を見ない様にしていると、ぶくぶくと太った、まるで樽の様な女が奇声を上げて笑っているのに気付いてしまった。
 「……それで私、主人に言ったんです。あなた、本当にそれ以上食べたら食肉業界にまで参入する羽目になるわよ……っておほほほほほ嫌んなっちゃうわね全くおほほほほほ!」
 貴様が食材として参入しろ! 頼む今すぐに!

 ……おぇ、余計に気分が悪くなってしまった。このままあそこに居る肥満の豚女にでも吐き掛けてしまえば、どれほど気分がスッとするだろう。勿論、そんな事をすれば職は愚か、命さえも失いかねない事は十分理解している。あの“鼻くそ”よりも確実に価値のない家畜でさえ、機関の重要な資金源なのだから。しかし、女性の体型を見れば見るほど、自分の命を投げ打ってでも、あの豚を侮辱する価値があると思えてならなかった。
 「あら、Dr.アルベルト! 世紀の天才科学者じゃないの!?」
 肥満女性が男に気付いた。不味い、吐き気が喉まで昇ってきた。彼は持っていたワインで強引に吐瀉物を流し込むと、サイクロンも晴れ渡らんばかりの満面の笑みで彼女に応えた。
 「これはこれは、私めの事を存じてくださるとは、誠に恐縮至極で御座います。ミセス……」
 「お噂はかねがね……。マリアですわ。マリア・ブラウン」
 彼は笑顔を微塵も崩さずに心の中で驚愕した。 これがマリアだ!? 聖母への贖罪として聖水を飲んで死んでしまえ!
 「Mrs.ブラウン、御逢い出来て光栄です」
 「まぁ! マリアで宜しいですのに……」
 そういうとブラウン夫人は頬を赤らめた。視線を逸らし、時折チラチラとアルベルトに上目遣いで視線を送る。その仕草に彼は一層具合が悪くなった。
 「ホント素敵……。その夜空に煌めく銀河のようなオールバック、凛々しい視線、きりっとした顎、そのゴツゴツした鷲鼻はちょっと頂けないけれども、でもスラリとした長身で、服装のセンスもあって、もう見ていて惚れ惚……」
 「あのマダム、お心は大変有難いのですが……」
 アルベルトは堪らなくなって、必死に笑顔を維持しながら、両手を前に出して口説き文句の言葉を遮った。その手を鷲掴みにして、夫人は彼に熱い視線を送る。
 「手が冷たいんですのね……」
 夫人の手は手汗で濡れていた。アルベルトは全身に鳥肌が立った。足元から上ってくるぞわぞわの波が、吹き抜けの天井に到達した様な錯覚を起こした。そしてこれが地震で言う所の初期微動だと感じた。遅れてゆっくりと、より破壊力を持った波が、ぐらぐらと登ってくる感覚がする。吐きそうだ、我慢の限界だ。
 その時、会場に歓声が沸いた。赤い軍服を着た男が壇上に登っている最中だった。夫人は握った手をパッと放し、歓声の一部となるべく拍手を送った。アルベルトは心から安堵し、軍服の男に喜んで拍手を送った。なんとか吐く事は回避できた。
 「皆さんこんにちは、人類の未来を考える会会長を任されております、サミュエル・バベッジです」
 胸の無数の勲章が、彼が軍人である事を物語っていた。彼が壇上に上り自己紹介すると、会場が彼の演説に傾注すべく静まり返った。その静寂の内にアルベルトはブラウン夫人の隙を見て逃げ出していた。
 「本日皆様にお集まり頂いたのは他でもありません、我が会の実動機関セーフガードのこの四半期での活動成果の御報告の為であります。我が会はその崇高なる理念により、皆様からの熱いご賛同の声と多大なるご助力を賜っております。しかし、誠に遺憾ではありますが、保有者に対抗する力を、我々は持っておりませんでした。その為に皆様方から大変耳の痛い、と同時に的を射た貴重な御意見を数多く頂きました。テロリストの攻撃を受け、何度と無く敗北して参りました。長かった……、害虫に主導権を握られ、屈辱と怒りに満ちた日々……。しかし! 我が会は苦心の末! ついに! 奴等を! あのクズ共を屠る術を! 手に、入れたのです! ご覧下さい! 人類の救世主! “赤の天使”です!」
 演壇の後ろの紋章の幕がサッと引き、スクリーン一面に赤い装甲姿のあの少年が映し出された。会場が再びワッと沸く。
 「彼は無敵です! 地上数千メートルの高さから落下しようとも……」
 映像は例のニュルンベルク旧市街のシーンに切り替わる。高速で落下した赤い影が轟音と共に舞い上がる粉塵の中、悠然と立ち上がる。
 「彼には傷一つ付かない! さらに……」
 グレネードマンが様々な方法で攻撃する様子がダイジェストで流された。しかしそれらの攻撃は捻じ曲げられ、ある一定半径の球状の領域の内部へは瓦礫一つ入る事が出来ない。
 「保有者の魔術に対してさえ効果を発揮します! そして極め付けがこれ!」
 サミュエルは興奮していた。自分の台詞に視聴者が絶妙のタイミングで歓声を上げる。今まで感じた事のない快感だった。俺は今世界の中心にいる、そう感じていた。
 それをアルベルトは不愉快に眺めていた。木っ端役人がさも自らの業績であるかの様な演説をしていやがる。そして何よりそれに流される聴衆が気に食わなかった。
 スクリーンにはあの異様な銃器が映し出されていた。
 「エネルギー・バスター! 従来の金属製の弾丸ではまるで歯が立たなかった保有者に対し、絶大な効力を発揮します!」
 空中を舞うグレネードマンが弾を避ける度に歓声が上がる。
 「弾を! 弾を避けてるぞ!」
 「素晴らしい!」
 そして少年はついにケンを追い詰める。バスターの銃口を向けて、言い放つ。
 「悪事を働くこの“鼻くそ野郎”め! 観念しろ!」
 アルベルトは思わず吹き出した。声が大人びている、それに台詞も勧善懲悪のヒーローの様で全く以って子供だましだ。役者を雇って台詞を変えたな……、まぁあの男の考えそうな事だ。壇上の軍人を嘲笑しながら、冷ややかな視線を送った。
 映像のストーリーは進む。
 「勘弁してくれ、命だけは助けてくれ!」
 これまた声が違う。震えた声の、なんとも情けない声だった。
 「いいや許さん! 今まで我々に対してどれだけの事をしてきたのか……。それを身を以って味わうが良い! 食らえ!」
 そこからは恐らくCGだろう。バスターから青いエネルギー弾が発射され、グレネードマンは爆発蒸散した。グロテスクな表現は一切無く、死ぬ間際でさえ両腕は残ったままだった。
 ま、世界に配信する為だ、この程度の改竄は可愛い物かと、アルベルトは独りで納得した。

