Neetel Inside ニートノベル
表紙

世界を救うのは俺だ!
第一話

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○第一話「選り取りみどりの救世主」

 ヒーローにとって一番大切なモノはなんだと思う?
 力? 仲間? 守るべき存在?
 確かにどれも大切だとは思うが、一番じゃない。

 ヒーローにとって一番大切なモノ……それは、敵の存在だ。
 それがないと、ヒーローの方こそ異端の存在として敵視されてしまう事だろう。
 人は、向けるべき相手がいない力を恐れる。故に、ヒーローはヒーローだけでは成り立たないのだ。


 俺の名は朽木 健太郎(くちき けんたろう)。どこにでもいる普通の高校生……
 では、ない。
 生まれ持った異能を隠し、普通であろうと努力してきただけの、超人だ。

 俺にとって不幸だったのは、この世界に敵がいなかった事だ。だから俺はヒーローにはなれなかった。そして世間からの迫害を避ける為に、自身の力を隠して生きてきた。

 でも、本当は自分の力を見せびらかしたいと思っていた。そりゃそうだろう、折角の素敵パワーだし。自慢したくなるのも無理はあるまい?
 それに、能力があるのにそれを活かせないというのは、思いのほか苦痛なのだ。何て言うか、手足を伸ばせない檻の中にずっと閉じ込められている、みたいな……

 だから、あの宇宙人のメッセージを見た時、俺は興奮した。
 ようやくその時が来たのだと。
 この檻を破壊していいのだと。
 見せびらかしちゃってもいいのだと。

 いやむしろ、そう望まれていると!

 俺は17年間ずっと、この日を待っていた! 誰もが認める、敵らしい敵の襲来を!
 強大な力は、大衆に望まれれば正義となりうる! 俺はようやく、名実共にヒーローになれるのだ! 誰からも慕われる、完全なるヒーローに!!


 ――それなのに……それなのに、これはどういう事だ!


「おい! アレを倒したのは俺だろ!?」
「違うわよ! アタシのおかげだっつーの!」
「あのあのあの~、危ないから下がってた方がいいですよ~? まだドラゴン、生きてますから~」
「君こそ下がれ! 奴は僕が倒す!!」

 地面に伏すような形で倒れているドラゴンを前に、数人の人間が言い争いをしている。各々、ドラゴンが倒れたのは自分の手柄だと主張しているのだ。
 その内の一人は勿論俺なのだが、その他にも何人か、ふざけた恰好の奴らがいる。そして確かに、俺達はほぼ同時にドラゴンに一撃を入れた。

 ――つまり、俺以外にもヒーロー予備軍が沢山いたって事だ!

 まさか、俺以外にそんな奴がいるとは思わなかった。完全に、世界を救えるのは俺一人だと妄信していたのだ。
 しかも奴ら、私服丸出しの俺とは違い、何となくそれっぽい恰好してやがる。
 例えばゴスロリチックな服を着た気の強そうなツインテール女や、そこらのビルと同じくらいの巨体を持つおっとり巨人女、どこかの戦隊ヒーローっぽい赤い奴など……
 それに、今この場にはいないものの、他にも何人かの気配を感じる。一体、どんだけ潜んでたんだよ、ヒーロー予備軍は……

「――ふははは! 諸君、この仮面グライダーが来たからにはもう大丈夫!」
 と、何やら空を横切る影がドラゴンに近づいていく。それはグライダーに乗った、仮面の男だった。どうやら抜け駆けを狙っているらしい。
「角度よ~し、高度よ~し! 行くぞ必殺、グライダーキーック!」
「させるか!」
 突然近くに居たゴスロリ女が叫び、何やら杖のようなものを天にかざした。すると、グライダー男に向かってどこからともなく落雷が!
「ぴゃ!?」
 雷に撃たれたグライダー男は、変な悲鳴と共に墜落して行く……
 ってか、トドメを取られそうになったからって、ドラゴン以外の奴にまで攻撃するとは……可愛い顔して、何て危ない女なんだ。
「お、おいおい……そこまでやるのか?」
「抜け駆けされてたまるかっての!」
 思わず突っ込んでしまったが、確かにこいつの言う事も一理ある。このまま他の奴らにトドメを刺されては、今までの苦労が水の泡だ。

