Neetel Inside ニートノベル
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凛としてアナルファックピストルズ
【鳴らない、アンプ】

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「僕が薀蓄を語りはじめたのはいつからだったかな。
 きっかけは何かと思い返すと、はじめはギターの音だったと思う」


 †【鳴らない、アンプ】


 中学高校と1万くらいの安ギターを手にしていたもののバンドを組むきっかけに恵まれず、初めてバンドを組んだのは大学に入学してからのことだった。

 軽音サークルのコピーバンドというやつだ。

 最初は確かサークルの初ライブでアヴリル・ラヴィーンのコピバンとルナシーのコピバンを同時に組んだと思う。自分からやりたいと言ったわけではなく『なるべく簡単な曲を』ということで決まっただけである。

 腕に自信があったわけではない。
 でも少し練習すればついていけるだろうという楽観はあった。
 独学とは言え3年も弾いてたんだ、指が動かないと思うことも減った。

 そんな甘い考えはすぐに砕かれることになる。


 † 


 初めてスタジオに入ったのは水道橋のNODEというスタジオ。
 新緑の5月だったのを覚えている。
 道が分からず遅刻ギリギリだったっけ。
 15分前には待機しとく予定だったんだがな。

 まぁこの辺の件はいい、とにかくスタジオに入った。
 与えられたアンプはJC-120:ジャズコーラスというアンプ。
 自分が家で練習用に使ってたアンプの4倍はするかという大きさ。
 そしてこれが全ての失敗のはじまりだった。

「インプットが…4つ…?」

 イエス。ジャズコーラス(以下ジャズコ)にはインプット:差込口が4つある。
 これのどれかにギターケーブルのジャックを差し込んで繋ぐ。


 左側にはCHANNEL1と書かれている。

「左側に2つ…highとlowに分かれている」

 インプットの横に何やらツマミが3つ4つある。

 右側にはCHANNEL2と書かれている。

「右側にも2つ、こっちもhighとlow…」

 こっちの横にはツマミがたくさんついてた。
 ツマミとは回転式のボリュームツマミみたいなアレで、0~10までの数字が目盛りとして刻まれている。



 混乱する俺。



「(ええい、ままよ)」

 この辺りの記憶はもう定かではないが、かなり適当に「highの方がパワーがありそうだ」とhighにつっこんだ気がする。問題はその後で『VOLUM』の意味くらいは分かったんだがLOWだのMIDだのTREBLEだの、もう訳が分からない。トレブルとか聞いたことない。

 一応楽器経験者用に再現するとこんな感じだ。



●チャンネル2
 インプット:High
 ボリューム:5
 トーン  :トレブル0 ミッド3 ロー5
 DISTORTION:5
 スイッチ系はいじっていない。


 オーマイゴッド。そこに完成したのはベースと間違う程妙に低音の効いた大音量のサウンドだった。しかも全然歪んでない、えらくペケペケしたサウンドだ。コードを鳴らすと「ぺヴぉゴぉ~」と間抜けな騒音が発生する。(このアンプは音がでデカことで有名で、ボリュームは「3」以下で十分だと知ったのはだいぶ後になってからだった)


 何が恥ずかしいってこんなデカイクソみたいな音を撒き散らしておいて

「多分こんなもんでいいか」

 とか思ってたのだから死にたくなる。
 こんな設定ジミ・ヘンドリクスだってやらないわ。

※ジミへンはギターの音が大きいことで有名だった。


 結果は聞くまでもなく悲惨なものだった。
 自分の音が大きすぎて他の楽器の音が聞こえない。
 初めてCD以外に合わせるものだからリズムが合わない。
 おまけに曲を完全に覚え切れてなかったからところどころ黙り込む始末。

 俺は思ったね。


「(消えてぇ…)」


 何がクソかって、メンバーには多少なりとも経験者がいたのに何のアドバイスもくれなかったことだ。今の僕なら適切な設定に直してあげることを躊躇しないだろう。(どこぞのオカマボーカリストはマイクの設定を勝手に変えたら泣き出したけど)

 クーラーは効いてたはずだが大量の汗をかいたのを覚えている。
 テンパってたというやつだ。

 やがて地獄絵図のような練習も終わる。
 スタジオのロビーで各々雑談してるなか僕は考えていた。
 自分でも分かっていた、今の自分が理想の音を出していないことくらい。
 何が原因か、何故あのギターはギュイーン・ジャジャーンと、あのキレるようなカッコいい音が出せなかったのか…

 出た結論はこうだ。



 
「そうだ、エフェクターがあれば解決だ!エフェクターは万能だ!」




 今思い返しても「ズコー」と椅子から滑り落ちそうな馬鹿っぷりである。




 ともあれこれは序章である。まだ少し続く。
 次回、エフェクターを求めて御茶ノ水を彷徨う…が。
 その先に待つものは。


 次回予告、凛としてアナルファックピストルズ第17話
 【見当たらぬ、電源】


 †


「無知とは恐ろしい…」

「あんたにもそんな可愛い時代があったなんてね」

「君ほどには可愛くないさ」

「どういう意味かしら」

「言葉どおりさ」

「殴るわよ」

「ふっ、君にならグレッチでぶたれてもいいね…あっすいませんちょっと待ってリッケンバッカーはやめて むしろそれフリクリだk…!」


 †


「今回の話は音楽が分からない人にも分かりやすく例えるなら、

 「七英雄が倒せない…」
 →「クイックタイム覚えよう」

 「破壊するものが倒せない」
 →「体術でタイガーブレイクとか覚えた方がいいかな」

 「マスターリングが倒せない」
 →「やっぱクーンはデュラハンにしとくべきだったか…」

 くらい「そこじゃねーだろ」な話だと思って頂ければ良い」


「分かんない。1mmも分かんない。サガネタうぜぇ」

「生ゴミだらけの部屋でゴキブリに困ってるひとがゴキブリ対策グッズでどうにかしようと思ってるようなもんだ。ゴミを片付けるという根本的な問題に気付いていないってことさ」

「最初からそう言え」


       

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