 聴衆が拍手喝采し、会場は熱気に包まれる。その瞬間、会場が真っ暗になった。
 「この功績の全ては、一人の偉大なる、平和を愛する聡明な科学者の存在無くしては語れません。ご紹介致しましょう! 世紀の大天才! アルベルト・ヴィルヘルム・ヴィリー主任科学者です!」
 スポットライトが隅っこで隠れていたアルベルトを見つけ出し、光の輪で彼の逃げ道を完全に遮断した。会場の目線が一斉に彼に向いた。目が、眼光が、眼差しが、視線が、注目が、彼に集団で襲い掛かる。

 不味い、やっぱり吐きそうだ。

     




 暗く長い廊下の奥にテレビが設置されていた。映像から放たれる光が闇を照らし、薄暗い天井に様々な色調の影を作る。その色は主に赤。影は引き伸ばされて巨大になって、動画を眺める独りの人間に覆いかぶさる様に揺らめいている。廊下には長い縦のストライプの影が出来、廊下の入り口へ至る前に暗がりに飲み込まれていた。

 セーフガード地下施設内、懲罰房。
 男が一人、鉄格子の中にいた。

 男は、鼻先までずれた眼鏡越しに、生気の無い眼で光源を見つめていた。二次元の住む銀髪の男が壇上で演説をしている。
「悪夢のあの日の、あの日から今までの、そして今日の、罪無き被害者の冥福を祈り、黙祷を捧げます」
 赤く照らし出された口髭がもそもそと動く。
「茶番だ……」
 蚊の鳴く様な、そんな小さな呟きは、恐らく彼自身も聞こえはしなかったのだろう。肥満の腹を更に膨らませて、ため息を吐きながら、今度は自分にも聞こえるように、同じ事を繰り返した。
「茶番だ」

