Neetel Inside ニートノベル
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アンチヒーロー・アンチヒール
6-6 あいつのようにな

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『衝動』。
 霰は言っていた。『魔剣』のオリジナルである柏木は、人を殺さないと死んでしまうらしい、と。
 そして、殺戮者にしか扱えないシステム。真っ当な人間の持つものではない理由……。
「……人を、殺したくなる。そういう事か?」
 頷く羽々斬。
「『魔剣』を手にしただけならそれで済むかもな。性格は暴力的になり、人殺しの抵抗が和らぐ程度の些細な変化だ。
 ……だが。『魔剣』の真価は無音の世界への入り口。お前が柏木のエセ超能力に対抗できる、唯一の手段だ。
 柏木みたいに縦横無尽に駆け回ることはできないが、超反射の制限時間は倍の約二十秒。至近距離クロスレンジの攻防なら、優位ですらある……」
 付け足すように、桝田が右手を俺に突き出して言う。 
「発動に必要なのは、意思と言葉。

 ――『魔剣抜刀』。それがトリガーってわけ」

「魔剣、抜刀……」
 目の前にあるのは、話を知らなければ何の変哲もない、筋肉質な腕にしか見えない。
 見えないが、それ故におぞましい。
 何人も、何十人も、何百人も、何千人も――
 武器を使わず、自らの腕で屠ってきたのだ。あの化物は。
 奴の腕、そのものが武器であり、魔剣である、と言うわけか。
 ……いや――

 一振りの魔剣と言うなら、奴の生き方そのものがまさにそれだろう。

「何故、それを俺に……?」
 当然の疑問をぶつける。
 俺は灰塵衆に何の益ももたらしていないし、これからもたらすことも恐らくないと言える。
 柏木を倒すためなら、外様の俺でなくてもいい。四枚刃にして魔剣持ちの桝田なら、対抗できないと言うわけでもないだろう。
 俺の言いたいことを汲みとったように、羽々斬は桝田を指差して言った。
「こいつは金は使い込むわ俺に黙って柏木の四肢を溜め込んで外部に持ち出し勝手にシュターゼン式に作り変えるわ挙句の果てには『魔剣』などと中学生のような名称を付けるわロクな事をしない上に実力は四枚刃の中でもダントツの最弱だが……」
 結構ボロクソ言われているが、当の桝田は「あの時は三回半殺しにされたんだよ俺。超ヤバいでしょ。マジオーバーキル」とか言って笑っている。
 またクズか。世に憚ってるなクズ。
「……こんなんでも、灰塵衆の盤石に必要な人員だ。柏木に当てるくらいなら倉庫にしまっておいた方が懸命だろう」
「いやー柏木隊長相手だとキツいっすねー。そう簡単に負けはしないと思いますけど、なんせあの殺戮病だし。恨まれたくないわー」
 確かに、あれに恨みを買うのは恐ろしい。
 舌打ちをして苦々しげに頭をかく羽々斬。
「他の奴等も、奴を殺すのに消極的な者ばかりだ。四枚刃が聞いて呆れる……」
「……だから俺をぶつけよう、と?」
 都合の良い駒として扱いたいようだ。
 もっとも、利害が完全に一致さえすれば手を組む事も考えるつもりだが。
「柏木だけじゃない。お前も少し聞いただろう、『アフターペイン』の残党の話を」
「『ナンバーズ』……だったか」
「あー、雛ちゃん隊長がエロい事された話でしたっけ? 薄い本が出そうなシチュエーションっすよね、『ゴスロリ超能力少女無残』、みたいな」
 桝田はもうなんか飽きてきたのかスマホをいじり始めている。少なくとも話を聞く態度ではない。
 由佳の代理で来た受付嬢が持ってきたお茶を躊躇なく二人分飲みやがった。なんなんだこいつは。
 羽々斬に至ってはもう桝田をいないものとして扱ってる感じだ。
「奴等は各所にて暴れているようだが、飛鳥山を三人で狙ってきたあたり灰塵衆に狙いを定めてきている節はある。大規模なぶつかり合いも、想定に入れている……。
うちのトップが常にいれば敗北はあり得ないだろうが……」
「無理無理、セン隊長は同じ場所に二日いると暇で死ぬって言ってましたから。柏木隊長さえいれば別ですけど」
「奴は同じ場所に二日いると暇で死ぬと言っているくらいだからな。あまりアテにはできん。そういうわけで、一人でも多くそれなり以上の戦力が欲しい」
「何で今俺と同じこといったんですか?」
 お前の事を無視してるからだと思うぞ。

「単刀直入に言う。柏木、お前灰塵衆に入るつもりはないか?
 お前の能力なら、四枚刃も狙える。ちょうど今一人補欠みたいな数合わせがいる。そいつを蹴落とせば、それなりの待遇は与えるぞ」

「……」
 いやー、誰のことですかね? とすっとぼける桝田を俺も無視し、返事を考え込む……フリをする。返事は、決まっている。
「……聞かれるとは思っていた。悪いが、断らせてもらう」
 ――ほう。断るか。それで、ここから帰れるとでも思うか?
 と脅されるかとは思ったが。
「そうか。まあ仕方がない」
 羽々斬はあっさりと流す。
「では、魔剣はどうする? 必要か?」
「……それ、は……」
 柏木ばけものを倒し、止めるための武器。
 しかして一度それを抜けば、次は自分が化物となるかも知れない。
 俺が、柏木と同じ……人殺しの、快楽殺人者に。
「まあ、必要と言ってもやらんがな。言っただろう、迷いがあるならやらん、と」
「……ああ」
「覚えておけ、白金」
 羽々斬は立ち上がり、背中を向けて行った。


「今日お前は由佳を殺そうとはせずに、仲間を助けることができた。
 それは、偶然だ。何度も続くものではない」
 こつ、こつ、と。一歩ずつ去っていく。

『敵の命、味方の命。二兎を追うのは結構だが――』
「!」
 精神感応テレパスで俺に告げる羽々斬。
 こいつも、クサナギか……!

『一番失いたくないものは何か。そのくらいは、常日頃から考えておけ。
 お前みたいな奴は大抵、手からすり抜けていってから嘆き、狂うんだ。

 ……あいつのようにな』

       

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