Neetel Inside ニートノベル
表紙

アンチヒーロー・アンチヒール
4-4 月下の死神

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 「怪人……? ネオヒューマンズにはあんなタイプはいなかったはず……」
 呟く彼女の声に、驚きこそあれ恐怖は窺えない。
 痺れる身体に鞭を打ち、俺は這うように半回転した。
 視界に入ったのは案の定と言うべきか、例の黒い怪人だった。体中から煙が漏れ、黒こげになっているようにも見える。
 その表情は読み取れないが、あまり上機嫌じゃないであろう事は間違いない。
 「ニナカワ式……あの爆発に巻き込まれても無事だなんて、随分頑丈ね」
 「お褒めに預かり光栄だ。好きになっちまいそうだぜ」
 とは言っているが、その声には明らかに怒気が含まれている。
 
 まずい。殺されるぞ、彼女……!

 俺の心配とは裏腹に、彼女の余裕は崩れなかった。
 「あら、両思いね。私も好きよ、お金になりそうな人は。あっちじゃニナカワは扱ってないって言ってたけど、ついでに貴方も頂いておきましょう」
 言うと同時に、背後……真っ暗な森の中に数人の人影が浮かび上がってくる。
 現れたのは四人。それも、全員が怪人だ。
 紺を基調とし、忍者をモチーフにしたであろうスーツを纏った連中は、それぞれ手に脇差を構える。
 と、同時に脇差が黄色に発光、聞き覚えのあるバチバチと言った電流の音を発し始めた。
 「そこの(と言って俺を顎でしゃくる……屈辱的だ)白金くんには及ばないけど。痛い死に方したくなければ降参も受け付けるわ……どうする?」
 ふふん、と彼女は鼻を鳴らす。
 怪人達は一言も喋らずに次の句を待っていた。既に彼女と組織のコネクションは確実なものになっているようだ。

 状況は、漆黒の怪人にとってかなり厳しいものだった。
 爆発に巻き込まれ疲弊している状態で、怪人四人と相対している。
 敵の武器――スタンブレード、とでも言おうか――は、見る限り、掠るだけで相手の身体に電流を流し込むのだろう。
 そして、恐らくその電圧は彼女の持ってるスタンガンと同じかそれ以上。ほぼ間違いなく、身動きが取れなくなるはずだ。
 普通に考えたら勝ち目は無い。

 だが。
 この漆黒の怪人の暴虐を見た者に、『普通に考える』事などできるのだろうか。



 「OKOK、大体事情は察した。そこまで言われちゃ仕方ねぇ――







 ――少し、本気を出してやるよ」


 心拍数が上がるのがわかった。
 一つの未来が今、確定された。

 数分後か数十秒後か、早ければ数秒後。
 この四人の怪人は、見るも無残な……死体のような何かとなっているだろう。 


 漆黒の怪人は右手を自らの左胸に突き刺し、痛む素振りなど微塵も見せずに唱える。
 「システム起動」
 と。

 「……? 既に変身してるのに、これ以上何かあるって言うの……?
 ……敵対意思は確認できたわ。やっちゃっていいわよ」
 指示を出すされると同時に、四人は散開する。
 目にも止まらぬ動きで、二人が側面から背後に回ろうとし――


 









 「『サイコ・プレッシャー』」





   ・・・・・ ・・・・・・
 ――次元を一つ、落っことした。

 


 「……?」
 残る二人の怪人が急停止して、固まる。
 余裕の表情で遠くから見物していた彼女の表情が、固まる。
 一部始終を見ていた俺の思考が、固まる。
 確かにこの瞬間、時間は停止していた。
 

 「何……消え……」
 彼女が、視界から消失した二人の怪人の行方を、捜す。
 そしてすぐに、見つけた。
 彼等が立っていた場所の、地面に。赤い水溜りのようなものができていた。
 「え? あれ……潰れ……」
 彼女の顔が、見る見る青くなっていく。
 完全にとはいかないものの、状況を理解してしまったらしい。


 漆黒の怪人が一言呟き、前に突き出した掌を倒した瞬間。
 何か、凄まじい力によって『平面にまで押し潰された』のだ。
 残ったのは、地面にできた赤い染み、だけだった。 

 「か、確保を」
 彼女がどもりながらそこまで言うと、怪人二人は我に帰り漆黒の怪人目掛けて突進する。
 当てれば勝ち、と言う事実に変わりは無い。最短距離を最高速度で一気に駆け抜けようとする。

 だが、それらは全て、漆黒の怪人が再び胸に右手を突き立てた後の行動だった。

 親指を下にして右手を左肩まで運び、空間を引き裂くように。
 ゆっくりと腕を開いて、一言。



 「『サイコ・スラッシャー』」


 
 音速にも迫る速度で接近する、二体の忍者型怪人。
 あと五歩で、その刃の切っ先が届く。と、言った所で――
 

 足首から下が、切り離される。
 続いて、膝が。
 足の付け根が。
 腹が。
 胸が。
 首が。

 だるま落としが崩されたかのように……輪切りになって、一列に地面に並ぶ。 
 手に持っていたスタンブレードが、あと10cmの距離で、虚しく地面に放電した。

 
 言葉が出なかった。
 もはや恐怖もほとんど感じない。
 何の感情なのかもわからないが、俺の顔には確かに、笑みが浮かんでいた。

 「クサナギ、式……? 嘘……そんな、だってどう見ても……ニナカワじゃ……!?」

 最初の余裕の欠片も、今の彼女には存在しなかった。
 俺の予想すら遥かに上回る結果。彼女からしたら、100%起こりえない事象であったに違いない。
 


 「軽い念動力(サイコキネシス)が使えるだけだ。大した事でもねぇよ。


 ……で、お前はどうやって死にたい?」
 
 
 紅茶とコーヒーどちらが好みか聞くかのように、気軽に。
 死神は、死と言う確定事項を首元に突きつけてきた。 

       

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