Neetel Inside ニートノベル
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世界を救うのは俺だ!
第四話

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○第四話「俺の妹がこんなにドラゴンなわけがない」

「兄上殿、これは何かな?」
「……ゲーム機だ」
「ほう」

「兄上殿、これは何かな?」
「……パソコンだ」
「ほうほう、これがそうか、テレビと見分けがつかないな」

「兄上殿、これは?」
「……漫画」
「ほほう、読んでもいいかな?」

「兄上殿……これ……」
「ぬあ!? そ、それは駄目だ! 読むな!!」
「あ、うん。そうか……兄上殿は大きい胸が好きなのだな」
「うるさいわ!」

 明美、と言うかドラゴンとの生活二日目。
 見るもの全てが珍しいんだか知らんが……これは何だ、アレは何だとうるさい……
 
 部屋の中のモノは、家具以外は大体俺の私物。学生寮の部屋からここに移させたのだ。
 最近ではようやくインターネットも許された。だが、どう言う処理をしてるんだか知らんが、掲示板等への書き込みやメールのやり取りなどは一切できない。

 その一方で近々、家族などの限られた人との電話も許されるらしい。そうなったら……両親に明美のこと、どう説明すればいいかな……
 いやそもそも、両親からすれば明美はいきなり病院からいなくなったように思われているに違いない。ドラゴンは誰にも言わずにここに来たらしいから。
 その辺のフォローを、施設の人間がしてくれてると助かるんだが……あんまり期待できないな。

「お~い兄上殿~、シャワーからお湯が出ない~」
「さ、さっき教えただろ……」
「教わったとおりにやったのだ~、でも出ない~」
「どうしろってんだ……」
「一緒に入ろう~、その方が手っ取り早かろう~」
「……は、入らねえよ!」

 奔放すぎるだろ、ドラゴン……
 一応、大道寺からの許可は取って、表向きは妹としてこの部屋に置くことになったわけだが……先が思いやられる。大体、いつ頃出て行く気なんだ、妹の体から。

「兄上殿は、自分の怪我や病気が後どれくらいで治るか、分かるのか?」
「いや、正確には分からねえけど……」
「つまりそういう事だ。まあ、気長に待つが良い」
「……き、気長ってお前、何十年もとかだったら、妹の人生どうしてくれる!」
「……兄上殿は本当に明美の事が大事なのだな。他にも身近にオナゴがいるだろうに」
「妹とは別枠だろ!?」
「まあそうだな。だが安心しろ、年単位と言うことはないと思う。多く見積もっても、2、3ヶ月といったところだろうな」
「ほ、本当か?」
「ああ」
「そ、そうか……なら、まあ……」
「ふむ。納得していただいた所で、兄上殿、そろそろ寝ようか……一緒に」
「な、何でお前と一緒に寝なきゃならんのだ!」
「だってベッドは一個しかないじゃないか」
「お前はソファに寝ろ!」
「可愛い妹の身体を、決して寝心地が良いとは言えないソファに追いやるとは……」
「くあっ……じゃ、じゃあ俺がソファに寝るわ!」
「ふふふ……意地っ張りめ」
 何で俺がソファに寝なきゃならんのだ……ったく、体は本物って言うのが、実に始末が悪い!
 あ~あ、意識も明美のままならな……喜んで一緒に寝てやるのに。


「健太郎の妹!? うわ~似てない! 似なくて良かったね~明美ちゃん」
「そうかな、僕は似ていると思うよ。ほら、目元とか」
 ドラゴンが来てから三日目、施設の食堂にて。
 ゴスロリとレッドは勿論、これがドラゴンだとは思っていない。明美本人に会った事がないのだから当然だが……ドラゴンはその上、本当に俺の妹を演じているのだ。
「お姉ちゃん達は、お兄ちゃんのお友達、ですか?」
「え、まあ、そ、そうかな。うん、友達……」
「僕は沖田昴……いや、レッドでいいよ。よろしくね明美ちゃん」
「えと、アタシは村上夜恵、夜恵って呼んでね」
「分かった。レッドさんと夜恵さんだね。よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げるドラゴン。子供ながらに礼儀正しいところなんて、本物の明美にそっくりだ……
「わ~……いい子だね、明美ちゃん。健太郎の妹なのに!」
「一々俺を貶めないと気が済まないのかお前は……」
「あ、ところで健太郎君聞いた? 迎撃部隊、縮小するんだって」
 レッドが言う迎撃部隊ってのは要するに、ヒーロー予備軍、及び16師団の自衛隊員全体の事を指している。
「まあ、噂はな……」
「ん? 噂ってなんですか、沖田さん」
「大道寺さんが言ってたんだよ。結局あの怪獣みたいな敵を相手に、有効な手段は限られているから……戦力にならない人は部隊から外すんだって」
「ああ、でもしょうがないですよ、かえって邪魔ですもん、アタシ達の」
「う~ん、そうかもしれないけどさ……でも夜恵ちゃん、気にならない?」
「何がですか?」
「部隊から外された人は、どうなるのかって」
「……えっと……」
「自衛隊の人はいいよ、他の任務に当たればいいんだし。でも、僕らみたいな特殊能力があって、それでも戦力外になった人は……どうなるんだろうね」
 レッドが言っているのはつまり、戦力外になった連中の扱いが悪くなるんじゃないか、という心配だろう。
 例えば、能力を検証する為とか言って、非人道的な実験されちゃったり、な。
 俺達だってそういう事をされる危険性はあるわけだが、そこは一応、敵と戦う為の力として大切に扱わなければならないと言う建前があるので、そうならないだけ。
 でも、戦力外になってしまった奴らは……極端に言えば、大切に扱う必要はない、という事だ。その上で、異能を持っているわけだから……
「なんだかちょっと、可哀想だよね。相手がもう少し弱かったら、彼らもヒーローになれたかもしれないのに」
「う~ん……どうなんでしょう、ね」
 ふと、周囲を見渡してみる。食堂には、食事時だと言うのに人数が少ない。
 少なくとも前回の襲撃があるまでは、ここはもう少し賑やかだった。つまり、今日の時点で既に、何人か……

