Neetel Inside ニートノベル
表紙

アンチヒーロー・アンチヒール
2-4 Great strength

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 大丈夫大丈夫別に殺したくない殺したくない悪意があったわけじゃないし邪魔をしようとしたわけではないし別にそこまで怒ることでもないし落ち着け落ち着け落ち着け俺。
 俺は自分に無理矢理言い聞かせ、『好き』に大きく傾いた感情をどうにか『別に好きじゃないし』にまで押し戻した(我ながらキモい表現だ)。
 仮にも(大きなお世話にも程がある。程があるにも程があるレベル、だが)助けに来てくれた相手だ。問答無用でブチ殺したら後で後悔するだろう。少し。あ、やっぱ殺し……たくないたくない大丈夫。絶対後悔する。一生引きずる。うん、よし。

 深呼吸。
 俺は部屋の隅に移動し、状況を改めて確認した。
 部屋の真ん中には、視界を一時的に閉ざされ無防備な大型怪人一体。それを、自称正義の味方四人が攻撃している。
 武器は銃剣が付いたアサルトライフル。H&KG36に見えるが、合っているなら軍用だ。中々良いものを持っている。
 それと、見たことがない……恐らく最新式の対衝撃服に防弾ゴーグル付きヘルメット。
 軽装ではあるものの、装備の質は総じて高い。
 何か悪い事があるとするなら……相手が悪い。

「おい! どうすんだこいつぁよ、銃弾効いてねぇぞ!」
 怪人のせいでそこまで大きく見えないが、恐らく2mはある大柄の黒人が叫ぶ。流暢な日本語だ。
「化け物用の兵器なんて持って来てないっすよ……つーか持ってもいないし」
 まだ若い、見た目ベル子と同い歳くらいのガキが焦りを見せている。
 怪人が低い呻き声とともに、のっそりと起きあがった。
 どうやら視界は元に戻ったようだ。早くどうにかしないと……死ぬぞ。
「なんかこんな状況あったぞ、ゲームで。ボスがどんだけ撃っても全然ダメージ受けなかったんだよね」
 平然と構えながら、足で下の空間を広げて動きやすさを確保する細身の男。よく見ればゴーグルではなく眼鏡をかけている。
「そいつはどうやって倒したんだ?」
 髭面の隊長が弾薬を補充しながら問いかける。
 隊員二人も耳を傾けて答えを待った。
「いや、そこらに落ちてたロケットランチャーで」
「あるわけねぇだろそんなもん!」
「……逃げます?」
「逃げるならもう少し早く逃げるべきだったかもな……む」
 怪人は片手を振りあげる。真上に手を伸ばせば天井につっかえるほどの巨躯だが、だからと言って動きが緩慢だとは限らないのが怪人だ。
「散開!」
 踏み込む足がわずかに動いたと同時に、全員が四方に散った。
 ワンテンポ遅れて、奴らがいた場所に拳が降ってきた。
 5m程もあった距離を一瞬で詰め、間にあった障害物を弾き飛ばし、床に大きなクレーターを作りあげる。

 やはりな。
 タメこそ必要だが、直線移動のスピードはとても人間に避けられる速度ではない。
 火力、体力、瞬間速度。どれをとっても圧倒的だ。正義の味方に勝ち目は無いだろう。
「おいおい、勘弁してくれよぉ! 聞いてねぇぜ、化け物退治なんざよぉ!」
「……とりあえず、正面にはいない方がよさそう、だね」
「全員無事か? 『ウォッチャー』、『ウォッチャー』はどうした? 返事をしろ!」
 隊長の声が響く。
 今俺の位置から見えるのは、黒人と眼鏡と隊長。それに足音を鳴らして反転している怪物だ。チビの姿は見えない。死んだか?

