Neetel Inside ニートノベル
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                  *
 
 んー。
 疲れた。疲れた。疲れた。疲れた。
 なんで私がこんなに走らなくちゃいけないのかな。
 すっかり夜になっちゃったし。
 おかしい。
 星奈は何もしてない。だって、みんながやれっていうからいわれた通りにしただけなのに。 最初はみんなほめてくれたのに。
 なんで、急に怒りだしたのかな。
 いっぱいいっぱい星奈のこと叩いてさ。すっごく痛くて。だからみんなぐちゃぐちゃになっちゃうんだよ。
 ざまーみろだよ。良い気味だよ。
 星奈のおしおきなんだよ。
 ……はぁ。それにしても、たくさん走ったから喉かわいたなぁ。
 星奈はお水が無いと元気でないんだよ。どこかでお水をのまないと。
 でも、ここどこなんだろ。いっぱいお家がある。
 星奈はおうちのまわりしか知らないから。よくわかんない。
「みずー。みずー。冷たくておいしいみずー」
 おっきな声で呼んでみるけど、何の変化もなし。
 困った。
 疲れたし、困ったし。さんざんだよ。
 お部屋にいる時は、研究員さんがちゃんとお水を持ってきてくれたけど。自分で見つけるのは凄く大変なんだなぁ。それとも星奈が見つけるの下手なのかなぁ。
 研究員さんは凄く嫌いだったけど……お水には感謝だなぁ。
 あ、そうだ。もしかしたらお水の匂いがするかも。星奈は結構お鼻良いし。
 どうして今まで気付かなかったんだろう。馬鹿だなぁ。
 そう思ってお鼻をくんくんさせてみる。
 ……ん。……んんん?
 甘い……匂いがする。甘くておいしい匂い。
 水だ。お水の匂いだ。
 匂いのするほうに向かって駆け足で向かった。もう我慢できないから全力疾走。
 走ったせいで余計に暑くなっちゃったよ。でも、そこにはちゃんとお水があった。
 ブランコ、すべり台。全部テレビで観た事がある。公園だ。
 星奈より背の小さい子が、みんなで遊ぶ場所。星奈も遊んでみたいけど、今は小さい子いないし。一人だとつまんなさそーだし。また今度かなぁ。残念。
 きょろきょろと辺りを見回すと、誰かがお水の出ている前で座っていた。
「何してるのー? 君もお水飲みにきたの?」
 近づいて声をかけると、男の子ははびっくりした顔でこっちを見た。
 背は星奈より大きい。もしかしたら年上のお兄さんなのかもしれない。
 でも、星奈をたたいたり、いっぱい実験した研究者さんよりは年下かな?
「君こそ……その、何してるんだい? こんな時間に」
「んー。星奈はね。喉がからからでね。お水を飲みにきたんだよ。君も喉渇いたの?だったら星奈は順番まつよー。ちゃんと良い子で待つからね」
 男の子はじーっと星奈の顔を見る。何か変なのかな?研究員さん達は、「星奈は他の人とは違って特別なんだよ」って言ってたけど。よくわんない。
「……いいよ。君が先に使いなよ」
 男の子は、おいしそうな水を星奈に譲ってくれた。うん。良い人だ。きっと。間違いない。「ありがとー。いただきまーす」
 たくさんのお水を、ごくごく飲む。
 幸せ。飲むだけじゃ足りないから、頭からもたくさんお水をかぶっておこう。
 お水が体に染み込んでいく。気持良い。
「あのさ」
「ん?なにー?」
「その、そんな風に浴びたら服にかかっちゃうよ?」
「かかると駄目なの?」
「駄目っていうかさ……」
 男の子は星奈の胸の辺りをじぃーっと見る。
 たくさん水を浴びたせいでワンピースがすけすけになってた。この事を言いたいのかな?
 でも、なんで?
「なんか、変かな」
「色々まずいよ。女の子なんだし」
「そうなんだ。じゃあ次からは気をつけるね」
 濡れた服の裾を握って、ぎゅーっと絞って、ぱたぱたと揺らして乾かす。
「だ、だからさ」
「ん?」
「それもまずいと思う。下着、見えちゃってるし」
「そっかー。色々気をつけなきゃいけない事がたくさんあるんだねー」
 星奈はずっとお部屋の中にいたから、知らない事がたくさんあるみたいだ。
「もう、良いかな?僕も使いたいんだけど……」
「あ、そっか。ごめんごめん」
 そうだね。星奈だけがずっと使っちゃだめだよね。星奈は元気になったから、男の子に変わってあげよう。
「君もたくさん飲むの?」
「僕は別に水を飲みにきたわけじゃないから……」
 男の子はなんだか、そわそわしてる。
「えっと……用が済んだなら、できれば違う場所に行って欲しいんだけど……」
「え? なんでー?」
「何でって、言われても」
 男の子は後ろに隠した手を凄く気にしてるみたいで、ちらちらと何度もそこばかり見ていた。
 何かあるのかな。楽しいものかな?星奈の知らないものかな?
 確かめてみよう。面白いものだったら良いなぁ。
「わ、ちょっと。駄目だって。何してるのさ」
「ね、ね。なになに?なに隠してるの?見せて見せて」
「危ないから、ちょっ。ほんと、ちょっと待って」 
 ぐいぐいと男の子と押し合いになる。星奈も負けないように、力一杯ぐいぐい体を動かして男の子の後ろにまわりこむ。
「あ、みっけ」
「……」
 何度か押し合って、やっと男の子が隠してるものを見る事ができた。
 んー。でもあんまり面白いものじゃない。
「えっと、それは。えっと。包丁……だよね?お料理に使うやつ」
「……そうだよ」
「なんで隠してたの?ここでお料理するつもりだったの?」
「そうじゃない……けど。理由は言えない」
「内緒なの?」
「そう」
 
  

       

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