 突然、外界へと通じる扉が乱暴に開く。外の蛍光灯の光が差し込み、男は一瞬目が眩んだ。光を背に浴びて誰かが立っていた。しかしそれが誰かは判らなかった。
 扉は余りに乱暴に開けられたので、開けた瞬間にまた閉まってしまった。それをまた、破壊せんばかりの騒音を立てて開けて、今度は閉まらない様に足で扉を押さえ、廊下に光源を提供する。
 今までの影が反転し、鉄格子の作る縦縞が内側にうつる。男に覆いかぶさっていた人影が、萎縮して男の影に隠れる。
「トーマス! 世界一の不細工がこんな所で何をしてるんだい?」
 喧しい挨拶を男に叩き付け、侵入者が部屋の電源スイッチを押す。天井でグラスを弾く音がすると、廊下は見事に明るくなった。彼の影は最早足元に追い詰められ、消えてなくなっていた。 男は細い目を更に細くして、眉間のシワを深くする。さっきから口髭をしきりに動かして、口の中で何かを転がしている様だった。
「そーだそーだ、思い出したよ。確か顔が気持ち悪過ぎて罰を喰らったんだっけ?」
 侵入者は扉を足で蹴飛ばして閉めると、大げさに手を挙げながら鉄格子へ近づく。撫で付けた銀髪のオールバックに鷲鼻のスーツを着た男、テレビに出ていた者と同一人物の様だ。
「アルベルト・ヴィルヘルム・ヴィリー主任科学者が面会に来た。時刻は……」
 テレビを消して、トーマスと呼ばれた肥満男が囁いた。
「いやー私ぐらい顔が良いと色々と弊害があってねぇ。会場にメス豚が居たんだが、そいつが丁度発情期だったらしく私に盛って来るんだからたまった物じゃないよ。我慢ならなくって吐き掛けてやろうと思ったが、相手は豚だ。侮辱したつもりで喜ばれたんじゃ敵わない。全くこれだからデブは……おっと。失礼。」
 アルベルトはそう言うと、いやらしい眼つきでトーマスを眺めた。ニヤニヤと笑いながらトーマスの反応を待った。熊の様な巨躯がのそりと身動ぎ、鷲鼻を見つめた。その目には何の感慨も窺えず、アルベルトは面白くなさそうに顔の力を抜いた。

