Neetel Inside ニートノベル
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アンチヒーロー・アンチヒール
5-2 疾風少女②

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 『春海はな、何であの親父とお袋からあんな超級美少女が生まれたのかわからねぇ。俺にも全く似ちゃあいない。突然変異だ。もしかしたらどっかの女優の娘でもかっぱらってきたのかもな。世界三大美女に選ばれてないのが不思議でならねぇ。ありゃ出来レースだ。
 性格もだ。自分を江戸っ子か何かと勘違いしてるオヤジと肝っ玉母ちゃん気取りのババア、当然俺なんかとも共通点が見当たらねぇ。ありゃきっとどこぞの貴族の末裔だ。育ちが違う……育ちは同じか。まあ、どこに出しても恥ずかしくない大和撫子だ。その上なんと頭も良くてな……』
 
 井之頭春海。
 七年前に死んだはずの、誰より彼女を愛する人の手で殺されたはずの、生きていれば私と同じ年齢の女の子。
 そう。生きてさえいれば。
 「大丈夫、君? 怪我とかしてない?」
 心配そうに顔を覗かれ、私はハッとしました。
 「あっ、はい……大丈夫です」
 「なーんで敬語なんだよ。あたし一年だよ?」
 春海ちゃんは苦笑しながら弁当箱を拾い上げます。
 
 柏木春海。
 カイト君の偽名である柏木姓でありながら、カイト君の実妹の名前と同じ春海の名を持つ少女。
 そっくり瓜二つとは行かないまでも、その顔立ちは彼を連想させるものがあります。
 「いえ、これが普段通りなので……助けて頂き、どうもありがとうございます」
 「いいっていいって。あたしが頭に来たから蹴り飛ばしただけだし。殴りたい奴は殴る。それがあたしの信条なり!」
 そこそこ大きい胸を張って豪語する春海ちゃん。
 おしとやかからは遠くかけ離れたその性格も、カイト君に近いものがあるのは否めません。
 もっとも、彼女はカイト君よりずっと社交的に見えますが。
 
 偶然にしては、出来すぎています。
 彼女は、実は生きていたカイト君の妹なのでしょうか? それとも……
 彼女の正体がわかるまでは、警戒をしておいた方がいいのかもしれません。

 「あー、ひどいねこりゃ……」
 雑草がトッピングされたお弁当を見て、彼女は顔をしかめました。
 丁寧にそれを取り除き、服で手を拭い、まじまじとお弁当を凝視しています。
 「肉多っ! どれどれ」
 「あ」
 ひょいぱく、と春海ちゃんは肉を一口食べてしまいました。
 「うん、おいしい。大丈夫大丈夫……と言ってもあまり食べたくないか。じゃあたしのお弁当と交換する? コンビニで買って来たものだけど」
 「いえ、私はそれで大丈夫です。ありがとうございます」
 「そう? ならいいけど。じゃ一緒に食べようか。この学校屋上とか入れるの?」
 人懐っこい笑みを浮かべて歩き出す春海ちゃん。 
 私を騙しているようにはとても見えません。見えませんが……。
 とりあえず今はご飯を食べるために、屋上へと向かう事にしました。
 
 「ところでそれ、何の肉? 豚じゃあないよね?」
 
 「……」
 何の肉、と言われましても……。
 その……。

 「も……猛獣の肉です……」
 「猛獣!? 猛獣って!?」
 「ライオンと……狼? のハーフ……的な……?」
 「猛獣すぎる……!!」
 嘘は言ってません。あれは紛れもなく猛獣です。
 そういう事にしておきましょう。
 



 「そう言うわけで、転校初日にして昼飯をしっかり食った上で大遅刻と言う舐めた真似をしてくれやがったこいつが転校生だ。おい、挨拶しろ」
 「柏木春海でーす! よろしくっ!」
 案の定と言いますか、彼女が編入してきたのは私と同じクラスでした。
 帰りのHRで転校生を紹介すると言う珍事態に、担任で元ヤンの目白先生は怒り心頭のご様子です。
 「空いてる席なんざねぇ。二つ隣の空き部屋から適当に机持ってきて後ろの方にでも座っとけ」
 「はーい」
 言われて教室を出ていく春海ちゃん。机を持って戻って来て、私の隣のスペースに配置しました。
 ちなみに私の席は真ん中一番後ろ、春海ちゃんはその左、窓側から二番目の位置になります。
 「よっす、鈴奈ちゃん」
 「どうも。奇遇ですね」
 「そうだねー。ま、仲良くしてね……あ」
 反対側の席にいた男子にふと目をやり、話しかけます。
 「よう、食パン咥えた在校生」
 「……げ、お前はさっきの怪力見せパン女!?」
 「だぁれが怪力見せパン女だ! 痴女かあたしは! パンツはアンタが伏せて下から覗いたんでしょ!」
 「お前が僕を撥ね飛ばして踏みつけておまけに食パンまでぶん取ってったんじゃないか!!」
 「踏んだとはわざとじゃないよ」
 「食パンは!?」
 「いや、お腹空いてたから……」
 「うっせーぞてめぇらァ!! 今はHR中だ!!」
 先生の激が飛んで来ました。
 ノーモーションで放たれたチョークも一緒に飛んで来ました。
 春海ちゃんは二本指で悠々とキャッチ。隣の男子は人中に寸分違わず命中し、酷く悶えました。
 「な、何で僕まで……」
 机に突っ伏して震えているこの男の子は、確か服部 討郎(はっとり うつろう)君です。
 気弱で、部活にも入らず、まともに友達もいない。まるで私のような学生ですが、同族だからと言ってあまり喋る仲でもありませんでした。
 「ま、よろしくね二人とも」
 小声でウインクする春海ちゃん。
 私と服部くんは目を合わせ、遠慮がちに会釈をするのでした。

       

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