キッチンのカウンターの上に鍵が置かれていたので、それを拝借して近所のドラッグストアへ向かった。風邪薬や栄養ドリンク、ゼリーなどを買い込んで彼女の部屋に戻ると、彼女はベッドに腰掛けて項垂れていた。
「もう、起きて大丈夫なんですか」
 はっ、と言うように彼女が顔を上げる。僕が戻らないとでも、思っていたのだろうか。
「頭が痛い」
 誤魔化すように顔を背けながら、彼女は答えた。僕が出ている間に、彼女は丈の長い、真っ白のナイトドレスを着ていた。幽玄という言葉は彼女のためにあるのだろう。
「お薬、買ってきたんです。お医者に罹るのが嫌なら、せめて飲んで下さい。コップはどこにありますか」
 不服そうな彼女に風邪薬を手渡し、キッチンへと向かう。彼女が何も答えないので、勝手に食器棚を開けてコップを出した。下半分が金属で、上部は赤い硝子の高価そうなグラスは、ひやりとして肌に心地好い。蛇口から水を注ぎ、風邪薬の容器と格闘している彼女の元へと運んだ。
「ビニールが開かないの」
 恨めしげな貌で風邪薬の内袋を睨める彼女が、なんだかひどく可愛らしい。この部屋では、彼女はいろいろな表情を見せる。それが、嬉しかった。