 ――などと考えていると、突然地面が大きく揺れ始めた。どうやら、ドラゴンが意識を取り戻して、体を起こし始めたようだ。
「グウウウゥゥ」
 しかしドラゴンは、起き上がり様に素早くバックステップし、俺達から一気に距離を取った。
 先程俺達の一斉攻撃を受けた事で、このままでは分が悪いと悟ったのだろう。
 それにしても、このドラゴンは巨体のくせして、かなり身のこなしが軽いようだな。
「逃げる気か!? おい君達! とにかくトドメを刺した者がヒーローだ、いいな!?」
 レッドが叫ぶ。と、やはり最初にそれに同意したのはゴスロリだった。
「望むところよ! 今度こそ、誰にも文句言わせない一撃を見せてあげる!」
 他のヒーロー予備軍どもも続々とレッド達の意見に同調し、次の攻撃準備に入った。
 それを見たドラゴンも次の攻撃が来ると分かったらしく、雄叫びを上げて威嚇しつつ、翼を大きく開いた。そして強く足を踏み込んだかと思うと、一気に天高く舞い上がり、その場を飛び去ってしまった。
 距離を取られていたせいで、ゴスロリ達はその逃走を防ぐ事ができなかった。しかし、だからと言って諦めるわけでもなく、各々のやり方で追撃に向かい始める。
 空を飛ぶ者、走る者、瞬間移動する者……とにかく色々な方法でその場を離れ、後には俺と、巨人女が残された。
「はう~……置いてかれちゃいましたねぇ」
「お前は追わんのか?」
「えっとですねぇ、多分、あのドラゴンさんは凄く強いです。みんなで攻撃しても、一瞬気絶させるのがやっとでしたからぁ」
「ふむ」
「ですからぁ、みなさんが一生懸命戦った後で、弱ってる所を攻撃するのがいいと思うんですよね~。こういうの、漁夫の利って言うんですよぉ」
 ドヤ顔でふんぞり返る巨人女。中々にしたたかな奴だが、俺も同じ意見だ。
「ところで……お前は普段からでかいのか?」
「はい~。これでも山の神様なんですよぉ~。神様だから、姿を消したりできます」
 またもやドヤ顔の自称山の神。しかし……
「神様って言ってる割には、学校の制服じゃねえのかそれ」
 巨人女が着ているのは、どでかいサイズではあるものの、女子校生の制服みたいなものだった。自称神様が着るにしては、少々俗っぽすぎるんじゃなかろうか?
「似合いませんか?」
「似合わないとは言わないが、神様が着る服か、それ」
「はうぅ……でも、街で見かけた女の子が着ていて、可愛かったのです……私、普段はずっと姿を隠してなくちゃならないから、せめて恰好だけでも真似してみたかったのですよ」
 まあ、そうだろうな。普段から姿見えてたら、こんな巨体じゃすぐに見つかっちまうし、だからこそ普通の女の子の恰好に憧れるってのも、分からないでもない。
 それにそう言われてみれば、確かに巨体ではあるものの、容姿だけなら同年代の女の子にも見える。ふわふわした髪と童顔、それでいて中々に肉感的なスタイル……もし普通の女子校生だったら、そこそこ男子に人気が出そうだ。
「それでぇ、そう言う貴方はどんな力を持っているんですかぁ?」
「俺か? ん~……まあ、見せた方が早いな」
 そう言って俺は、自身の能力を少し解放する。それにより、俺の体は物凄い発光を始め、最早光の塊と言った具合の姿へと変わる。

 ――説明しよう!

 俺こと朽木健太郎は、あらゆる光を吸収することで自身の能力を高める事ができる、光の戦士なのだ! その恩恵は主に、高速移動や飛行、身体能力の強化などで現れる! つまり、光のあるところでなら無類の強さを発揮する事が可能なのだ!