 口髭が動く。
「今、何時だ」
「貴様が入ってから一週間と二日が過ぎた。時刻は……午後7時だ」
「何分だ」
 彼の態度に違和感を覚えたが、再度腕時計を見るて答えた。
「……5分だ」
 熊男は視線を逸らすと口の中だけで時刻を繰り返した。
「時刻は午後7時5分」
 彼の挙動の意味する所の察しは付くが、アルベルトは放置しておく事にした。
 しかし勢いを削がれ面白くない。整髪剤で撫で付けた頭を掻くと綿毛の様に膨らんでしまった。それが余計に癇に障ったが、ゆっくりと深呼吸しながらもう一度撫で付けると、髪は元のオールバックに戻った。
「被害はどれくらいだ」
 気付くと熊男は視線を戻していた。
「11名だ」
 熊男が顔色を変えた。
「馬鹿な! そんなに少ないはずは無い!」
 苛立たしげに足を鳴らしながら、アルベルトはその様子を聞いている。
「有り得ない! それでは……それは正規隊員だけの被害じゃないのか!? 民間人はどれ程死んだ!? それにあの市街は……」
 鷲鼻から嘲笑を含んだ鼻息が鳴り、続きを遮った。
「民間人? あれは人ではない。確かにホモ属だが我々とは異種だ。確かに人も死んだ。だが彼らはゴミだ。労働力としての価値さえない」
 トーマスの細い目が怒りに見開かれ、反論しようと音を立てて息を吸った。それを遮るように枯れた声の口調が加速した。
「それらに関してのセーフガード側の被害は0だ。むしろ総合的には正の効果だ。スラム街と一緒に老廃物をまとめて処理出来た。我々の目標に一歩近づいたのだ! 我々には一刻の猶予もないのだ! 進まねばならない! ……その為の犠牲、いや障害物を処理した、それだけだ」
 トーマスは額に手を当て、ため息を吐いた。額に苦悩のシワが浮かび、憐憫の眼差しがアルベルトに向けられていた。アルベルトの足元が不快感のリズムを刻む。
「こんな……こんな意味の無い事……無意味だ」
「意味はある」
「手段を選べ!」
 アルベルトの足が不意に止まった。
「手段? がはははは! 手段だぁ? 貴様だけは手段を選んできたつもりかトーマス! がはははは! 貴様から、そんな言葉が出るとはな、驚きだよ」
 後悔と自己嫌悪に押し潰された表情で、視線を自らの手の平に移すトーマスを、アルベルトは満足そうに観察していた。
「目的の為ならば手段は選ばざるべし。目的さえ確かであれば方法など問題ではない」
「ならばそもそも……目的が間違っている。私と同様に、お前達も選んではいけない目的を選んだ」
 その批判の内容を聞かずに、アルベルトは妙に納得した様に頷いていた。
「そうだな。そうだろうな、貴様には到底、理解出来ないだろうな。だが、それでいい。問題ない。貴様はただ私の為に、あの子の装置を作るだけの存在だ。……そうだ、それで思い出した。私がわざわざこんな糞の様な場所に足を……」
「あの子は今どうしている?」
 トーマスの表情が変わっていた。先ほどの自責の念は何処かへ行ってしまった様な、いや、その念を奥に秘めた様な力強い表情だった。
「ラボだ。あのカンシャク玉を作るーーあーー何と言ったか……えーそう、ポップマンだ。そいつの菌を静注している」
「菌を! 鼻腔細菌か!?」
 トーマスは飛び上がらんばかりに驚いた。
「殺す気か! 死んでしまう! 今すぐ中止させろ!」
 檻の中で青くなるトーマス、跳ねる様に狼狽し、檻にしがみ付き必死に訴える彼の姿はアルベルトにとってこの上ない見世物でしかなかった。
 腹を抱えて壁を叩きながら、アルベルトは腹痛を訴えた。
「笑い事じゃない! 止めさせろ! 今すぐだ! おい! 聞け! ヴィリー! ……くっそ!」
 トーマスは床に座り靴を脱いだ。底から爪程のサイズのフィルムを取り出し、手の平に乗せる。中央の突起を親指で押す。フィルムから平面ホログラムが映写される。そのホログラムをタッチパネルの様に操作すると、四桁の数字と古いダイヤル式電話機のマークが表示された。
「無駄だ」
 アルベルトは壁にもたれながら、その様子を冷ややかに見つめていた。
「ここは電波が妨害されている」
 忠告を無視して、トーマスは呼び出し音を止めようとはしない。
「驚いたよ。まさかそんな小型な物を作って居たとはな。流石……天才だ」
 天才の二文字には憎しみが込められていた。

 呼び出し音は不意に、トーマスの僅かな希望と共に消えてしまった。
「……頼む」
 床に縮こまった巨体から蚊の鳴くような声が聞こえた。
「……あの子は殺さないでくれ」
 アルベルトはそんな様子を見て、膝を突いて優しく語りかけた。
「安心しろ、あの子は大丈夫だ」
「本当か?」
「あぁ……。言いそびれたが私が来たのはお前をここから出して、あの子に会わせる為だ。ほら、鍵も持っている」
 そういうと鉄格子の鍵を解き、出口を開いた。
「さぁ! そんな所にいつまで居るつもりだ!? 早く出よう!」
 トーマスはぐずついた鼻を鳴らしながら立ち上がった。靴を履き、通信フィルムをポケットに閉まって、深呼吸をする。鉄格子に手を掛けて、腰を屈めて出口をくぐる。

