Neetel Inside ニートノベル
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アンチヒーロー・アンチヒール
3-4 灰は灰に、塵は塵に

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「……まあ、怪人になった経緯はそんなところだ」
昔話を一旦切って、現在へ戻る。
想定外の話だったのか、聞き入る四人の表情は葬式のように沈みきっていた。『バスター』に至っては涙を流している。傭兵の目にも涙、か。
戦争に関わってる連中だからこんな話慣れっこだと思ったが、案外そうでも無かったらしい。

「……安い言葉だが……大変、だったな」
どうにか『ファング』が呟く。
「まあ、それなりにな」
「……悪かったね、思い出させちゃって」
『ブレット』すら気を遣って来る。
「構いやしねぇさ」
「……カイトよぉ、お前は悪くねぇからな。悪いのは全部お前を改造した糞ったれ野郎だ。あまり自分を責めるんじゃねぇ」
『バスター』は目を腫らして俺に諭す。
「ああ……そうかもな」
「……なんかすいません、そんな事も知らずに小さい事で泣き言言って」
『ウォッチャー』は自己嫌悪に陥ってしまっている。
「いや、お前は普通に泣き言言っていいだろ」
感覚が麻痺しすぎだ。

雰囲気が重い。
俺はベル子を呼んで、コーヒーをもう一杯づつ持って来るよう頼んだ。
話を戻す。長くなってしまったので、大雑把に語る。
「その後、色々あってその研究員、蜷川(になかわ)と『アフターペイン』……組織名だ。
その奴らを全員皆殺しにしたまでは良かったが、俺の体は元には戻らなかった。
既に『病気』は俺の体に根付いて、すっかり手遅れになっていたってわけだ。
俺は定期的に殺人を犯さないと衝動を制御できなくなり……無差別に誰でも殺すようになる」
「だからああやって……殺して、いたのか。悪人を」
「そう言う事だ。蜷川の野郎に脳をいじられようが、『殺したい』って言うのは間違いなく俺の意思だ。俺は俺の意思に背くつもりはねぇ。我慢することなく、楽しんで人を殺す……が、どうせ殺すなら、遠慮なく殺せる奴を殺したいんでな」
「今までずっと、それを繰り返してきたのかよ……」
「ああ。素手で人間を殺した数なら、そこらの軍人やテロリストの比じゃねぇかもな」
「いや、軍人だって素手で殺す事はほとんどないと思いますけど……
と言うか、そんなに悪人がいたことに驚きっすね」
確かに、今にして思えばこの世界は荒みに荒んでいる。
いないよりはいた方がこっちとしては助かるから、別に構わないが。
「まあ、大部分は海外の奴らだからな」
「どうやって悪の組織を探したの?」
「最初は『アフターペイン』からある程度関連するグループを手繰っていった。
系列企業をあらかた壊滅させ、さあどうするかと思った所でスカウトされたんだ。
悪の組織に、な」



「え?」
「ん?」
「は?」
「何て?」
ワンテンポ置いて、全員が聞き返してきた。
まあ、予想通りのリアクションだな。

「『灰塵衆』。トップのジジイが『悪の組織は我々一つだけでいい』って理念でな。
従う奴らは傘下に置いて、逆らう組織は皆殺し。利害の一致により、俺はその組織に参入したわけだ」

「悪の組織を滅ぼす……」
「悪の組織、ってか……」
「なんかそれだけ聞くと慈善団体みたいだね」
「まあな。実際問題、ジジイは特に野望は持ってなかったな。単に好き勝手する悪の組織が嫌いなだけで、悪事にはとんと興味が無いときた」
「皆殺しって……強いんすか? 失礼な事言うと、過激派の平和主義者って、なんか微妙なイメージが……」
『ウォッチャー』の世間知らずにも程がある言葉を聞いて、俺は笑みをこぼす。







「恐らく、これまで地球上に存在した全ての団体の中で一番強い」






「そ、そんな大袈裟な……」
「いや、わからねぇぞ。こいつがいたくらいだからな」
『バスター』は顎で俺を示す。
「そんな無茶な自浄組織があったら、悪の組織なんてあっという間に無くなっちゃうんじゃないの?」
『ブレット』も半信半疑と言ったところだ。
「まあな。実際、五年後には悪の組織はほぼ全滅して『世界征服』完了の予定だったらしい」
「らしい?」
聞き返す『ファング』の言葉に、俺は頷く。
「ジジイが病気で死んだ後に内部でゴタゴタがあってな。
『灰塵衆』は名前だけ残して別組織に変わり、俺もクビを切られた」
物理的にも、切られかけたな。
「へー。じゃ戦力大幅ダウンだ」
「……前に比べりゃな」

まあ、俺が抜けたところで序列は変わらないだろう。
『四枚刃』が二枚欠けても、三枚欠けても、構成員が『あいつ』一人になったとしても。

『あいつ』がそこにいるなら、『灰塵衆』に勝てる者はいない。

レイジには「上には上がいるもんだぞ」と笑われたが、あの馬鹿は『あいつ』の強さを知らないからそんな事を言えるんだ。



「……で、無職になって今に至るというわけだ。悪の組織の情報なら、昔と違ってツテもあるしな」
「なるほどねぇ……」
話が一段落したところに丁度、ベル子がコーヒーを持ってきた。
今度は、最初からまともなコーヒーを淹れてきたらしい。俺はそれを一番に啜る。
それぞれカップを口に運ぶ中、猫舌の『ウォッチャー』が空いた口で疑問を述べた。
「あれ、そう言えば……女の子はどうしたんすか? 最初に誘拐された子は……」

……はぁ。
俺は深く深く、ため息を吐き出した。
そういや、そんな事も言ったっけな。面倒だ。

「ああ、あいつは死んだよ」

そう、っすか……と『ウォッチャー』は苦い顔をした後、間を持たせるためか、まだ熱いコーヒーを冷まそうと試みた。
やれやれ、気が利かない店員だ。
「ベル子、一人分アイスコーヒー持って来い」
「あ、どーも。ありがとうございます」
俺が注文するとベル子は、聴力の敏感な俺にだけ聞こえるような小声で呟き、奥に引っ込んで行った。








「死人はアイスコーヒーを持って来れませんよ」

       

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