Neetel Inside 文芸新都
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 小さな箱とはいえ、今日は初のワンマンだけあって、メンバーの顔には微かに緊張の色が混ざっていた。控室を出てステージに立つと、そこには30人程が集まっていたろうか。僕は客席を見渡した。しかし、そこに彼女は見当たらない。開演時間を過ぎて、僕らは演奏を始めた。ヴォーカルの歌う声に合わせて、六本の弦を掻き鳴らす。客席が気になってどうにも音に乗り切れない。曲と曲の合間で、僕は彼女を探した。しかし、どこにも彼女の姿は見えない。ライヴも終盤に差し掛かった。



だきしめて 骨が折れる程
くちづけて 血がにじむ程
殺して殺してあなたの愛で
殺して殺して私を殺して

抱きしめるの 骨を折る程
くちづけるの 血が滲む程
殺すの殺すのあなたを殺すの
殺すの殺すの私の愛で

溺れさせてよ あなたの愛に
笑いながら愛してるだなんて
ナンセンスだわ 反吐が出る
愛してるって首を絞めてよ
愛してるって首を絞めてよ ねえ

だきしめて 骨が折れる程
くちづけて 血がにじむ程
殺して殺してあなたの愛で
殺して殺して私を殺して



 ギターソロで、運指を誤ったかも知れない。何とも言えない空虚な感覚が、胸に広がっていた。ヴォーカルのMCが入る。僕は、最早客席に目を向けることもしなかった。



 その日、彼女が姿を現すことは、なかった。

       

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