 その瞬間だった。

 アルベルトは歯を食いしばり、満身の力を込めた握り拳で、トーマスの横っ面を強烈に殴った。
 トーマスは口から血と歯を吹いて、懲罰房の中へ倒れこんだ。
 すかさずアルベルトが鍵を閉める。
 目元を膨らませてニヤリと笑い、鍵を廊下の向こう側へ放り投げた。
「貴様のお人好しも、ここまで来ると病的だな!」
 勝ち誇った笑い声が廊下に響き渡る。
「貴様の懲罰はあと三日残っている! 残念だったな!」
 檻の中の熊は仰向けになって、ぴくりとも動かない。アルベルトは飛んできた歯を見て、今更それが何なのか気付いた様な振りをした。
「歯じゃないな。えーっとぉ? ……カプセルの形をしていてぇ? まさかぁ? ……盗聴器かなぁ!?」
 大げさに両手を挙げて驚きのジェスチャーをしてみせる。
「これはこれは! 驚きだよ、トーマス! 口の中に入れて使うタイプの盗聴器か!?」
 熊がむくりと起き上がる。
「……欲しいなら持って行け」
 アルベルトはその声が持つ独特の雰囲気を即座に察した。床に転がる小さなカプセルの形をした精密機械を、革靴の底で踏み潰して粉々にした。トーマスが思わず、あっと声を出した。
「やはりな。スペアは持っていないのだな」
 苦虫を噛み潰した様な表情が、それを肯定していた。
「相変わらず嘘が下手だなぁ、貴様は」
「お前の才能は、それだけだがな」
「ふん、どうせ私の失言を録音してバベッジに垂れ込む気で居たんだろうが……。残念だっ……」
「どこまで事実だ」
 トーマスが台詞を被せてきた。口元の血を拭いて、いくらか冷静になれた様だ。
「……菌体を注入している、しかしあの子は死なない。貴様の釈放は四日後だ」
「何故だ」
「何故だ、って当たり前だろう、貴様が規約に背いて……」
「あの子は何故細菌を注入されて死なない?」
「なんだそっちか。それは貴様の専攻から外れる。知らなくていい」
「何故注入する必要がある?」
「量子工学と何ら関係ない理由で」
「答えろ!」
 野太い声が長い廊下の先まで届き、語尾だけが残響となって響いた。次第に静かになり、やがて消えた。
 アルベルトは無言で背を向け歩き出し、靴を鳴らしながら答えた。
「いずれ判る」
「その時は手遅れか?」
 廊下の出入り口に到達すると、廊下の電源を落としドアを開けた。光源は入口だけになり、トーマスの背に再び影が宿る。
 長身の科学者が光に背を向け、表情の判らない顔をトーマスに向けた。
「いいや、そこからが始まりだ」

 アルベルトの胸からクラシックが鳴り出した。ドアが開けられた事で電波が通る様になったようだ。開けたドアに背中を預け、電話に出る。
「こんにちは、こちらは……あぁ。……そうだ。……は? 今なんて……おい、それは……」
 彼の足が無意識に床を叩く。
「ふざけるな! 発現しない筈は無い! プラスミドの量は関係ない、質が重要なんだ! あの若造から摂取したのなら確実に……」
 トーマスは隙を見て再度通信フィルムを取り出し、ホログラムを出す。数秒と待たずに実験室の監視カメラの回線を探し当てた。そこには慌てふためく同僚達が無言で動き回っていた。
「馬鹿者! 何故そこで思考を止める! 貴様それでも科学者か! 問題は恐らく特定の脳の領域の使い方を……。そうか、あれが有る。……脳同調接続を使え」
 映像の中の科学者の動きがぴたりと止まった。トーマスもその意味を知ってか、弾かれた様に主任科学者の方を向く。
「脳同調接続だと!?」
 熊の咆哮の様な低い声がアルベルトを貫いた。彼は一瞬ドキリとしたが、すぐに冷静さを取り戻した。
 判った様な口ぶりだが大丈夫だ。絶対に出任せだ。
 脳同調接続が何の事だか、奴が判っている筈が無い。
「そうだ。私が開発した。間脳に直接……」
「知っている! 一方の脳が持つ情報を一方の脳へ叩きつける電脳的手法だ。そんな危険な物、あの子には使うな!」
 言葉を奪われたアルベルトは、、体中から汗が一斉に噴出する感覚がした。腕の力が入らなくなり、携帯電話を持った手がぶらりと垂れ下がる。
「な……何故知っている?」
「五年前に試験的に猿で用いた! しかし一方の猿は死に、情報をぶち込まれた猿は精神に障害を来たして数日の内に死んだ!」

