Neetel Inside ニートノベル
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凛としてアナルファックピストルズ
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『お前らが日本のロックをダメにした』

 と言ったのはミッシェルガンエレファントのチバユウスケ。
 メジャーデビューした時にレコード会社の偉い人たちに向かって。

 名言・迷言ともに多い。
 気難しいことで有名なブランキージェットシティのメンバーと珍しく仲のいいバンドでありどちらも90年代を代表したロックバンドだ。

 †

 メンバー集めは何もこっちが募集に応募するだけとは限らない。こっちが募集をかけることもある。主な方法は募集記事をスタジオに置かせてもらったり、コネクションがあれば人脈をあたるのもよし。だがまあ最近の主流はなんと言ってもインターネットだろう。
 前回利用したサイトでも当然募集記事は登録できる。今回は麗しくも鮮やかにすれ違ったそんな愚かな出会いを紹介しよう。

 メンバー募集記事、それは無数にあるクローバーの中から四葉を探すようなものだ。何件も見るのは意外と疲れる。何が言いたいか伝わらなかったり、向こうの実力や音楽の趣味が合うかさえ分からない。そんな記事はスポーツ漫画の台詞の無いコマみたいに読み飛ばされちまう。シンプルかつ必要な情報は確実に伝える、これが出来ないとあまりメッセージは望めない。かもしれない。以下の例はよく書かれてる情報だ。参考にしてくれ。

・自己紹介。(名前、年齢、性別、パートなど)
・活動地域、練習場所
・活動形態、練習頻度
・バンドの特徴、ジャンル、参考としての好きなバンド
・デモ音源(myspaceなど)
・方向性や熱意など

 デモ音源があるかないかは意外と重要だったりしてこれがしっかりした音源だとかなりの応募が見込まれる。

 †

 記事を出して何日目だったかドラムとボーカルのコンビからメッセージが来た。
 早速簡単な返信をして話し合いの予定を合わせ、後日新宿で待ち合わせをした。
 会ってみると、ドラムの彼は金髪で筋肉質、引越しのアルバイトなんかにいそうな感じだった。ボーカルは遅刻してきた。男か女か分からないオカマみたいな人で顔は若いが20台後半らしい。オカマといっても女形(おやま、ビジュアル系において女装するメンバー)を侮蔑するわけでなく、彼は本当にオカマがしっくりくる中性的な風貌だった。


「はじめまして、今日はわざわざどうも」

「いえいえ、よろしくお願いします」

 ロックだなんだ言ったって礼儀は正しいに越したことはない。
 僕は続ける、

「早速ですが、普段はどんな曲を作ってるんですか?」

「あ、曲は作れないんです…。今はコピーをして練習しています」

「ドラムとボーカルの二人で?」

「・・・はい」

 それはそれは。

「何のコピーしてるんですか?」

「あ、はい…僕たちは結構Ⅴ系も好きで、今はプラスティックトゥリーをコピーしてます」

 ああそんな感じするよ。という見た目だった。顔じゃなくて服が。

「プラスチックツリー懐かしいですね」

「・・・プラス"ティ"ック"トゥ"リー、です」

 細かいよベイブ。

「失礼。でもギターの人はコールターオブザディーパーズのサポートやってるでしょう。実はそれでよく聴いてて耳コピもしたものです」

「!?」

 二人の顔色が変わる。

「20曲くらいやったんで何曲かは今すぐにでも弾けると思うんですが、今どの曲を練習してるんですか?」

「曲は…あれとあれと…」

「ああ、ほとんど出来ます」

「…素晴らしい」

 聞こえるか聞こえないかくらいの小声でオカマボーカルが言う。これで独り言じゃなくて僕に話しかけてるんだからたいしたもんだ。…というよりさっきから二人とも声が小さくボソボソ喋ってかなり聞き取りにくい。

