Neetel Inside ニートノベル
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 ――そうしてドラゴンとの共同生活も一週間が過ぎ、敵襲来の日。

「気をつけてな、兄上殿」
「何でお前に心配されにゃならんのだ。お前も敵だったろうが」
「つれないな兄上殿。寝食共にした仲ではないか。お風呂だって一緒に……」
「お前がシャワーの使い方覚えないからだろ!」
「ふふふ、本当はとっくに使いこなせているのだが、兄上殿の反応が面白いので、つい」
「くあ……も、もういい! 行ってくるから、おとなしくしてろ!」

 ブリーフィングルームにて、前回同様、スライドを見ながら作戦の説明を受ける。
 今回の敵は……
「え~……見ての通り、悪魔だ」
「あ、悪魔!?」
 思わず素っ頓狂な声を上げるレッド。しかし、他の奴らも同様に、驚きを隠せない。
 スライドに映っていたのは、確かに悪魔と形容する以外にない姿をした化け物。黒く、見るからに硬そうな体、凶悪な顔、そしてコウモリのような翼……
 周囲に移っている建物の大きさから考えるに、悪魔自身の大きさは多分、巨人女の半分くらいだ。
 だが、俺らからすれば充分巨大である。それに今までの奴らより小さいからって、弱いって事にはならない。
 で、どうやら前回同様、世界各地に出現しているらしい。
「過去の二体に比べるとかなり小さいようだが、他国からの報告によると、魔法のような力を使うらしい」
「ま、魔法ですって?」
 今度はゴスロリが反応する。自分も魔法みたいな力を使うから、だろうな。
「村上君の使うものとは少し種類が違うようだ。君は主に、雷を発生させる能力だったな? だが悪魔が発生させるのは、闇だ」
「闇……闇を発生させて、どうするって言うんですか?」
「それ自体が攻撃というわけではないらしいが、しかし全ての視界が奪われると言うのは、それだけで脅威だ。敵も味方も場所が分からなくなるだろうし、下手すれば同士討ちの可能性もある」
 大道寺の言うとおり、まったくの暗闇になってしまうのであれば、戦いどころではない。その上、悪魔からは一方的にこちらの姿が見えるのだとしたら……どうにも不利すぎる。
「しかし、我々としても何の対策も考えていないわけではない」
 大道寺の言葉に応えるように、自衛隊の連中が何かを机に並べる。
「熱源センサー……所謂サーモグラフィー機能がついたゴーグルだ。これがあれば、暗闇でもお互いの居場所が分かるはず」
 なるほど……まあ、悪魔の体温ってのはどうなのか分からんが、少なくとも同士討ちは防げそうだな。
「悪魔は既に東京に到達している。そして現在は、例の巨人が進攻を食い止めているところだ。諸君らも、至急応援に向かってくれ」
 巨人女か。
 ってか、既にアイツを自分達の戦力として扱ってるみたいだな、大道寺達は。勿論、巨人女自身はそんなつもりないだろうけど。

 さて……それはともかくだ。もしかしたら既にお気付きの人もいるかもしれないんだが……今回の敵は、俺からすれば実に厄介な相手のようだ。
 ご存知の通り、俺は光を取り込むことで力を発揮する異能者。
 だが、今回の敵は闇を生み出す魔法を使うらしい。もし俺の周囲が闇に包まれてしまった場合……俺はエネルギー切れを起こす可能性がある。
 勿論、すぐに力尽きるわけではない。ある程度は体内に蓄積されてる光で戦える。
 とは言え、やはりそう長くはもたない。
 もしエネルギーが切れたら俺はどうなるか……簡単な話だ、常人と同じになってしまう。
 当然そうなれば戦えないし、もし一発でも攻撃を受けたら、死ぬ。
 いやそれどころか、戦いによって崩れた瓦礫とかに潰されるだけでも、死ぬ。

 他の奴らはどうか知らんが、今回は俺一人ハードモードでの挑戦ってわけだな。


 そして東京へ。
 東京は何やら、真っ黒なドーム状のものに包まれていた。どうやら既に、悪魔の魔法が発動した後らしい。
 慎重に、警戒しつつそのドームに近づいていく。すると、中からは何やら、巨大なものがぶつかり合うような音が聞こえてくる。そして……
「きゃああああ!!」
 巨人女の、悲鳴。
 恐らく、巨人女と悪魔がこの中にいて、目が見えなくなった巨人女が一方的に攻撃を受けているのだろう。
「い、今の、あの子の声! 早く行かなきゃ!」
 慌ててゴーグルを装着し、闇の中に入っていくゴスロリ。
 アイツは少々焦りすぎな気がしないでもないが、しかし俺も躊躇してばかりじゃいられない。虎穴にいらずんば何とやらだ。
 とは言え、光の力を纏ったまま入るのは勿体無い。ここは力を温存する為に、闇のドーム付近からは歩きで入る事にしよう。

 ってな訳で、とあるビルの屋上へ。ここには丁度ドームの縁に当たる部分がある。
 俺はゴーグルを装着し、恐る恐る闇の中へ侵入。サーモグラフィーをオンにして、辺りを見回す。
 すると、一際大きな熱源を発見。巨人女だ。
 巨人女はへたり込み、苦しそうに息を荒げている。細かな表情までは分からないが、相当きついのだろう。
 しかし悪魔らしき熱源は見えない。やはり、こんなもので見えるほど甘くは無いのだろうか。
 となると、後は……音とかで見つけるしかないのだが、俺も聴覚は普通の人間と同じだからな……一応やっては見るが……

 俺はその場に止まり、耳を澄ましてみる。
 悪魔は比較的小柄とは言え、そこらの家一件分くらいの大きさはある。それだけの大きさのものが動き回れば、確実に音がなるはずだ。足音とか、羽音とか……

 どこだ……どこにいる?