 アルベルトは驚愕した。
 自らが開発した、自力で樹立したと思っていた技術が、またもや二番煎じ、真似事でしかなかった事に、愕然としていた。
 そして憎悪が湧き上がる。悪意が毛先まで浸透する。そして殺意へ変わる。
 この男は今は殺す事が出来ない。だが必ず殺してやる! しかし、今は殺せない。
 その程度の状況の認識は、残念ながら残っていた。
 今、この胸を押さえつけている息苦しい憎しみは、内圧を高め、出口を求めて暴れまわっている。
 その出口に彼は気付いていた。悪意の矛先は最初から決まっていた。

 携帯電話を再び持ち上げる。
「五分で戻る。グレネードマンの脳をクロスに接続する。接続の準備をしろ」
「やめろ!」
 ドアが乱暴に閉る。自動で施錠される音と同時に、通信フィルムからノイズ音が出て、映像が消えた。
 ホログラムの白い枠だけが虚空に浮かび、それが発する光がトーマスに被り、天井に大きな人影を作った。
「……目的の為ならば手段は選ばざるべし」

 トーマスが通信フィルムを消すと、彼は闇に喰われてしまった。

     

 セーフガード地下施設、実験室。

 モニタールームの入り口が開き、入って来た白衣の男が大股に現場の科学者達へ近づく。
「準備は出来ているか?」
 一人集団から離れていた、現場責任者が応答する。
「主任、ドナーは既に脳死しています。まともな……」
「準備は、出来て、いるのか?」
 細切れの口調に余裕はない。
「はい、あ……いいえ。ですが……」
「邪魔だ、そこで見ていろ!」
 肩を掴み、強引に道を開け、PC端末を操作する部下の元へ行く。膨らんだ白い髪の後ろから小さな舌打がした。
「何処まで進んだ!」
 機関銃の様な口調だ。気圧された部下達が反射的に応える。
「頭部、四肢の束縛完了」
「薬剤投与完了、現在昏睡状態です」
「ドナー脳の抽出完了、培養槽にて仮想ネットワークの形成中です」
「脳頭蓋の穿孔が完了」
「キャピラリー未挿入、脳膜直前で待機しています」
 報告が一通り済んだ。
「仮想ネットワークの形成は後どれくらいだ?」
「およそ四、五分……」
「よし、接続を開始しろ」
 部屋が騒然となる。
「待って下さい! まだ脳機能の復元の最中です!」
「クロスの脳に同調している間に終わらせろ!」
「しかし、能力感覚野の特定と要約をすれば、受容側の負担が減ります」
「それに一体どれ程の時間を要する!?」
「それは……」
 研究者は言葉を詰まらせた。
「……二時間以上は」
「よろしい、その作業は省略する」
「ですが!」
「やらせてやれば良いじゃないか!?」
 背後から、場の雰囲気に似つかわしくない、投げやりな声がした。
「総責任者はその人だ、我々はそれに従っていればそれで良い……」
 研究者の一人が立ち上がって抗議した。
「ですが今後に悪影響が……」
「知るか!」
 自暴自棄な彼の左胸に、アルベルトは人差し指を突き付けた。
「これは、科学者の会話だ。サラリーマンは御退席願いたい」
 アルベルトの指、顔を見る。冷めた表情で睨み付けると、彼は部屋を飛び出していった。
 自動ドアのぷしゅんっという音がしてから、部屋は妙に静かになる。

 アルベルトは何事もなかった様に話を続けた。
「今発現しなかったら、機会がなくなってしまう。時間が減れば減るだけ、成功する確率が下がる。一刻の猶予もない」
「……判りました」
 作業が開始された。



