Neetel Inside 文芸新都
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MTGについて少し話そうと思う
voL.11「筆者、大会に行く~前編~」

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《復活の夜明け(PO)》をむかえた筆者はおジャ魔女カーニバルをBGMにしながら朝食をとるとデッキと筆記用具とサイフをいれたバッグを背負って家をでた。大会の受付が10:00からなので登校するのとほとんどかわらない出発となったが、駅にむかう自転車のペダルはかるく、バス停で大学行きのバスに乗りこむと(運賃は後払い)あの高揚感がまたわきあがってきた。
 今回のメンツは筆者、春日くん、それとここでは初登場となる黒沢くんの3人だ(いずれも大会初参加)。黒沢くんはMTG歴2ヶ月ほどでありながらいきなり大会に挑戦するという期待の大型ルーキーで、「トゥフフフ」という笑い声が特徴の野球少年である。「きょう部活ないの?」と春日くんがたずねると「大会にでたいから休んだ。俺なしでチームがやれるか心配だけどな」とクールにこたえていた。
 われわれがきょう使用するデッキはそれぞれ「黒コントロール」「青単パーミション」「《役畜(UL)》をフィニッシャーに据えた5色デッキ」となっている。春日くんはデュエリストジャパンの「デッキ・デコンストラクション」に載っていた「メダリオンブルー」をめざしていたのだが《サファイアの大メダル(TE)》《貿易風ライダー(TE)》と高額なカードが必要なため、やむなく《銀のワイヴァーン(ST)》《パリンクロン(UL)》《変異種(US)》などをフィニッシャーとするスタンダードなパーミッションデッキでの出場となった。黒沢くんも「こいつさえだせれば勝てる」と《銀のゴーレム、カーン(US)》のように力強くこぶしを突きだしながら《役畜(UL)》がいかに強力かを説いていた。筆者も整理券をもてあそびながら車内を満たす朝の光のなかでイメージ・トレーニングにふけっていた。1ターン目《強迫(US)》、2ターン目《貪欲なるネズミ(UD)》、3ターン目《ファイレクシアの抹殺者(UD)》or《呆然(6th)》or《暗黒の儀式(US)》から《ファイレクシアの疫病王(UL)》……
 墓地から《ボトルのノーム(TE)》を釣りつづけていた筆者のライフが50を超えるころにはバスは大学に到着し、おつりのないように小銭で精算をすませるとわれわれは《Savannah(RV)》のように広大なキャンパスにおりたった。敷地内をあたりまえのように車道が走り、時間をさかのぼる研究をしているであろう大きな赤レンガ風の建物群が新緑の風景に調和していた。われわれは《スカイシュラウドの森(TE)》をさまよいながらゴブにいたちがくれた会場までの地図をたよりに《Heart of Yavimaya(AL)》をめざした。
 無事に会場をみつけることができたわれわれはすぐさま参加登録をおこなうため受付にむかった。受付をかねるロビーには人がごったがえし、大学主催とあって年齢層も大学生が中心だった。そのなかにモルツを発見し、「前回はクソみたいな大会だったけど今回はまともな試合ができるといいね」とシベリアから生還したドイツ将校のような顔でわれわれに語りかけてきた。「そうですね、同志モルツ」と筆者は敬礼でかえしながら登録用紙に名前とデッキの内容を記入していく。筆者の「黒コントロール」のレシピはつぎのとおりだ。



・メイン
《沼(6th)》……15
《産卵池(UL)》……2
《不毛の大地(TE)》……4
《ヴォルラスの要塞(ST)》……1
《貪欲なるネズミ(UD)》……3
《ファイレクシアの抹殺者(UD)》……2
《ファイレクシアの疫病王(UL)》……3
《チクタク・ノーム(UL)》……2
《ボトルのノーム(TE)》……2
《強迫(US)》……4
《暗黒の儀式(US)》……4
《悪魔の布告(TE)》……4
《死体のダンス(TE)》……2
《急速な衰微(UD)》……2
《ヨーグモスの意志(US)》……1
《呆然(6th)》……2
《吸血の教示者(6th)》……3
《呪われた巻物(TE)》……1
《火薬樽(UD)》……3


・サイドボード
《非業の死(TE)》……2
《撲滅(UD)》……2
《次元の狭間(US)》……3
《腐肉クワガタ(US)》……3
《エヴィンカーの正義(TE)》……2
《汚染(US)》……1
《恐怖(6th)》……2



