Neetel Inside ニートノベル
表紙

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「あのね……僕はこれから、急いでこの街を離れなきゃいけない。だから、君とこれ以上一緒にいれないし。遊べない。わかった?」
「う……でもでも」
「わかった?」
「ん……んー」
 浩平は凄く真剣で。星奈はとってもお邪魔してるのかな? て思う。
 うー。でもでもでも。星奈だって真剣だし。遊びたいって思うけど、でも、それは星奈のわがままだから。やだやだって言って浩平を困らせたくない。
 我侭は駄目。
 自分の事ばっかりで、我侭な子はみんなに嫌われるわよ。
 お母さんが言ってた。
 星奈は嫌われたくない。たくさんお友達ほしい。
 だから、我侭は言わない。我侭はだめだ。
「……わかった」
 星奈がお返事すると、浩平はちょっとだけ頭を下げて「ごめん」って小さく言ってから早足で歩きだした。
 後をついて行きたいけど。手をぎゅーって握って我慢、がまん。
 浩平の背中がだんだん小さくなっていく。
 また、会えるといいなぁ。
 浩平の背中に、手を振ってばいばいってする。
 ちゃんと……お友達になれたのかな?
 でも、一緒に遊んだりできなかったし……。
 浩平はお友達って思ってくれてないかも……。
 う……。
 泣きそうだよ。
 胸の奥がきゅってなって。苦しい。
 目にたくさん涙が溜まってくる。すぐ泣いちゃうのは星奈のいけないとこだ。
 これも、お母さんが駄目って言ってた。
 だから、我慢。
 大丈夫なんだよ。星奈一人で遊んじゃうんだよ。
 誰もいなくても、つまんなくなんて……ないんだよ。
 公園を星奈だけが独り占めして、一杯遊んで。後から浩平がやっぱり星奈と遊んでれば良かったーってくやしくなっちゃうかもだよ。
 せっかくお外にいるんだし。おうちじゃできない事をたくさんしないとだ。
 もし、おうちに戻ったら。今度はいつお外に出れるかわからないし……。
 うし、決めた。たくさんあそぼー。
 えっと、まず最初は何で遊ぼうかな。あ、あれにしよう。ジャングルジム。
 確か一番上まで登って遊ぶんだよね。
 まず、低いところに掴まって……わ。なんだかひんやりして気持ち良いんだよ。 
 いっちに。いっちに。上を目指していく。
 競争する人いないのが、やっぱり残念。
 ぐいぐいって登って、てっぺんにとーちゃく。
 お空にはまんまるお月様だ。
 手をうーんと伸ばす。いつもより、ちょっとだけお空が近い。
 もっと、もっとおっきなジャングルジムがあったら。お月様まで届くのかな?
 てっぺんまで登るの大変そうだけど。いっぱい時間かかるかな。
 うーん。それにしても……。
 これからどうしよう?
 星奈はどうすればいいんだろう?
 がんばって、たくさん考えてみる。
 うーん。えぇっと。えとえと。
 おうち。そう、おうちだ。
 とにかく、お母さんのところに戻らなくちゃだけど。
 一人でお外を歩いた事ないし……大丈夫かな?
 でも、でもでも星奈だってもう子供じゃないし。
 道さえわかれば、きっと帰れるはずなんだよ。
 ……お金とかないけど。でも、歩けば大丈夫だよね。
 お水さえちゃんと見つければ、星奈は結構丈夫だし、歩くのだってへっちゃらだし。
 なんとか、なる。うん。なるなる。
 がんばろう。星奈一人でおうち帰れたら、お母さん褒めてくれるかな。
 なんとかなりそうな気がしてきた。
「星奈、がんばるんだよ」
 ジャングルジムの上からぴょーんってジャンプする。
 上手く着地できたけど、足の裏がぴりぴりって痺れた。
「……ジャングルのジムの頂上から飛び降りるなんて危ないだろ」
「はえ?」
 それは、嘘みたいで。星奈、知らない間に寝ちゃってて。夢でも見てるのかなって思った。
 だって、だってだってだって。目の前に浩平が立ってたから。
 さっきばいばいってして、いなくなっちゃって。寂しいなってなったのに。浩平が目の前にいる。
「こーへーだ。こーへーがいる」
 嬉しくて。どんな風に言えば良いのかわからないから、星奈は浩平に思いっきりぎゅってする。  
「だからっ!なんで、すぐそうやって抱きつくかな。君は」
「あ、ごめんなんだよ」 
 そうだった。ぎゅってしたら浩平はヤなんだった。
 浩平はまだハジライヲーとか言ってるけど、星奈はよくわかんないや。
「でも、星奈。浩平がいるの気付かなかったんだよ」
「僕は下から何度か呼んだけどね。なんか、上向いてぼーっとしてたから。降りてくるの待ってたんだ」
「ごめんなさい」
「別に……いいんだけどさ」
「えへへー」
「なに?」
 浩平は優しいんだなぁ。好きだなぁって思って見てると、浩平はぷいって横を向いた。
「あ、でもでも。浩平は忙しいんじゃなかったっけ?」
「そりゃ、忙しいし。急いでるよ。でも……やっぱり君をほっとくわけにはいかないだろ。こんな時間に女の子を一人で置きざりにするなんて、気になってしょうがないじゃないか」
「そうなんだ。浩平は星奈を心配してくれたんだね。ありがとうなんだよ」
「まぁ、そんなわけだから。とりあえず僕と一緒にくれば。どこまで一緒にいれるかわからないけど……一人でいるよりはましだろ」
「うん、うん」
 浩平の手をきゅって掴む。
「ちょっと、何してんのっ!」
「星奈が迷子にならないように、手を握ってて欲しいかもなんだよ」
「あ、あっそう」
 浩平が星奈の前を歩いていく。でも、さっきと違って星奈の手をちゃんと握ってくれた。 星奈と浩平なら、なんでもできそうで。どこにだって行けそうだよ。
 なんだか、無敵。
 いざ、出発なんだよ。   

       

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