Neetel Inside ニートノベル
表紙

世界を救うのは俺だ!
第二話

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○第二話「ヒーローの現実」

「それで結局、アンタ達は何者なワケ?」
「僕は何を隠そう、神風戦隊――」
「それはもういいっての!」
 とある島の、とある地下施設、その一室。
 ここがどこで、何の施設なのかは分からないが、俺とゴスロリ女、あとついでにレッドはあの後、自衛隊のヘリに乗せられてここにやって来た。
 ちなみに巨人女はいつの間にか姿を消していた。
 まあ、俺は予めそういう能力があると聞いていたので驚かなかったがな。
「そういうお前は何者なんだ、ゴスロリ女。魔法使いか?」
「……そうね、自分から名乗るべきだったかも。アタシは村上 夜恵(むらかみ やえ)。まあ……この恰好はその、ふ、雰囲気よ。いつもは普通の中学生」
「中学生!? へえ、じゃあ僕より一回りくらい歳が違うんだね」
「村上、ね。俺は朽木健太郎。いつもは普通の高校生」
「僕は沖田 昴(おきた すばる)。いつもは普通の、俳優」
 
 ――暫しの沈黙、からの……

「沖田!?」「沖田!?」
「うん、沖田昴」
「え、ちょ、ちょ、本当に沖田、さんなの? あの、ドラマに出てる!?」
「うん、そうだよ」
「な、何やってんスか、そんな、全身タイツなんか着て!」
「全身タイツって言われちゃうと、僕が変態みたいじゃないか」
 沖田昴。日本ではかなり有名な俳優で、最近ではハリウッド映画にも出演している実力派である。イケメンながらも気さくな物腰から、男女問わず人気があるらしい。
 ってか、そんな勝ち組中の勝ち組が、なんでそんなアホな恰好でヒーローになろうとしてるんだ!?
「僕もねえ、所謂特殊能力って奴が自分にあると分かった時、色々考えたんだよ、この能力に相応しい姿を……まあ、妄想なんだけどさ」
 そう言いながら、レッド沖田は被っていた仮面を脱ぎ始める。
 まあ、そういう考えを持つのは分からないでもない。俺だって色々妄想したからな。でも、自分でコスチュームを作るだけの技術は無かったので諦めたのだが。
「君もそうなんでしょ、夜恵さん」
「え、ええまあ……でも、だって、沖田さんは俳優じゃないですか」
「まあ、ね。だからそのツテで、こんなコスチュームを作ってもらったんだけど……よいしょっと」
 そして露になる沖田の素顔……おお、本物だ! 爽やかイケメン! 悔しいくらい!
 村上も“生”沖田に感動しているのか、小さな悲鳴のようなものをあげている。
「ふう……僕はね、ずっとヒーローに憧れていたんだ。この力は、そのためにあるんだって思ってね。だから俳優業はせめてもの慰めのつもりだったのさ。フィクションの中ではヒーローになれたからね」
「あ! そう言えば沖田さんが有名になったのって、確か戦隊モノの……」
「そうそう、いや~楽しかったねえアレは。まあ、実際のアクションシーンはスタントの人だったんだけどね。でも、そしたら何かオバサマ達に大うけでさ、あれよあれよの間にドラマとか映画とか決まってね」
「あ、アタシもファンです!!」
「お、ありがとう」
「でも、アレじゃないっスか? それだったら顔隠さずに戦えばよかったのに」
「……それじゃヒーローっぽくないじゃないか。表の顔を隠し、世界がピンチの時にだけ颯爽と現れる……だからカッコイイんだろ?」
「そうよそうよ! アンタみたいに、単なる目立ちたがりの人とは違うんだからね!」
 ぬ、お……村上の奴、急に乙女の顔になりやがって……どうせ俺はイケメンじゃねえよ!
「あ、あのあの、後でサインとかくれますか?」
「うん、いいよ~。でも、今日からは君だって有名人なんじゃないかな?」
「で、でも沖田さんのファンには違いありませんから!」
「あははははは」
 く、クソ……なんだこの敗北感は。
 村上も村上だ、さっきまでレッドの恰好をバカにしてたくせに、中身がイケメン俳優だと分かった途端に掌返しやがって。所詮世の中イケメンが正義ですか、そーですか。
 
