Neetel Inside ニートノベル
表紙

アンチヒーロー・アンチヒール
7-1 人見知り、ふたり

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 私のバイト先……『Hideout』は、しばらく休業することとなりました。
 その理由は、店長であるレイジさんが塞ぎこんでしまったせいです。
 カイトくんは『その内立ち直るだろ、そっとしとけ』と言っていました。確かに、私達ではどうしようもない話ではあります。
『それよりも、レイジに洗脳装置を探す理由が無くなった。ツテはもうあてにできねぇかもな』とも。
 カイトくんも私も、組織の情報が無くなれば困ることになります。かといって、彼を無理に駆り出す事もできませんが。
 とにかく、レイジさんについては時間による解決を待つしかありません。

 そして、春海ちゃんの話。
 我が家に泊まった雛ちゃんにその話をする(とは言っても、ほとんど彼女のテレパスで読み取ってもらいましたが)と、
『んー、とりあえずカイトには伝えん方がええね。関係あってもなくても、暴走するのは目に見えとるわ。あいつのシスコンぷりは相当やからね……』
 と言いつつもベッドの中で甘えてきました。スキンシップにしては、少々大胆です。
 服を着てるからまだ問題ありませんが、仮に脱いでいたら完全に性行為のそれです。
 雛ちゃんも雛ちゃんで、中々のシスコンをこじらせていますね。
『うちは幼いからええねん。ん~、ベル姉の柔肌ぁ……』
 よっぽど温もりに飢えていたのか、雛ちゃんは完全に顔が蕩けていました。
 私も正直、精巧なドールのような美少女に甘えられてかなりいい気分でした。カイトくんが女として見てくれないせいで持て余していた身体の疼きを抑えるように抱き合い、絡み合い……
 ……と言っても今の所は私と雛ちゃんはプラトニックな関係なので、それ以上の事は無いですけど。
 まあ、信じないなら信じないで結構です。それに、恐らくですがそう遠くない将来にはそれ以上な関係になりそうな予感はしますし。
 雛ちゃんは物凄い怖がりなため、私の心をあまり覗こうとはしません。なので、彼女を怖がっていない事は知っていても、彼女に対する好意がどういうものなのかは深く知らないようです。
 私が彼女に対する好意は、『姉妹だと思っているけど、それ以上を望まれたら応える』と言ったものです。身も蓋もない言い方をしてしまえば、彼女との性行為に嫌悪感はありません。と言うかむしろ興味があるくらいです。彼女以外は絶対に嫌ですけど。
 醜女の私に誰もが振り向く美少女の雛ちゃんが好意を向けている優越感……と言うのも多分にあるのでしょう。我ながら嫌な女です。

 需要も無いでしょうし、私と雛ちゃんの関係の話はこの辺りにしておきましょう。
『うちとしては正直、危険かもしれないから近づいてほしくないけど……せっかくできた友達だし、無下にすることもないんやないかな……。
 本当はうちが一緒に行けたらええんやけど、仕事も詰まってるんや。ごめんねベル姉……。でも、何か危険がことがあったらすぐにうちに言うてな。命令違反してでも飛んでくるからね』
 私を心配してそう言ってくれる雛ちゃんと、その日は常識の範囲内でたっぷり愛し合いました。
 相当嬌声がうるさかったのか、隣室のカイトくんから壁ドンが三回ありましたが。
『ベル姉の気持ちに応えない×××××××××いくらなんでもちょっとひどいですの癖に聞き耳は立てるんやね(違うと思います)。無視しよ、無視』
 ちなみに最後の壁ドンは貫通しました。




 そして、約束の日曜がやってきました。
 快晴ではあるものの窓を開ければ吹く風は肌寒く、カーディガンを引っ張りだしてワンピースと重ね着することにしました。
 あまり派手な色をしない、地味めのファッションです。これなら目立たなくて済みそうです。不細工が目立つほど悲惨な事はありませんから。
 集合場所である駅前広場に向かうと、十分前なのに既にソワソワしている男子が時計の下に立っていました。
「……おはようございます」
「あっ、く、倉谷さん。おはよう」
 横から声をかけるとやや挙動不審気味に返事をし、ぎこちない笑顔を向ける服部くん。
 彼も災難です。春海さんが私なんかを誘ったために、美少女と二人きりのデートに、邪魔者が入ったのですから。
 服部くんも彼なりにお洒落をしてきたようです。黒を基調とした服装にシルバーネックレスを付けたのは背伸びと言うか勘違い感がないこともありませんが、目立たないだけで顔はむしろ良い部類なので滑稽には映りません。眼鏡さえかけてなければもっと好印象ですね。
「まだはるみ……柏木さんは来てないようですね」
「ま、まあ十分前だからね……」
「そうですね」
 
 会話が途切れました。
 当然です。私と服部くんは春海さんがいなければ会話もなかった二人。友達の友達状態です。
 コミュニケーション能力の高い人はこういうところに配慮が届かないのが困り者です。自分は他人ともすぐ話せるから他人も大丈夫でしょ、とでも思ってるんでしょう。
 なんとも気まずい空気が流れる中、意を決したように服部くんが言いました。
「あ、あの、さ……」
「はい」
「ごめんね、その、なんか……僕みたいな奴と、遊ぶ事になっちゃってさ。こんな、いけてない系男子と並んで歩くの、嫌だよね……」
 私の顔が不機嫌にでも映ったのでしょうか。
 と言うか、それを言うなら私の方でしょう。
「いえ、そんな事はありませんけど……」
「え、あ、そう、なんだ……ご、ごめん、変なこと聞いちゃって……」
 随分慌てた様子で、語尾がどんどん小さくなっていく服部くん。
 どうやら、女子との会話経験に乏しい様子です。
 春海さんとはあんなに仲良さそうに、自然に喋れていたのに……まあ、彼女のペースに持ち込まれたらそうなるのも当然でしょうが。
「えっと、あのさ」
「はい」
「はるみ……柏木とさ、転入前から知り合いだったの? なんか、クラスに来た時から仲良さそうにしてたけど……」
 まだ少し固いですが、先ほどよりは遥かに自然な口調です。
 例の虐め事件の事を言うと話がややこしくなるので、お茶を濁すことにしました。
「いえ、昼休みに出会って少し話をしたので。うちのクラスに来るとは思いませんでしたが」
 嘘です。なんだか、そんな予感はしていました。
「あ、そうなんだ。でもあいつってさ、なんか不思議な奴だよね。出会って一日で、三人で遊びに行こうだなんて。……僕なんか誘って」
「確かに、変わり者ではありますね……私なんか誘って」
 世間一般的に見れば、出会ったその日に遊びに行く人達だって大勢いるでしょう。
 多分、私達の方が消極的すぎるのだろうとは思います。
 でも、地味目な二人をまとめて友達認定する人は。それでいて、上から目線を全く感じない人は。そうそういないでしょう……きっと。
 本当に、不思議な人です。

       

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