 現場監督者である筈の科学者は、独り実験室を抜け出し、喫煙室で煙を吐いていた。
「気分で人を馬鹿にしやがって、ガキかアイツは……」
 煙草をくわえてからの一息が長い。白い棒が見る見る灰になってゆく。短くなってしまったそれを、設置された灰皿があるにも係わらず、足元に捨て踏み潰す。妙に格好良いプリントが施された箱から、新しい煙草を取り出し、火を付ける。が、ふと我に返り、そんな自分が嫌になったのか、長いまま足元に捨てる。
 手すりにもたれ掛り、深呼吸する。しかし段々とイライラが募り、やはり煙草を取り出して吸う。
「盗んだ発明を、さも自分の手柄みたいに……。あー、糞! 気に食わん!」
 まだ長い煙草を、またも捨ててしまう。
「……武器庫のアレで、ブッ殺してみるかな」
 鼻の奥を鳴らして、下卑た笑い方をする。鼻が通ってないと出来ないこの笑い方が、彼のお気に入りだった。
 もう一度煙草を取り出す。
「あー……。最後かよ」
 何本も無駄にしてしまった事を後悔した。ここは喫煙室だが、煙草の自動販売機は設置されていない。ここの施設では、金銭のやり取りは購買窓口に限定されていた。
 彼は煙草に火を付けようとライターを口元へ運ぶ。心地よい火打石を擦る音と、ガスに火が付く音。煙草の先で赤い火を揺らしていると、焦げた様な妙な匂いが鼻を突いた。
 男はむせ、慌てて煙草の火を消した。
 最後の一本だというのに、不良品とは運が悪い。
 手すりによりかかって、深呼吸をする。不味いな、あの変な臭いが部屋に充満してしまった。
 中央にある排気筒の勢いを上げようと近寄る。
 不意にバランスを崩した。地面がぐにゃりと沈む感覚がした。驚いてその場を離れ、顧みる。

 床が円形に、焼けて切り取られていた。

 臭いはここから来ていたのだ。しかし何故こんな物が……。
 突如現れた床の蓋は、斜めにずれ、引っ掛かっていた。そのマンホールに剣が生える。切り口がジュウと焼け、二つに切り分けられると、穴から何者かがスルリと這い上がって来た。
 黒光りする肌に引き締まった肉体、豊満な胸はゴム質のタンクトップにぴったりと押さえ付けられている。右手に握られた古めかしい諸刃の剣からは、床の溶けた材質が滴り、床を溶断した余熱の陽炎が、中央の排気筒へ吸い込まれていた。

 黒豹の様な目をした女だった。

「武器庫へ案内して貰う」

 空っぽの煙草の箱を手から落として、男は硬直してしまった。



 少年は昏睡していた。
 夢を見ていた。訳の判らない、でもとても感慨深い。そんな夢。
 起きていた時の記憶が、脳の規則に従って、まるで意味を成していない様な意味を持って、整理されてゆく。

 老婆が語りかける。
「人は何故……」
 疑問を投げかける。
「人ってどっちの?」
 猫が目の前を通る。
 ベンチに座っている。
 眼鏡を掛けた男が、親しげに笑いかけている。
「両方さ」
 蔓が絡みついた家だ。
 恐怖が塊となって心臓の横に現れる。
 床を拭く。
 何度も拭く。
 何度も何度も拭く。
「復讐だ!」
 何度も何度も何度も拭く。
 しかし何度も汚される。
 そうか、鼻血が……。
 空から見た景色は何て素晴らしいんだろう。
 雲が明るい。音が聞こえない!
 恐怖が塊となって、目の前にいる。
 そこにいる!
 電子レンジを被った人間が……。
 手が……。
 手が汚れてる……。
 片目の潰れた老婆がこっちを見ている。
 聞きたくない。
 聞きたくない!

「あぁ……お前も……」






 うわぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!






