Neetel Inside 文芸新都
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短篇集呼ばわりしないで
澄田イク

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  「このクラスの生徒の中に、多額の国費を投じて開発された戦闘用アンドロイドが一体混ざっていると、お役所から今日学校へ電話があった。そのアンドロイドは非常に危険で、決して近づくなとのことだ。以上!」
担任の古股先生はそう言い残し、教室を出た。
真っ先に疑われたのは足の速い澄田だった。この前の運動会のヒーローだ。クラス中の視線が廊下側の列前から2番目の澄田に向けられた。
「そう、僕こそが日本の科学力の粋を結集して作られた戦闘用アンドロイド・スミタ、だ。」
そういうと澄田は椅子を片手で持ち上げてみせた。それを見たクラスメイトは一斉に彼から距離を取った。
「おいおい冗談に決まってるだろう。」
片手で椅子を持ち上げるなどという離れ業をクラスメイトは見せられのだ。澄田君の言葉をもはや誰も信用できない。
「皆気をつけろ。とにかく距離を取るんだ。全員でかかったって勝てっこないよ。」
学級委員長の日高君の忠告に皆が頷く。気が弱く、いじられキャラということでクラスメイトに祭り上げられて学級委員長に選ばれた日高君が、普段は見せない真剣な表情を見せている。この危機的状況の中で、彼に学級の長として自覚が芽生え始めていたのだ!


 「オーケー、オーケー。面白いけどさ、もうやめようぜ。」
そのとき、飛んできた椅子が容疑者澄田の頭にぶつかった。クラスの腕白問題児猪口君が決死の攻撃を見せたのだ。
「やめろといっただろう!殺されるぞ!」
日高君が一喝した。
たしかにそれはクラスメイトを守りたいという正義感による勇気ある行為だった!が!今は状況が状況だ。無謀すぎたのだ。
「ご、ごめん。でも俺いつもクラスに迷惑かけっぱなしだから、何か役に立ちたくてよ。」
猪口君の目にはうっすらと涙があった。
「君はもう役に立ってるよ!猪口君!」
教室の片隅で、いじめられっこ小野君が叫んだ。
「実は僕いじめられてたとき、猪口君に助けられたことがあるんだ!あの時は本当にうれしかった
。」
いじめられっこ小野君が言った。
「君らがどこまで本気なのかわからなくなってきた。それに今見たろう、猪口君が片手で椅子を放り投げたじゃないか!彼こそ戦闘用・・・」
そう澄田が言いかけたところでクラスのマドンナ鈴野さんが言ってのけたのだ!
「猪口君を貴方と同じ殺戮兵器呼ばわりしないで!」
教室中が賛同の声で一杯になった。
 

     

 それでも凶悪犯と対峙しているときの緊張感だけは保たれていた。澄田は親友白木に救援を求めるように一瞥した。白木君と澄田は幼稚園からの付き合いだ。
「僕はずっと君と友達でいたかった。」
白木君は涙ながらに話し始めた。
「転校して来て不安だった僕に優しくしてくれたのも、毎日一緒に下校してくれたのも全部!僕の友達を演じて、自身が凶悪なアンドロイドであることを隠すためだったんだね!」
白木君の涙はとめどない。
「白木君、もう何も言っても無駄だ。いくら精巧に作られたとはいえ彼はアンドロイド。科学の力を持ってしても人の心だけは作り出せないんだ!」
高田君の魂から出た言葉も、澄田は意に介さないといった風に話し始めた。やはり彼に人の心はない!アンドロイドに人の心はない!
「よし!もう本当に終わりにしようや!やめやめ!終わり終わり!」
「この教室を血の海して終わらせる気ね!」
鈴野さんが叫んだ。
白木君は日高君の胸に飛び込んで泣いた。その胸にはたしかに人の心の温かみがあった。
「君と過ごした時間を返してくれ!」
「いやそれよりお前は俺に借りたグラセフ返せよ!」
「君に借りたあのゲームかい?やってみてビックリしたよ。なんだいあれは。単なる殺人ゲームじゃないか!君にお似合いだよ!」
「だったら半年も借りてんじゃねーよ!やり込んでんじゃねぇか!」
白木君は力を使い果たし、日高君の胸に倒れ込んだ。
「誰か、白木君を保健室へ。かわいそうに、相当疲れているみたいだ。」
鈴野さんが手をあげた。すると女子は2人3人と手をあげ、白木君に寄り添い保健室へ連れて行った。彼女達はさながら、闘う兵士に身を捧げたナイチンゲールような輝きを放っていた。

     

 「澄田さん、自分が純然たるヒトであることを証明したければ、この場であることをして見せてくださいよ。」
最後まで冷静に椅子に座り続けていたクラス1の秀才、伊藤君がつぶやいた。
「伊藤君!彼が僕らと同じ人間であるはずないだろう!」
日高君は言った。
「ふふ、ええもちろん私も彼が人間だなんて微塵も思っちゃいませんよ。ただ、試しに言ってみただけです。」
「夢を見ているような気がするけど、いいや。伊藤、俺は何をすればいい。」
「簡単なことです。エジャキュレイションですよ。」
メガネをくいっと上げて伊藤君が言った。
「エジャ・・・江崎冷笑・・・」
メイド・イン・ジャパン(ボーン・イン・ジャパンではない)のためか、聞きなれない英語に戸惑う澄田。
「射精ですよ、言わせないでくださいよ。」
つかのまの沈黙の後、澄田を意を決した。いや、意を決した風に見せただけかもしれない。
「俺はオスの人間とメスの人間の間に産まれた人間の・・・」
澄田はズボンとパンツを脱いだ。
「オスだ!」
精巧に作られた皮膚が露わになる。女子達は普通なら黄色い声を上げるところなのに、このときばかりは冷静に澄田のイチモツを軽蔑の眼差しで睨んだ。
「な・・・陰茎まで・・・さすが変態大国日本といったところですね。」
伊藤君は精巧なその下半身に感嘆した。
澄田はだらんとした陰茎を握り、手を動かし始めた。すると陰茎は見る見るうちに肥大していく。
しかしその勃起は何か人間らしくなく、グッグッグッと段階的に大きくなっていく感じだ。
「こんな屈辱、最悪だ。くそう!」
澄田の目と思しき場所から液体が流れ出た。私達でいうところの涙である。同時に陰茎の先から透明な液体がチロッと出てきた。
「日本政府はすごい力の入れ様だな。あれは尿道球腺液、別名カウパー氏腺液、俗名は・・・やめておこう。僕には下品すぎる。」

 陰茎の怒張が限界に達したそのとき!武装した特殊部隊が次々と教室に駆け込んできた。
「皆さんすぐに教室を出てください!非常に危険な状態です!」
教室から生徒が追い出される。
「はい!発射数秒前と思われます!はい!私達も退却します!」
トランシーバーで隊員が連絡をしている声を聞きながら、澄田は尿道から込み上げてくる射精感に身を任せ、夢と現実をさ迷っていた。

       

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