Neetel Inside ニートノベル
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CHAOS;DOLL
04.残酷な天使の仕業

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 最初にドールを変身させたのは、「死体処理人」だった。
 設定にはちょっとコツが要った。「職業:死体処理人」と打っても、「特技:死体処理」と打っても、キャンセルされて普通の女の子になってしまったので、興味関心のあることに「死体、犯罪」と入れ、手先の器用さ、頭の回転、従順さ、行動力をマックスにし、人格のバランスレートを直下型地震に襲われても動じないぐらい頑丈にした。
 というのも、伯父の死体を警察に通報したときのことを考えたのだが、伯父は俺の家で死んでおり、包丁には俺の指紋がついている。動機なんてものはその気になられれば向こうで勝手にでっち上げられてしまうし、それならドールにやってもらおう、と思った。
 奴隷の仕事には相応しいだろう、生ゴミの処理は。
 なので目下、俺の伯父貴は仕事中に蒸発したことになっており、捜索願を提出されている。一度、俺のところにも警察が来た。やはり社会的な身分というものがくっついている人間はちゃんと探してもらえるらしい。
「――じゃ、君は正月に会ったきりなんだね」
「はい」
「で、最後に会ったとき、伯父さんはなんて?」
「べつに、ただ新年の挨拶ぐらいです」
「あ、そう。で、十日前は何しにきたの?」
「は?」
「――――。ははは、冗談だよ冗談。それじゃどうもね。伯父さん頑張って探すからね、期待してて待ってて」
「はい、お願いします」
 それで伯父の件はカタがついた。
 死体処理人のドールは、警察がやってきた次の日に帰ってきた。俺が玄関を開けると、俺のジーパンに俺のシャツを着させて送り出したはずのドールはレインコートを着ていた。目深におろされたドールのフードを、俺は乱暴に引き上げた。虚ろな目に俺の顔が映っている。
「おい、ちゃんとうまくやったか」
「はい」
「ずいぶん時間がかかったな」
「ばらばらにしていましたので」
「ほう。ばらばらにして山にでも撒いたのか。今頃は野良犬の腹ン中ってわけか? へっ、伯父貴もいい来世に恵まれそうだな」
「いえ。全身を700g単位で細かく分類したあと、化学薬品を使って溶かしました。その後、○○山を練り歩いて少量ずつ零して歩きました。牧真司の伯父が誰かに見つかることはありえません。永遠に」
「――――。そうか。よくやった。褒めてやろう」
「ありがとうございます」
「少しは嬉しそうな顔をしろ」
「はい」
 ドールは思わず遺影にしたくなるような清らかな笑顔を浮かべた。それまで人形か心身衰弱者かのような表情をしていたくせに、この変わりよう。そう設定しているとはいえ、リアリティが欠けるというか、なんというか、達成感がない。
「ふん。まァ、ご苦労だったな。入れよ」
「はい」
「……ん? おい、それはなんだ」
 俺はドールが右手に持っていたスーパーのレジ袋を奪った。
 ドールは何も言わない。時計を見るとちょうど十二時。メシを買ってきているなら本当によく気が回ると認めてやってもいい。しかしこのビニール袋、メシが入っているにしてはやけに軽い。俺は中を覗き込んだ。

 毛だった。

 少し白が混じった灰色の毛。それに、黒々とした短い毛がスチールウールのように丸まっている。ひどいにおいがしたが、それはおそらく、毛の持ち主の体臭だろう。
 いつの間にか、ドールが俺の横からレジ袋を覗き込んでいた。
「あなたの伯父の毛です。毛は、溶けなかったので持ち帰りました」
「――――」
「食べますか? 調理方法を知って」
 言葉を待たずに、俺はドールの頬を殴りつけた。拳でだ。十五、六の童顔気味の少し座敷童子っぽくもある少女もどきは、壁に激突してずるずると床にへたり込んだ。ぶつぶつと何か言っている。聞き取れない。どうも日本語ではないらしい。従順さと賢さをマックスにしておいたので、主人である俺に殴られた理由がわからずに思考回路に異常をきたしたのかもしれない。
 心配しなくても最初から異常だ。
 俺は立ち上がろうとしているドールを肩で突き飛ばし、廊下に突き倒した。ドールは下あごが外れた滑稽な顔を俺に向けてくる。滑稽だ。滑稽だと思う。
 だが、俺は冷や汗をかいている。
 ぎゅっと目を瞑ってから、開いた。そしてドールの胸倉を掴み、その瞳を覗き込んでコードを読み上げた。ぷしゅっ。ステータスカードが排出される。俺はそれを掴んで額にかざそうとし、やめた。
 レジ袋を掴んで、風呂場へ向かう。
 伯父貴は、七日かけて小出しに流した。
 そして伯父貴を流しながら、俺は自分の求める理想のパートナーに関する考察も同時に進めていた。恥ずかしながら俺は恋、というやつを味わったことがない。なんだか話によると素晴らしいものだそうだ。もしそうならなぜ学校で授業してくれないのだろう、と小学校の頃は思っていた。大切なことは全部義務教育にしてくれなければ困る。一人きりの家では誰も何も教えてくれない。
 伯父貴の毛は三日目に排水溝に詰まって、業者を呼ぶ羽目になった。

       

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