「だ、大丈夫?」
「あ、そ、その声は~……わ、私が見えるんですか?」
「ええ、まあね……で、どうなの?」
「あはは……ちょ、ちょっと、やられちゃいました。でも相手は今、どこかに身を隠しているみたいです」
「そのようね……」
 耳を澄ましているせいか、ゴスロリと巨人女の会話が聞こえてきた。
「こ、これ、何なんですかね……何にも見えません」
「闇よ。闇が広がってる……としか。私も、このゴーグルがないと何も見えないわ」
「た、建物の位置、とか……わかんなくて……動けないんです」
「なるほど……厄介ね」
「あっ、で、でも、あの人ならもしかしたら! 光の力で闇を祓ったりとか、できそうじゃないですか?」
 ぬお!? よ、余計な事を! できるかそんな都合のいい事!
「なるほど……でも、あいつ今どこに……」
 だから、できないんだって! ってか、お前らそんなところで堂々とくっちゃべってると――
「きゃあああ!!?」
「な、な、何!? な――うあああ!!」
 突如、二人の姿が大きく吹っ飛んだのが見えた。悪魔が襲ってきたのだ。
 言わんこっちゃない……いや、言ってないが。
 ってか、確かに空を切るような音が鳴ったようにも思ったが、ああも素早く動かれては……位置の特定なんて無理そうだぞ。
 どうする……どうすんのよ俺!!
「や、夜恵ちゃん!? 大丈夫!?」
「お、沖田さん気をつけて! 近くに――」
「わああああ!!」
「沖田さん!!」
 レッドも攻撃を受けたようだ。
 だが、俺はどうしたらいい!? 何も見えない!!
「け、健太郎! どこ!? 闇を、祓って!!」
「お願いです~!!」
 だ~から、俺が放つ光ってのは、自分が光るだけなんだっての! 闇を祓うとかできねえの!!

 それにどうやらこの闇は、単に暗くなっているってわけじゃないらしい。もしそうなら、ライトで照らせば見えるはずだ。でも現に、街に溢れる様々な光も失われている。
 勿論サーモグラフィーによる映像も光に含まれるはずなのだが、アレが見えるのは恐らく、目に近い位置での光だからだろう。
 つまりこの空間は、真っ黒な水に包まれているようなものなのだ。全ての光は発生源付近ですぐ失われてしまう。俺自身が強く発光して周囲を照らす、なんて事も不可能なのだ。

 とまあ、原理は分かったが、分かったところで解決はしない。
 どうすれば奴を見つける事ができるのか……攻撃すらできないのでは、倒す事もできないわけで……
 
 ――あん? 攻撃……?

 ってか、何で俺を攻撃してこないんだ? さっきから、聞こえてくるのは俺以外の悲鳴ばかり。まさか、俺の存在に気付いていないとか……
 いや、気付いていないのか。ああそうか! 俺声出してないからだ!

 なるほど、敵も目で見て攻撃しているわけじゃないんだ! 音で相手の居場所を特定してる! コウモリと同じなんだなアイツは!

 だとすれば……ああしかし、そうなると……ううむ……

「た、助けてくれ健太郎君!!」
「ちょ、何やってんのよ! けんた――きゃあああ!!」
「あ~~ん!!」

 …………それしかねえか……チャンスは余り多くないが、他の奴らにできるやり方だとも思えん。

 俺は、自分が今いるビルの屋上を手探りで歩き回り、壁になっている部分を見つける。そしてそこに背をつけ、大きく息を吸い込む。
「すぅ~~~……おい!! そいつは音に反応するぞ!! 俺がひきつけるから、暫く声出すの我慢しろ!!!」
 俺の声が届いたのか、ゴスロリ達の声が止む。
 しかし、悪魔もすぐには目標を変えるつもりがないらしく、何度か攻撃の音が聞こえてきた。恐らくは微かな呼吸の乱れですらも、奴には聞こえているに違いない。
「おいこら悪魔!! こっちに来い!!」
 俺は、あいつらの呼吸音をかき消すように大声を出し続ける。
 いくらアイツらが異能者だからって、一方的に攻撃を受け続けていたら命が危ない。なるべく早くこちらに目を向けさせなければ。
「てめえの攻撃なんざ怖くねえぞ! やれるもんならやってみろ!!」

 ――すると、攻撃による音が止んだ。

「…………」
 背中には、壁。だから奴の攻撃は俺の前方からのみになる。
 後は音に集中だ。絶対、何らかの前兆があるはず……

 ……………………
 ………………
 …………

 ――羽音!

「ぬおおおお!!」
 突如、俺の体に大きな何かがぶつかり、その衝撃が伝わって、後ろの壁が砕け散る。
 だが、俺はその一瞬のインパクトに併せて力を解放し、その何かにしがみついた。
 俺の体にぶつかってきたもの……それはまるで大型バイクか何かくらいの大きさの、悪魔の拳だった。
「く、く……捕まえたぞ……」
 そう、見えないのなら、捕まえてタコ殴りにするまでだ。
 すると、ここからでは闇に包まれて見えない悪魔の表情が、怯えたものに変わっていく気がした。
 見えないから、本当にそうだったかは分からないがな。

 まあいずれにせよ、覚悟するがいい。
 泣いて謝ったって、許さないからな!

       

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