 ――決まったな! 一度これをやってみたかった……

 まあ簡単に言うと、全身がソーラーパネルみたいなもんだ。太陽の光に限らず、全ての光が俺の力となるってわけ。
「ああ~、そう言えば最初の攻撃の時、一瞬光が降ってきたのを憶えてます~。それが貴方だったんですねぇ」
「まあな。しかし、いるところにはいるもんだな、異能を持つ奴って。俺は今まで、俺しかいないものだと思い込んでいた」
「私もですぅ。あ、でも、私みたいな大きい人はいないですね、あははは」
 そう言って巨人女は笑うが、何となく寂しそうにも見えた。まあ、こいつにも色々あるんだろう。
 でも、だからって同情している場合ではない。俺だって一度力を使ってしまった以上は、何としてもヒーローにならなければならないのだ。
「さあ、そろそろ頃合かな。俺は今から奴を追うが、お前はどうするんだ?」
「私はここでドラゴンさんを待ちます~。どうせ、空とか飛べないですからぁ。それに、一人くらいここにいないと、ここを守れる人がいなくなっちゃいますしね」
「……お前、最初からそのつもりだったのか? 漁夫の利とかじゃなくて」
「あはは~何のことでしょうか?」
「ふん……だからって手柄を譲ったりはしないからな」
「行ってらっしゃ~い」
 笑顔で俺に手を振る巨人女。
 ……同情なんかしないぞ! しないんだからな!!

 何となく後ろ髪を引かれる気がしたが、それを振り切って俺は光を纏い、その場を飛び立つ。そしてドラゴンが向かったと思われる、太平洋へ。

 恐らくドラゴンは、逃走したと見せかけて他の奴らをバラけさせ、隙を見て個別撃破に転じるつもりなのだろう。冷静且つ頭の良い俺はそれを瞬時に判断し、残ったわけだ。単に出遅れたってワケじゃない! ホントだぞ!
 とは言え、ゴスロリ達もそう簡単にはやられまい。さっきの仮面グライダーとか言う奴はアレだったが、少なくともゴスロリの魔法みたいな力は強力だ。ドラゴンも、相当苦戦していることだろう。
 そうして消耗しきったところで、俺が渾身の一撃を決めれば……巨人女の言う、漁夫の利作戦成功だ。やはりトドメを刺すのが一番目立つし、手柄になるからな。決めるべきところで決めるのも、ヒーローの条件――

 と、その時……俺は何か、大きなものが高速で自分とすれ違ったのに気付いた。その刹那、俺の目に映ったのは……俺を横目に、再び日本に向かって飛行するドラゴンの姿……

 ――しまった!
 まさか、ゴスロリ達はあっけなくやられてしまったのだろうか? もしくは巨人女が狙い? いやいやそれとも、普通の人間を滅ぼす事を最優先にしたのか……
 いずれにせよ、俺は裏をかかれた。まさか、アレだけ手痛い目に遭った日本に戻ろうとするとは……少なくとも、他の国にターゲットを変えると思っていたのに!

 俺はすぐさま方向を転換しようとするが、俺自身も飛行にはまだ慣れておらず、かなり大回りしなくてはならなかった。何せ、そうできる能力があっても、それを練習する機会は殆どなかったからだ。
 そうして俺が苦労している間にも、ドラゴンはどんどん日本に迫っていく。巨人女が残ってはいるものの、東京以外を攻められたら対応しきれん。何とか、コースだけでも変えなければ!

     


「ちょっと! 手伝いなさい!」
 何とか方向を変え終わった所で、ドラゴンを追う為に引き返してきたと思われるゴスロリ女に話しかけられた。
 ゴスロリ女も空を飛んでいる。多分これも、こいつが使える魔法の一つなのだろう。そして俺達は二人並んで、飛行を再開する。
「まさか惹き付けるだけ惹き付けて、いきなり戻り始めるとは思わなかったわ! あいつ、ただの爬虫類じゃないわね!」
「みたいだな! でも、今はそれどころじゃねえだろ!」
「そうよ、だから手伝いなさい! 何とか上陸だけは防がないと! 人間が殺されすぎたら、ヒーローがどうとか言ってられないもの!」
 同意見だ。だが……ドラゴンの勢いは凄まじく、上陸そのものを防ぐのは無理がある。
「今からじゃ間に合わん! だから、せめて同じ場所に上陸させよう! 東京なら避難が終わってるだろうし、巨人女が残ってる!」
「なるほど……分かったわ! 私は右から行くから、アンタは左から攻めて! アイツのコースを東京に限定させるわよ!」
「了解!」
 
 そこから二人、左右に分かれてドラゴンを追い、何とか隣に並ぶ位置にまで追いつく。
 このまま正面に回りこむだけの技量は今の俺には無いが、ここから威嚇して、コースを限定させるくらいならできそうだ。

 そうして俺とゴスロリの二人でドラゴンを誘導し、ドラゴンもそれに従う形で東京へ。
 だが、ドラゴンも意地があるのか知らんが、微妙に先程とは違う場所へ降りようとしていた。
 人の避難自体は完了しているかもしれない。しかし、無駄に建物を破壊されてしまうのも困る。何とか被害を最小限にできないものか……とは言え、ゆっくり考える間も――

「ええぃ!」
 その時だった! あの巨人女が素早くドラゴンの正面に立ちはだかり、体当たりをぶちかましたのだ!