 少年は目を覚ました。
 
 視界が急に明るくなる。
 天井の照明が眩しい。
 体は固定されていた。動けない。
 天井の光しか見えない。

「うぅぅぅ! 雲ぉぉぉ! 雲がぁぁぁぁ!!」

 少年は声変わりをした様な妙に低い声で叫んだ。少年の視界を、様々な映像が群れを成して飛び去って行く。その一つひとつが、抉る様な恐怖を与える。

「こんなもの……! こんなものを俺に見せるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 長い咆哮の後、天井の照明が次々に割れた。少年の腹に、ガラスの破片が降り注ぐ。
「成功です!」
 モニタールームに歓声が沸いた。
 少年が苦しむ最中、研究者達はお互いに抱擁し、握手を交わし、偉業を成し遂げた達成感に浸っていた。
「素晴らしい……」
 実験室にある機材が、次々に閃光を放って爆発してゆく。
「ついに……ついにやりましたね!」
 腹に括り付けられていたベルトが壊れ、少年は海老反りになって痙攣している。
「あぁ……しかしここまで凄いとは、驚きましたよ!」
 実験室内にもうもうと黒煙がたちこめる。
 火災探知機が反応して、スプリンクラーが作動する。そのスプリンクラーも、閃光を放ちノズルを落として壊れた。勢いを失った水がどぼどぼと床に注がれる。
「流石、世紀の天才科学者だ!」
 モニタールームに再度、歓声が沸く。しかし、アルベルトはその世辞が嫌いだった。独り冷静に、指示を出す。
「いつまで繋げている。接続を切れ」
「あ……はい!」

 夢が止まった。

 そう思った瞬間に、体中に悪寒を覚えた。
 口の中がジャリジャリと砂を噛んだ様な感覚がする。生臭い。
 目の前の色が次々と変わる。赤、黄色、赤、グレー。
 小便と大便とミミズが混じった様な臭いと、右の腰の鋭い痛み。
 最後に世界が一回転して、体は急に現実に放り投げられた。

「キャピラリー、脳内から摘出しました」
「接続端末、脱落」
 後頭部でゴトンと何かが落ちる音がした。
「頭部、四肢の拘束はどうしますか?」
「どうせ破壊される。解除しろ」
 体中の自由を奪っていた全てがなくなった。
 少年はずり落ちる様に台から降り、余りの気持ちの悪さに嘔吐した。
 ざらついたスイッチ音の後に、枯れた声が響く。
「気分はどうだ」
 辺りを見回す。ガラス張りの壁の向こうに、白衣の人間がこっちを見ていた。
「へ……へへへひひ、気分だぁ?」
 ふらふらと、台に掴まりながら何とか立ち上がった。
「見てよ! 僕、壊れちゃったよ!」
 うふふ、と嗤いながら、天井から注がれる滝へと歩く。
 急に頭を抑えてガラス張りの壁に向かって指を振る。しかし、部屋全体には遮蔽が施されており、攻撃は届かない。
 何事も無かったかの様に再び歩き出し、水浴びをして、顔をこする。長い金の髪を、手櫛で後ろへ流す。
「あはは、感覚がない」
 ざらついたスイッチ音。
「麻酔を打った。数時間は皮膚の感覚がないだろう。いずれ戻る」
 後頭部をまさぐってみる。穴が開いていた。
「脳みそドロドロ~」
「拘束出来る環境が必要ですね」
「この場所はもう使えないでしょう」
「ヒッグス緩衝遮蔽内部に閉じ込めておかないと、能力で脱出されてしまいます」
「判った、作っておこう。それまでは、この中で……」

 突如、全ての電源が落ちた。

 閃光が走る。ガラス張りの壁の割れる轟音がする。
 四方八方で閃光が走る。光源は人。
 光る度に何かが壁に衝突する。
 鈍い音、人々の絶叫。
 そのフラッシュの中、悠々と少年が歩いて来る。
 真っ直ぐに。
 アルベルトに向かって。

 静寂の中、電源が回復した。

 目の前のガラスは大破し、分厚い透明な破片が辺りに転がっていた。一人、腹にガラスが突き刺さり、死んでいる男がいる。壁は血まみれになっていて、その下には必ず肉の塊が転がっていた。
 立っている人間は二人。
 血塗れの少年は、鷲鼻の男を虚ろな目をして見上げていた。

「頭の中に誰か居るんだ。だから、お前を殺してやる。外へ」
 腕をゆっくりと挙げ、アルベルトを目標に、振りかぶる。
「判った! 外へ案内するッ!」
 虚ろな目のまま、腕はゆっくり下がっていった。

     


続きます

       

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