「いっつぅ……生きてますよ、なんとかね!」
 机の山をかき分けて、チビが返事をする。どうやら運悪く、飛んできた机に激突されたようだ。
 そして更に運の悪い事に――
「って、おい……何でこっち来ちゃうんだよっ!?」
 居場所は怪人から一番近い場所で、しかもそこは怪人の視界内で、おまけに右足は未だ机の山に突っ込んだままだった。
 怪人の腕がチビに伸びる。
 広げた掌は、小柄な体を握り潰すには十分な大きさだった。
「まずい……『ブレット』、『バスター』、目だ! 目を狙え!」
「了解」
「あいよぉ!」
 三者の小銃が火を吹く。フルオートで放たれるライフル弾が眼球に当たれば、怪人にも効果はあるだろう。
 当たりさえすれば、の話だが。
 必死の抵抗を嘲笑するかのように、怪人は射線を手で覆う。肉厚の腕に阻まれ、銃弾は明後日の方向に飛んでいった。
「さっきので目は警戒されてるのか……?」
「ひょっとして、俺達の言ってる事わかってるんじゃないの?」
「糞が! 知能もあるってのかよッ! ふざけすぎだ化け物ッ!!」
 銃弾も、黒人の叫びも、チビの抵抗も意に介せず。そのまま怪人はチビの体を、大根でも握るかのように鷲掴みにした。
「やめろ、ちょ、俺はうまくないっての!」
 ……仕方ない、助けてやるか。
 変身すると後が面倒だ。俺は地面を見回して、唯一武器に使えそうな鉄の扉を探す……が、無い。
 いや、落ちて無いはずが無い。くそ、どこだ……。
「う、うわああああああああああ!!」
 怪人のゆっくりとした、しかし着実に狭まっていく締め付けに、チビは悲痛な声を捻り出させられる。
「『ウォッチャー』ッ!!」
 ……はいはいわかったよ、変身すればいいんだろ!
 俺は傷の塞がった胸をこじ開け、急いで使える玉を探す。
 これは使用済みか。まあ再生したしな。っと、これでもない……
「ああああああああああ!! ……あ……」
 あ、間に合わねぇわこれ。わりぃ。ドンマイ。 

 ――ぐしゃり。


『ウォッチャー』のチビが、手からこぼれ落ちる。


「う……」
 ……が、死んではいなかった。
 俺の探してた、ドア。普通の人間には持ち上げることすら適わぬ、大型の鈍器。
 それが、怪人の頭にめりこんでいた。

「間一髪、だな。運よくこんなのが落ちてて助かったな、『ウォッチャー』!」
 持っていたのは、黒人の隊員。ふらついた怪人の頭にもう一発、大きくスイングして遠心力で叩きつけた。
「『ウォッチャー』、無事か!?」
「あ……あまり無事じゃないっす……肋骨が何本か……」
「おう、元気に痙攣してるぞ! 俺のおかげだな!」
「そうか、よくやった『バスター』!」
「良かったな生きてて。頭から食われでもしてたらしばらく肉が食えなくなってた所だ」
「だ、誰か俺の心配を……」
 なんとか助かったみたいだ。いやーよかったよかった。
 助けられなかった事をちょっと後悔するところだった。五秒くらい。

「さて。うちの隊員をよくもやってくれたな、化け物」
 隊長の良く通る声が、頭を押さえている怪物へと向けられた。
「『バスター』、銃をくれ」
「あいよ」
 黒人の男、『バスター』が、銃を放り投げた。隊長がそれを片手で受け取る。
 そして両手に一丁ずつ構える。拳銃ではない。銃剣付きアサルトライフルを、だ。
「指揮権を『ファング』から『ウォッチャー』に移行する」
「了ぅ解!」
「了解」
「……了解」

「これより『ファング』は――」
 ざり、と地面を踏みしめる。
『ファング』を名乗る隊長の雰囲気が、変わった。射抜くような殺気が、全身から溢れ出ている。
 いや、もう既に奴は『隊長』ではない。
『正義の味方』でもないし『暗殺者』でもない。俺みたいに殺戮を楽しむ『戦闘狂』のものでもない。





「――銃剣突撃アサルト・トリガーを仕掛ける」




 無理だ。
 無謀だ。
 馬鹿だ。
 阿呆だ。
 正気か。
 不可能だ。

 俺は、そう思った。
 しかし、そんな事『ファング』は微塵にも考えていない。






『ファング』の『気』を例えるのに、一番適した言葉があるとすれば。


『武人』だ。

       

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Neetsha