 巨体を持つドラゴンの滑空と、巨人女の体重を乗せた体当たりとがぶつかりあい、周囲には衝撃波が発生した。そしてドラゴンと巨人女は互いに大きく吹っ飛び、結果として……街の方に向かって倒れた巨人女の方が、建物を少し破壊してしまう。
「いったぁい~」
「あ~あ……でもまあ、まだマシな方か」
「――何を余所見してるの!?」
 ゴスロリ女に突っ込まれ、慌ててドラゴンの方へ向き直る。と、ドラゴンは苦しそうに息を荒げながらも、既に体を起こし始めていた。
「まだ動けるなんて……文字通りの化け物だな」
「だけどここまでよ! 今度こそトドメを刺してあげるわ!」
 そう言ってゴスロリ女は、杖を構えて力を溜め始めた。その身にオーラのようなものを纏い、如何にも強力そうな攻撃を狙っている事が分かる。

 しかしゴスロリ女はまだ、このドラゴンを甘く見ているらしかった。もしくは、功を焦ったのかもしれない。そのせいか、ドラゴンが次の行動に移り始めている事に気付かなかったようだ。
 ドラゴンは、ゆっくりと大きく息を吸うような動きをしていた。この動きから連想するものは一つしかない。
 しかも、あまりにも分かりやすいゴスロリ女の攻撃準備を見て、ドラゴンの標的は完全にゴスロリ女に移っているらしかった。
 だが、当のゴスロリ女はそれが攻撃の為の動作であると気付いていないのか、力を溜めるのに集中し続けている……

 そこで俺は咄嗟に、ドラゴンの攻撃を阻止するべく、その横っ面目掛けて突っ込んで行き、光の力を纏った蹴りを入れた!
 ――だが、ドラゴンもそれは予測していたらしく、腕でガードされてしまった。結果、ドラゴンは少し後退りしただけで、体勢を崩すまでには至らなかった。
 全力だったらガードの上からでも、顔を逸らすことくらいは出来たかもしれない。しかし咄嗟の行動ゆえか、そこまでの力は込められなかったようだ……
 そうして息を目一杯吸い込んだドラゴンは、そこから腕を振り払って俺を弾き飛ばしつつ、口を大きく開き……強烈な、白熱のブレスを吐き出した!

 確かにゴスロリ女はライバルだが、助けられないのは嫌だ! しかし、完全に体勢を崩された俺は救助に向かう事すら出来ず、ただ目を背ける事しかできず――
「きゃあああ!!」
 だが、聞こえてきた悲鳴はどうも、ゴスロリ女のものではないようだった。
 顔を向け直すと、そこには……巨人女の背中が!
 どうやら巨人女もドラゴンのブレスに気付いたらしく、咄嗟にゴスロリ女の前に回りこんだらしい。そして背中でブレスを受け止め、結果としてゴスロリ女だけではなく、街への被害も抑えたと……
「あ、あついよぅ……」
 巨人女は震えた声を出しつつ座り込んでしまったが、しかし背中はちょっと赤くなっている程度だ。
 どうやら巨人女もただでかいワケじゃなく、相当タフらしい。まさかあの、見るからにヤバそうなブレスを受けきって、ちょっとした火傷で済ますとは……

 ――と、少し呆気に取られていたその時、突然、ドラゴンの周囲に雷の球のようなものが幾つも発生した。
「やってくれるじゃないの……正直油断したわ」
 ゴスロリの魔法だ……どうやら、巨人女の影から発動させているらしい。
 ドラゴンは少し後退りするように怯んだが、しかし、最早逃げ場などなかった。
 そして次の瞬間、轟音と共に、雷の球全てから物凄い量の雷撃が走り、ドラゴンの体を貫いた!
「ガアアアアアア!!」
 絶叫とも言える声を響かせ、ドラゴンはゆっくりとその場に倒れて行く。そしてそのまま、受身を取る事もなく地面に突っ伏した。
 まだ辛うじて息があるみたいだが、さすがにもう立つ力もないだろう。後は……トドメを刺すだけ。

