Neetel Inside 文芸新都
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早く早く、負け犬の裏庭で
銀色の塗り薬/二百本の針

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今すぐ効く
何かわかりやすい奇跡みたいなものが必要なのだ
銀色の塗り薬、
高山に自生する薬草、
醜い竜の血液、
そういう子どもの頃に慣れ親しんだ万能薬。
叫びつかれた喉に塗って
もう一度叫ばなければ
幸福の定義を
顔の黒い人々が囁き続けている
それに耳を貸さないで
日向に伸ばされた幾万の手はどれも血の気が失せて青い。
影だけがあの洞窟にそっと入っていける、
それを知っているわたしはきっと幸福な人
吠えるような咳のあいだに
魂がひそやかに呼吸をしているのを聴いて
闇の縫い目をたどっていく
わたしは誰でもないの。
わたしは誰でもないの。
銀色の塗り薬
憧れを失くした人の手のひらに
滲む脂から作り出して。



*



あの日使った針を
また二百本全部並べた
たしか雲がかさかさに乾いた
浅黄色の空の日だったと思う。
わたしたちは一本ずつ
その針の先についたにごった血を
丁寧にぬぐっていた。
少しの油断も許されない仕事を
肩を並べて黙々とこなしていった
誰かがそれを一本取り上げて
父親の遺骨に刺した
針は曲がって、
「骨より弱い」と文句を言われた。

全部終えたらわたしたちは向かい合って
お互いに一本ずつ、
お互いのひびに刺していく。
目立つ大きなひび割れや
ちょっとした隙間や
このあいだぶつけて出来た傷跡まで
くまなく知り尽くしている
わたしたちはこうやっていつも
相手の愛しいひびを辿るのだ
それはずいぶん平坦で技巧的なまさしく愛の行為だった。


       

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