 そうだ……これは他人事ではない。
 今回の一件が全て片付いたら、今ここに残っている者全員が用済みになる。その時、どういう扱いになるのか。
 レッドとゴスロリは、もしかしたらそのままアイドル的な存在として、もてはやされていくかもしれない。だがそれ以外の奴らは……
 次の襲撃に備えて、囲われ続ける? それならまだ良い方だ。下手すれば、本当に人体実験とかされかねない。
「――健太郎君、健太郎君!」
「健太郎! 何ぼーっとしてんの!」
「んっ……ああ、何だ?」
「何だって、急に難しい顔して黙り込んだから、どうしたのかと思って」
「いや……あ~、明美、そろそろ部屋に戻るぞ」
「あ、うん。ごちそうさまでした~。それじゃあまた」
「あ、うん、またね明美ちゃん」
「今度僕らと一緒に遊ぼうね~」

 俺はドラゴンを連れて食堂を後にする。そして廊下を歩きながら、今後の身の振り方について考える。
 結局……ちゃんとしたヒーローになれなければ、俺達異能者に明るい未来はないのだろうか。どんなに活躍しても、ヒーローになれない以上は……俺も……
「――彼らは怒らないのだろうか?」
「……あん?」
「他の能力者達だよ。確かに我々と戦うには力不足だったかもしれないが、しかしそれでも、普通の人間よりは優秀なのだろう?」
「まあ、多分な」
「自由を奪われ、虐げられ続け、それでも……ただ黙って耐えるのかな?」
「……何が言いたいんだ」
「分かっているのだろう? この事の危険性を。人は、自らの行いによって、自らの中に敵を作り出してしまうかもしれないのだ」
「……反逆するって事か」
「ふふふ……しかしそうなったら、それはそれで見ものだな。果たして、誰が誰を味方し、誰を討つと言うのか……なあ? 兄上殿」
「同意を求めるな」
 敵の一味であったドラゴンからすれば、そりゃあ面白い展開なのかもしれん。
 だが、同じ人間である俺としては……考えるのも嫌になる展開だ。
「……つうかよ、お前らって結局何なの?」
「今更それを聞くのか?」
「ふん。お前の思っている通り、俺は敵らしい敵さえ来れば、そいつがどんな奴だろうと構わなかったんだよ。少なくとも、今まではな」
「なら何故聞く?」
「お前らの襲撃が止むのがいつなのか分かれば、こっちも色々準備できるだろ」
「色々、か。しかし残念な事に、我々の襲撃がいつ止むのかなんて、私にも分からない。それに、私は自分が本当は何者なのか、それすらも分からないんだ」
「はあ?」
「私は君達が知っているあの姿で、突然に生まれたのだ。そして生まれたばかりの私の頭の中には、地球と言う星の、人間と言う種族を滅ぼさなければならない、という想いだけがあった」
「……お前はドラゴンなんだろ?」
「ああそうだ。そうだと、思う。君達にとって、私のあの姿がドラゴンである以上は、私はドラゴンなのだ。でも……そうだな、私は一体何者なのだろうか」
「知らんよ……」
 自分の事なのに、本当に分からないらしく、それっきりドラゴンは黙り込んでしまう。
 この様子じゃ、宇宙人のことだってよく分かってなさそうだな。まあ、宇宙人に飼われていたペットとかその辺なんだと思うんだが……

       

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