Neetel Inside ニートノベル
表紙

アンチヒーロー・アンチヒール
1-2 その男、手遅れにつき

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 パシュ、パシュ。
 か弱い音と同時に、両の臑に鋭い痛みが走った。
 銃声にしては控えめの音量だが、亜音速で発射される45ACP弾は決して生易しい威力ではない。こと近距離においては尚更だ。
「ぐっ」
 両足に正確に一発づつ撃たれ、俺は片膝をついた。
 さすがの俺も、銃弾を避けるのは厳しい。
「おいおいどうした正義の味方。もう終わりか?」
 黒服Aは余裕を持った口振りで言うも、銃は構えたままだし歩み寄ってくることもない。
 こいつの方は中々冷静だ。
「ぶっはっはっは! なんだそりゃ、馬鹿かてめぇは!」
 大笑いして近づくるもう一人よりは確実に仕事ができるだろう。
「正義の味方じゃねぇ、っつの……」
 悔しげな表情を浮かべて迂闊な方を睨む。
 馬鹿で迂闊な方の黒服は大股で俺の真ん前まで歩いてきて、胸ぐらを掴みあげる。大柄なせいもあって俺は簡単に持ち上げられた。
「いやいや、子供を見事助けたんだ、立派なヒーローだよ。もっとも、馬鹿は否定のしようがないがな!」
 右頬に一発、拳を貰う。
 いたぶってるつもりなのか知らないが、正直こいつの方はあまり強くない。が、痛そうなそぶりを見せておく。
「ぐはっ……ハァ、ハァ……へっ、こんなパンチじゃガキも殺せないぜ……」
「そうかい」
 強がりにしか見えないのだろう。笑みを崩さずにもう一発を振りかぶり、ガキも殺せないパンチを打ち下ろす。

「待て」
 が、やっと銃を下ろしたもう一人がそれを制止する。
 助かった。
 これ以上茶番を続けていたら吹き出すところだった。
「おいヒーロー、どこで俺たちの事を嗅ぎつけた。誰かに聞いたのか?」

 ここは本当なら、
「へっ……教えられねぇな……」
 とでも言うところだが、馬鹿のパンチが来るのがとても恐ろしいのでだいたい正直に答えることにした。

「……有名なんだよ。連続児童消失事件。家出なのか誘拐なのかも不明だが、身代金の要求などは一切無し。捜索隊も出動したが誰一人見つかっていない……警察も手をこまねいている状況だ。俺は独自に調査した結果、悪の組織とやらがここらにいると言う情報を掴んだんだ」
「なかなか優秀な探偵と言ったところだ。で、張っていたと言うわけだな」
「言えッ! 子供達をどうしたんだ!」
 必死の形相で怒鳴り立てる俺。その態度に迂闊な黒服は舌打ちをかます。
「立場がわかってねよぉだなぁ…! 自分の心配をしやがれ!」
 さっき銃弾を受けた臑を蹴り上げる。
「ってぇ!」
 と思わず口に出てしまった。
 今のは素だ。この野郎……。
「子供をどうしたと思う?」
 冷静な方が問いかける。
 俺は意図的に息切れをしながら、考え始めた。妥当なのは……。

「…………洗脳、か?」
 悪の組織の常套手段だ。
 組織に忠実な戦闘マシーン。各業界に送り込む絡み手。使い捨てがきく人員確保と言う点ではかなり効果的だな。
 もっとも、設備や専門家を揃える資金や育成する時間が必要なために、中小のとこは中々手を出せないのが現実だ。
「ははは、洗脳ときたか! いかにも現実を知らない素人の考えそうなことだ!」
 馬鹿は馬鹿みたいな(と言うか馬鹿そのものだ)馬鹿笑いで俺のことを馬鹿にしてきやがった。

 ……誰に向かって口を利いているのだろうか。いやー好きだよ、お前みたいなの。
 対照的に、冷静な方は口元を僅かに吊り上げて微笑った。



「売るんだよ、ガキを。解体してな」
 ……なるほど、そっちか。


「解体、だと……! お、お前等、子供をなんだと思ってやがるんだッ!!」
 鬼気迫る表情で俺は叫んだ。ちなみに答えは言うまでもない。
 黒服達は互いに顔を見合わせた後、笑って答える。



「金づる?」
 だろうな。


 金目的でリスクの高い人身売買をしていると言うことは、あまり資金に余裕の無い中小の可能性が高い。
 もしくは、子供の売買そのものが目的の組織か……ま、どちらにせよ潰すには十分すぎるな。