 だが、俺はそれ以上攻撃をする気にはならなかった。ゴスロリ女もそうらしく、座り込んでいる巨人女の顔の位置へ飛び、声を掛けていた。
「ほら……いいわよ、トドメ刺しても」
「ふぇ?」
「お、お礼ってわけじゃないけど……と、とにかくやんなさいよ、ほら」
 ゴスロリ女に促がされ、巨人女はゆっくりとドラゴンの方に向き直った。そして、火傷を痛がりながらもドラゴンに近づいていく。
「そこのアンタも、いいわよね? この状況でトドメだけ持っていくような、卑怯者じゃないでしょ?」
「そう言われちまったら、手出しできねえわな……」
 まあ、今回手柄を譲ったとしても、宇宙人のメッセージの通りなら来週も敵が来るわけだしな。それに今回だって充分、活躍したと思うし……
「ほら、早くやんなさい。アンタのバカ力なら、あと一発殴れば殺せるでしょ」
「……は、はあ」
 しかし巨人女は何を迷っているのか、中々トドメを刺そうとはしない。
 ドラゴンがこれ以上動く事はないと思うが、しかしそれも保証のない話だ。トドメを刺すなら早い方がいいのだが……
「どうしたの? 遠慮しなくていいわよ。貸しなんて作りたくないし」
「……」
 すると巨人女は、ようやくと言った感じで拳を振り上げた。そして、勢いよく振り下ろし……ドラゴンの顔――の、直ぐ傍の地面を叩いた。
「な、何してんの? 動かない的を外さないでよ!」
「いいんですよ、これで……」
「はあ?」
 ゴスロリ女の突っ込みを流しつつ、巨人女はドラゴンの顔に自分の顔を近づけていく。そして、
「貴方はきっと、人の言葉も理解している。だから……憶えておいてください。次はありませんよ?」
 やると思った……けど、本当にそれで引っ込むかな、こいつ……
「グ……ウウウゥ……」
 ドラゴンは苦しそうに、か細く息を吐きつつ、巨人女を見詰めている。そうしてしばらく見詰め合った後、静かに目を閉じた。
 もしかしたら、巨人女が見逃すまでもなく、死んでしまったのかも?
 ――と思ったら、突然ドラゴンの体は発光を始め、次の瞬間には小さな光の球のようなものに変わった。そして呆気に取られている俺達を残し、その球は一瞬で空へと消えた。

「ど、どうなったのかしら。逃げたの?」
「ええ、多分そうですぅ」
「そうですぅって、どうすんの? 逃がしていいわけ?」
「分かりませんけど、もしかしたらあのドラゴンさんが、お仲間を説得してくれるかもしれないじゃないですかぁ」
「個人的にはそうなって欲しくないんだけどね……」
 まあ、同感だな。だがそれよりも……
「談笑しているところ悪いんだが……それよりも、その恰好どうにかならんのか?」
「誰が談笑してるってのよ!」
「……恰好? って、きゃああっ」
 巨人女が自分の服を見て、慌てて胸を隠す。
 そう、先程のブレスで背中を中心に、服の大部分が燃え尽きていたのだ。おかげで胸だけでなく、下も大分隠せていない状態に。
「あ~ん、見ないでくださいよぅ~」
「こら! 変態! あっち行け!」
「お、教えてやったのに、変態はないだろ!? 本当に変態だったら、黙って観察を続けとるわ!」
「そう言いながらばっちり見てるじゃないの! あっち向きなさいよ!!」
「ぬ、お……くそ! お前だけは、いつか絶対泣かせてやる……」
「ふん!」
「あ、あ、あのぅ、喧嘩しないでくださいよぅ、折角友達になれたんですから……」
「誰が友達よ!」「誰が友達だ!」
「ひ~ん……」

 ――とにかく、今回の戦いは終わった。
 気がつくと周囲には色んな国籍のヘリとかが飛び交い、俺達を遠巻きに見ている。
 結局誰もトドメを刺していないが、充分称えられて然るべき戦いだったはずだ。これで、少しはヒーローに近づけただろうか?

「うおおお! 間に合わなかったー!! 神風戦隊には機動力が足りないぃ!?」
 と、今更戻ってきたレッドが、悔しそうに頭を抱えている……ってか、今まで何やってたんだろうか、こいつは……

       

表紙

猫人魚 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha