Neetel Inside ニートノベル
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アンチヒーロー・アンチヒール
5-4 一の刃

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 まさか、こんな少女が悪の組織最強と謳われる灰塵衆の一員、それも幹部だとは思いもしなかった。
 俺の思考を読んだり、目に見える程の強い殺気を飛ばして来たのも、その力の片鱗と言うわけだ。
 俺とは異なる意味で人形のような、可憐な少女が。
 「肛虐の黒淫姫」
 なんとなく浮かんだ言葉をポツリと口に出す。
 「で、今お前に意味不明なキャッチフレーズを考えたこいつがレイジ、ここの店主だ」
 「なぁカイト、このド変態殺したらあかんの?」
 フナムシでも見るような蔑みの視線で、肛虐の……じゃなかった、ヒナ子ちゃんがこちらを睨む。
 俺はおふぅ、と変な声が出そうになるのを必死で堪える。
 そんな紅い目で見つめられると俺はもう……陰部がレヴォリューションを起こしそうだ。
 「喜んで貰えて嬉しいわ。ほな死ね」
 額に青筋を立てて、彼女は殺気を俺の股間へと向ける。この娘、俺を色んな意味で殺す気だ。
 くそう、俺は彼女を救うこともできずにこんな所で悟り関西弁ゴスロリ百合っ娘に股間をいじられて昇天してしまうのか……
 ごめん、ごめんよ……俺だって悔しいよ……でも感じちゃう……
 「やめろやめろ。そいつはもう女にならほぼ何されても喜ぶレベルの変態なんだ。構うな」
 「失礼な。俺は可愛ければ男だって余裕で入れたり入れられたりできるぞ」
 「な?」
 「むぎぎぎぎ……」
 ヒナ子ちゃんは苦虫にディープキスを食らってるような表情で机をバンバンと叩き始めた。
 「それに、一応そいつは恩人だ。俺とベル子のな。そいつが死んだらベル子は悲しみはしないが空腹に困るぞ。わかったらもう存在を無視しろ」
 「……もうええわ。こいつの心は一切読まんようにする」
 ペッ、と唾を床に(店内である)吐き、深呼吸を2回し、手で自らの頬をこねて表情を元に戻し、カイトに向き直るヒナ子ちゃん。
 唾どうしようかな。後で舐めようかな。
 「そや、あれや。カイトあんた、『ナンバーズ』って知っとる?」
 「ナンバーズ? いや、聞いたこと無いな」
 「ここんとこな、少し話題になってきとるんよ。悪の組織を襲う、全身真っ黒のニナカワ式グループなんやけど」
 悪の組織を襲う、真っ黒のニナカワ式怪人と言えば、俺は一人しか思い浮かばない。
 まあ、怪人に詳しいわけではないが。真っ先に出てくるのは……
 「……なるほど、俺と何か関係があるんじゃないかってか。残念だが俺は関係ねぇよ」
 「まあ、あんたは部下とかほっぽって一人で暴れるからなー。うちに喧嘩売るなら徒党組んだりはせんね」
 「は? 灰塵衆も襲撃食らったのか?」
 「灰塵衆ってか、私な」
 ヒナ子ちゃんは自分を指さしながら言う。
 どうでもいいが俺は完全に蚊帳の外だ。コーヒーでも淹れようか。
 そう思い席を立った瞬間、動きを察知したカイトから無言の圧力がかけられる。
 おとなしく俺は冷蔵庫から缶コーヒーを取り出し、彼女の前に置いてカウンターへと戻った。
 怪訝な顔をするヒナ子ちゃん。
 「……なんで缶コーヒーなん?」
 「気にするな。話を続けろ」
 「喫茶店入って缶コーヒー出されたの初めてやわ。そんでな、えっと……」
 「お前が襲われたんだろ」
 「そやそや。オフの日に人通りの無い道を歩いてたら変な気配が三つあってな。ちょいと心読んだら、私をさらおうとしてたんよ」
 「お前を拉致か。そりゃ三人じゃ無理だろ」
 「私もそう思ってたんやけど、それが予想以上に強かったんや。私と大差無いくらいにな。一対一ならまあ勝てるんやけど、三人相手は正直、勝てんわ」
 「そんな奴が何人もいんのか。じゃあどうしたんだよ。負けて洗脳食らって、今はナンバーズの一員ですってか?」
 「いやな、これはたまたまなんやけど。その場所センの家の近くだったんよ」
 セン? センとは何の話だろうか。
 誰かの略称か?
 「あー……そりゃ敵にとっては運の悪すぎる話だ」
 「ほんまあの時は助かったわー。咄嗟にテレパス送ったら出てきてくれて。留守だったら泣いてたわ絶対……。
 そんでな、まあ関係無いならええんやけど、カイトも気ぃ付けやって思てね」
 「おう、悪いなわざわざ」
 「まあ本当の目的はベル姉に会いに来たんやから、ついでや。あとカイトがいなくなった後の四枚刃なんやけど……」
 「タイムタイム」
 別の話に変わろうとした所で、俺が話に割り込む。
 第三者が聞いてると、今の話は重要な所を飛ばしていたように思えたのだが。
 「何だよ?」
 「何なん?」
 「センさん? に助けを求めたのはわかったんだけど、それでどうしたの?」
 「は?」
 「はい?」
 二人からは「何言ってるんだこいつ」とさっきから思われているようだが、俺からすると納得がいかない。
 「だからさ、灰塵衆で上から何番目か……三番目? に強いヒナ子ちゃんと同じくらいの敵が三人だろ?
 対するこっちはヒナ子ちゃんとセンさんの二人。これでもまだ不利なんじゃあないのか?」
 俺の問いにヒナ子ちゃんは眉をひそめる。
 「不利なわけないやん。センがいて負ける状況言うのが知りたいわ」
 続けて、カイトも呆れ笑いをしながらコーヒーを一口入れる。
 「だな。例えナンバーズが百人がかりで来ても勝ち目は無ぇよ」
 「誰が言ってたんやっけ、異世界から来た邪神を叩きのめしたってのは?」
 「どーせ双道のバカだろ。俺が聞いた話だと恒星級の隕石をぶった斬ったっらしいぞ。あのアホはどっからそんな話思いつくんだ」
 「あー、そやそやフタミチ。あいつも四枚刃になったんよ。あんた抜けてから」
 「へぇ、あいつがねぇ……まあ、俺の部下の中じゃあ頭一個抜けてたが。でもあいつバカだぞ」
 「知っとる。センに斬られたカイトの腕を回収して、シュターゼン式に使えるように改良して通販で売ろうとしてるもん。魔剣シリーズとかなんとか言って」
 「そうかそうか。よしぶっ殺す」
 「たまには顔出しぃよ。センも寂しがってるで、『最近ダルマにする相手がいない』って」
 
 内輪トークで盛り上がる二人をよそに、俺は釈然としないものを感じていた。
 カイトやヒナ子ちゃん程の強者が苦戦する怪人を何人も相手にして、勝って当然と言った扱い。
 そんな奴が、この世に何人もいるのだろうか。
 ……いや、まさかな。

       

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