 ――と、その時部屋の入口が開かれ、如何にも偉そうな恰好のおっさんが入ってきた。
「やあどうも、お待たせして申し訳ない。私は陸上自衛隊第16師団長、大道寺 弦(だいどうじ げん)だ、以後よろしく」
 何かよく分からんが、自衛隊の偉い人、か?
 歳は40くらいだが、ガタイのいいおっさんだ。自衛隊の人って事だから、やっぱり若い頃から体を鍛えてたんだろうな。
「さて、色々と聞きたい事が山ほどあるのだが、まず……例の、巨大生物は君達が退治したって事でいいのかな?」
「ええ、そうです!」
 レッドが元気よく答える。ってか、お前は殆ど何もしてねえだろ!
「なるほど……まあ、大体のことは自衛隊の撮影していたビデオで見させてもらったが、要するに君達は、ああいった巨大生物と渡り合える力がある、という事だよね?」
「そうなりますね。僕以外にもいるとは驚きでしたが」
 だからお前は何もしてないんだっつうの!
「ふむ……時に君は確か、俳優の……沖田君だよね?」
「はい」
「まさか、君にそんな力があったとは思わなかった。まあともかく、君のような有名人が活躍してくれたことは幸いだ」
「……と、言いますと?」
「この度の巨大生物襲来によって、日本中の、いや世界中の人々が戦々恐々となっている。このままでは社会機能は麻痺し、経済的にもダメージが膨らむ一方だ。だが、君のような有名人がヒーローとして世界に呼びかければ、人々は安心し、日本も復興に向かって歩き出す事ができるだろう」
「えーと、それはつまりテレビとかに出て、何か言えと?」
「その通り。やってくれるかね? これは、君にしか出来ないことだ」
「……」
 考え込む沖田。何か、迷っているようだ。
 まあ、確かにちょっと、こいつの理想とするヒーロー像とは違う気がするが……しかし、大道寺のおっさんが言う事も理解できる。
 ようし、ならばここは、俺が一肌脱いでやろうではないか!
「あの! なんだったら俺がやってもいいんスけど!」
「……君は?」
「あ、俺は朽木健太郎ッス。普段はただの高校生なんですけど――」
「君はいいや。画にならなそうだし」
「がっ……」
 撃沈。え、画にならないって……結局イケメンじゃないからって事か!?
 と、俺がショックを受けているのを見て、村上は吹き出しそうな顔になる。
 くそ、笑ってんじゃねえ!
「そっちの君は……」
「ぷくくっ……えぁ? あ、アタシは村上夜恵です、中学生、です……」
 ふん、お前も凹め!
「じゃあ君と沖田君の二人でどうかね。一緒にテレビに出て、国民に訴えかけるんだ」
「アタシも!? しかも沖田さんと!?」
「なっ、何で俺は駄目で、こいつはいいんですか!?」
「だって女の子だもの。それに顔だって可愛いし……沖田君は女性から、村上君は男性からの支持を集められるだろ?」
「な……え……そんな……」
「どうかね、二人とも」
「あ、アタシはいいですけど……」
「……まあ、そういう事ならしょうがないですね。――あっ! 仮面は……?」
「できればそのままで」
「ですよね……はあ」
「よし、じゃあ早速で悪いが、二人とも一緒に来てくれるかな? こういう事は早い方がいい。幸いここには緊急会見用のスタジオもあるのでね」
「分かりました」
 そう言って、俺以外の三人は部屋を出て行く。
 その時一瞬だけ村上が振り返ったが……呆然としている俺の顔を見て、また吹き出しそうになりながら出て行った。

「…………な、な、納得いかねえ!! 俺、俺頑張ったじゃん! 俺、すげ~頑張ったじゃん! なのに、なんなのこの扱い!!」

 ――ガチャ!

「うるさいぞ、静かにしろ!」
「あ、はい、すんません」

 ――バタン!

 なんか、自衛隊の人に怒られた。

 あああ……俺、何なの……俺……
 そりゃさ、確かに俺イケメンじゃないよ? 不細工だとも思ってないけど、イケメンじゃあないさ。でも、だからって……ひどいよこんなの……

 ――そうして俺が泣きそうになっていると、再び扉が開かれ、何やら科学者風の、若い男が現れた。
「……こちらへ」
「え、あ、はい」
 外に出るように促がされ、立ち上がる俺。
 でも……何となく嫌な予感がした。それが何なのかははっきりしないが。

 廊下に出て、その男に着いて歩く。
 地下なだけあって、照明は点いているものの、何となく薄暗く感じる廊下。窓がないからだろうか……
 と、歩きながら男は、この地下施設についての説明をし始めた。
「ここは、非常時に要人を匿う施設です。都内にも幾つかありますが、逆に都心を避けて作られた施設というのもあり、その一つです」
「はあ、なるほど」
「ここの存在については機密扱いの為、政府の中でも一部の人間しか知りません。よって、貴方にもその機密を守ってもらう義務があります」
「それはまあ、分かってます」
「ところで……貴方のご家族は?」
「は? えっと、父と母と、あと妹が」
「なるほど……」
 両親は共働きで、妹はまだ10歳。明美って言うんだけど、これがま~可愛いんだな! ちょっと病弱で、入退院ばっかりだが……俺が見舞いに行くと、お兄ちゃんお兄ちゃんってそれはもう……
 でも……何でいきなり家族構成なんて聞いてくるんだろうか。

       

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