「この外道共め……地獄に堕ちろッ!!」
「おいおいそんな怒るなよ。生きたまま引き渡す時もあるぞ……結果は多分一緒だがな」
 冷静な方も俺の反応に満足したのか、楽しそうに笑っている。
「助かるぜ、臓器が目的の客はよぉ! いくら痛めつけようが犯そうが、中身に影響無けりゃどうでもいいんだとよ! おまけに高給ときたもんだ! 子供ガキ大人オレらの、最高の玩具おもちゃだぜ!」
 下卑た笑い声を上げて馬鹿が喚く。俺には怒りに身を震わせる素振りしかできない。
「ちくしょう……ちくしょう……お前達……ッ!」

 ああ、大好きだよ。お前達。

「お前達のアジトはどこだッ! ブッ潰してやるッ!」
「心配しなくても連れていってやるよ。値段は落ちるが、ガキの身代わりに金になるんだ。泣かせるじゃねーか! なぁヒーロー!」
 ひとしきり笑った後、鞄から注射器を取り出した。中身は筋弛緩剤か睡眠薬あたりだろう。

 ――さて、こいつの顔も見飽きた。そろそろいいだろう。二人いることだし。
 俺は右足を高く振り上げ、ゆっくりと馬鹿の首にかける。
「おいおいなんだそりゃ、抵抗のつもりか?」
 馬鹿は気付かない。冷静な方は気付く。
「おい、何で撃たれた足が――」
 手遅れだ。














     しゃりん――







 高音が夜を斬った。
 まるで馬鹿が移ったかのようにぽっかりと口を開けている、冷静な黒服。
 俺は足に乗せたボールで二度三度リフティングをした後、そいつにパスしてやった。
 パスは胸に当たり、地面に落ちて転がる。そしてそのボールに黒服が目をやると。








 ボールと『目が合った』。



「う、うわああああああああああああ!!!!」
 冷静さはどこへやら、悲鳴を上げて後ずさりながら俺に残弾を乱射する黒服。
 一発、外れ。
 二発、頭。
 三発、首。
 四発、頭。
 五発、外れ……
 はい、弾切れ。
 俺は撃たれた所から出血しながら、一歩に一歩と歩を進める。 
 さすがの俺も、『この姿では』銃弾を避けるのは厳しい。
 銃弾を受けるのは痛いが、大したことは無い。

 ふと転がったボール……もとい生首に目をやると、元気にまばたきをしている。どうやらまだ意識があるようだ。ふむ、本日の蹴りは中々キレがいい。
 俺はその顔面に足を乗っける。
悪人おまえら悪の敵オレの最高の玩具おもちゃだな」
 そして、ゆっくりと体重をかける。硬い地面と挟むように圧力を加える。徐々に、強く。
 足の下では玩具が、裸で地獄に飛び込んだような面白い表情をしていた。
『みしみし』と軋んだ音はやがて『べきべき』に変わる。声を出せない哀れな生首は、断末魔の叫びを上げることも許されない。
 そして、











               ばきょん



 と言う間抜け極まりない珍音を響かせてパンクしてしまった。
「はっはっは! 聞いたか今の音! 『ばきょん』だぜ『ばきょん』! 死んだ時の音が『ばきょん』て! 情けなさ過ぎて涙が出そうだ!」
 そうだろ? と俺は血まみれの顔で残った黒服に笑いかけた。
 よっぽど面白かったらしく、ガタガタと震えながら泣き笑いをしている。
 俺は改めて、黒服の全身を注意深く観察し始めた。
「服は黒のスーツ。マスクは無し。強化改造有り。拳銃M1911を所持。耳に無線機は無し。活動内容は主に人身売買……うーん、わかんねぇな、どこだろ」
 まあ、中小っぽいしすぐに潰せるか。
「何だ……なんなんだよッ、お前はァ!?」
 悪人に襲われたガキのような怯え切った声。よほど怖かったらしい、その場にへたり込んでしまった。

「あれ、さっき言わなかったっけ。
 俺は糞ガキの前では正義のヒーロー・ロクゲンレッドで、
 仮面を脱いだら謎の連続児童消失事件を追う名探偵で、
 元『灰塵衆』第二連隊長にして最高幹部『四枚刃』が一人、『殺戮病』トゥー・レイトの異名を持つ男で、
 悪人おまえらで遊ぶ悪の敵で、
 悪党に名乗る名前があるとしたなら、柏木壊人(かしわぎかいと)23歳だ。

 さ、アジトへ連れて行ってくれ」

       

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