Neetel Inside 文芸新都
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 彼女と出遇ったのは、月の綺麗な夜だったと思う。いや、新月の晩だったろうか。どちらにせよ、真夜中だったことは確かだ。その日、自宅から程近い市民公園で、僕は六弦を弾いていた。五年前から始めたギターは、今ではかなり上達していた。嫌な事があるとギターを弾いた。辛いことがあるとギターを弾いた。涙の代わりに音を流した。嗚咽の代わりに旋律を響かせた。

 その夜も、苦しかった。
 組んでいるバンドのライヴが近かった。その所為だろうか。数日前からメンバーの間には、張り詰めた弓のような空気が流れていた。そして今日、その矢は遂に放たれて仕舞った。きっかけは、思い出せない。それ程些細なことだった筈なのに、一気に四人の心は離れて仕舞った。
 いつもならメンバーを取り纏める僕も、今日ばかりは役に立たなかった。それが歯痒くもあり、情けなくもあり、またメンバーへの憤りも手伝い、限界に達した。
 僕は夢中で弦を弾いた。アンプに繋ぐ事もせず、夜の端っこに隠れながら。歯を食いしばって、がむしゃらに。

       

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