「ではよければ来週スタジオ入りませんか」

 目を輝かせて筋肉ドラムが言う。小さい声で。

「あ、ただ一つ・・・」

 オカマボーカルが言った。

「なんでしょう」

「僕たちプロ志向なので、そこだけを条件とさせて下さい」

「ああそれはもちろん構いませんよ(嘘)」

 その日はお互いの意思を伝え合うという感じかな、それで解散した。


 †


「ちょっと待って」

 話の腰を折ってベースの彼女が言う。

「今の話は作り話とかじゃなくて本当の話よね?」

「言ってる意味が…」

「君、そんな耳コピできるほどギター弾けたの?」

「・・・・・・」

「ねえ!ちょっと、答えてよ!待って…ねえ、バンドしようよ…!私と!」


 †


 翌週、今度は何故か池袋のスタジオに集合した僕たち。スタジオの場所が分からずに随分迷ってギリギリにスタジオ入りした。ドラムはいたがオカマはまだ来てなかった。

「すいません…じゃあ先入っちゃいましょうか」

 とドラム。まあ遅刻はよくあることだ。気にしてたら胃が持たない。
 毎回遅刻するようだと流石にクビにするべきだと思うが。
 遅れてくること15分、やっとボーカルが扉を開ける。
 何故かやたら笑顔だった。


「では始めましょうか。何からいきます?」

「何でもいいですよ…」

 何でもいいなんて優柔不断は聞き飽きた言葉の一つ。
 めんどくさいので気に入ってる曲を提案する。

『ワン…ツー…スリー…フォー』

 室内に広がる大音量。
 音とは空気の響きであり振動だ。
 押し寄せるような低音の振動、甘い中音域。つんざく高音域。それらが混ざり合うこの空間は大音量でプレイできるバンドだけの特権、快感だ。

「凄い…」

 一曲目を終え彼らが言う。

「大丈夫そうですか…?実はメンバー募集でスタジオで演奏するの初めてで…」

「いやいいですよ。以前メンバー募集で来たギターとベースの二人組がいたんですが、その時より音圧がありましたw」

「それは良かったです」

 ドラムの彼は上手い方だった。音も大きくてやりやすいし、リズム感がいいから気持ちよくプレイできた。問題があるとすればボーカルの方で、彼は完全に素人のカラオケだった。そして…

「じゃあ次の曲行きましょうか…」

 ドラムが言う。

「あ、ちょっと待って下さい。実はさっきからハウリングが凄いんですが、ちょっとマイクの設定見せてもらっていいですか?」

 僕はマイクを繋ぐミキサーを覗く。なんてこったい。
 インプットのボリュームが0で、ゲインが10だった。

「・・・」

 何を言ってるか分からない人も多いだろうが、これはマジでありえないセッティングだ。例えるなら「ロマサガ2で体術Lv.1で千手観音を使う」とか「ゼラチナスマターに棍棒縛りで挑む」とかそんなレベルのあり得なさだ。そんなんじゃ七英雄は倒せない。

 †

「ごめん、余計分からない」

「・・・ごめん」

 †

「あの…ゲインMAXですか…」

「これが好きなんですよ~!」

 嬉々として答えるオカマ。
 スピーカーがぶっ壊れるかもしれない設定なんだが。

「でもこれが原因でかなりハウっちゃってるんで…直しますね」

「あ…」

 まぁ彼なりのこだわりはあったのかもしれないが機材は大切に正しく使うが鉄則だと思っていた僕は勝手にツマミをいじって彼が時間をかけて調整したセッティングを壊してしまった。…どうやらこれが地雷だったらしい。

「・・・・・」

 半泣きして黙り込んでしまった。

(oh...my...)

 結局、せっかく取ったスタジオということで気にせずに「じゃあ次やりましょう」と最後までセッションを続けたわけだが、まあ空気に緊張感が漂って、ね。

 やがて終了5分前を告げるランプ。
 部屋に入ってきて片付けを手伝うスタッフ。
 気まずい僕ら。

 スタジオのロビーに座り、ドリンクを飲みながら休憩。

「では、今回のことはまた後日メール下さい」

 そそくさと池袋を後にする。
(ドラムはともかく、あれでプロ志向・・・?)
 一握の疑問を感じながら。


 †


「それで、結果は」

「聞くまでもあるかい?」

「…そうね」

「結局、『僕たちは仲良く空気のいいバンドを組みたいと思うので、今回は…』というメールが来たよ」

「プロ志向なのに?」

「プロ志向(笑)なのに」

「あなたは…何がしたいのよのさ…ギター弾けるのに隠したり」

「言っただろう…」

「うんちくしたいだけ…でしょ」

 彼女が泣きそうで諦めた顔で言った。



 分かってるじゃないか。
 そうさ僕らはアナルファックピストルズ。
 どうなる僕らの未来や如何に。



「バンド…組もうよ」


 凛と咲いて。

       

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