 例によってデッキがのこっているわけではないので実際のディティールはことなるが了承いただきたい。みてのとおりヤコブ・スレマーの「黒コントロール」のほぼコピーであるが、「ニゲイターはつよいし衰微はサイクリングできるから」と《ファイレクシアの抹殺者(UD)》《急速な衰微(UD)》を1枚ずつ増やし、《吸血の教示者(6th)》も3枚に増やして安定性をより向上させた。《呪われた巻物(TE)》が1枚しかあつまらなかったのが気になるが、いざとなればサーチしてくればよい。また当時の筆者には「メタ」という概念がなかったのでサイドボードは「クリーチャー系デッキ」への対策がおもになっている。メインからクリーチャー除去はじゅうぶん充実しているので少々やりすぎ感があるが、「黒ならすべからくクリーチャーを殲滅すべし」という信念をそのころの筆者が持っていた結果だろう。
 さらに黒以外のデッキへの〝必殺技〟として《汚染(US)》が仕込んである。とくに青相手には効果は絶大であり、隙をみて《吸血の教示者(6th)》からこれにつなげればもうトレイリアにはだれも近づけないだろう(実際これを警戒して春日くんは2ターン目に《火薬樽(UD)》をセットすることをあきらめた)。
 そして特筆すべきはメインとあわせて8枚も積まれた「墓地対策」だろう。筆者がなにをこんなにおそれていたのかまったく思いだせないが、ほかの世界選手権99ベスト4のデッキにも《スランの鋳造所(UD)》が投入されているのできっと当時の墓の下にはなにかとてもおそろしいものが埋められていたのだろう。
 ちなみに最初は《マスティコア(UD)》がメインに1枚はいっていたのだが、春日くんに貸してしまったので急遽サイドの《火薬樽(UD)》をメインに増やして《腐肉クワガタ(US)》をサイドに1枚追加した。《マスティコア(UD)》はべつにノリでいれていただけなのでとくに問題はなく、また青単には必須なカードだったので筆者はこころよく愛犬のリードを差しだした。筆者もまた《ファイレクシアの疫病王(UL)》《急速な衰微(UD)》などを春日くんにトレードしてもらっていたのでおたがいさまである。
 登録を終えると開始時間まで待機となる。これまで味わったことのない緊張感に筆者の手はヨーグモスによって機械化されてしまったかのようにこわばり、ロビーのソファでデッキをディールシャッフルしながら心をおちつかせようとしていた。その横で春日くんと黒沢くんは余裕の表情でドミナリアの今後について議論をかわしていた。常連と思わしき人たちもとくにうわついた様子もなく「ある年老いたドラゴンがやってきてこうたずねた――〝ワシとあんたらとなにがちがうね? たしかにワシはエンチャントされて-1/-0の修正をうけているわけでもなく、マナコストぶんのライフと引きかえでもなく、+2/+2カウンターの置かれたスラルでもなく、場のクリーチャーといれかわったわけでもなく、女王にあやつられているわけでもなく、3つの死体の下から這いでてきたわけでもない。でもなんでワシだけもうすぐ消えてしまうね?〟すると《Ashen Ghoul(IA)》はこうこたえた――〝そりゃ簡単だよ、ニコル。いまあんたのはいってる墓穴が浅すぎるからさ〟」「HAHAHA!!!!」とファイレクシアン・ジョークをまじえながら談笑に興じていた。
「では大会を開始しまーす! 呼ばれた人から会場にはいって着席してくださーい!」主催者のひとりが開会を宣言するとロビーの人々が荷物を持ってぞろぞろと会場のほうへ移動しはじめ、「セラさん、テフェリーさん、レシュラックさん、ガフ提督さん、黒き剣のダッコンさん……」とつぎつぎにプレイヤーたちが会場内に召喚されていった。筆者も名前を呼ばれて「じゃああとで」と春日や黒沢くんとわかれ、指定された席にプレイされる。そわそわしながら筆者が筆記用具やら《火薬樽(UD)》に置く用のおはじきを机上にならべていると対戦相手がやってきて「どうも」とあいさつしながらむかいに着席した。「あ、ども」とかえしながら筆者も軽くあたまをさげる。「いやーぼく大会はじめてなんですよー」と大学生くらいとおぼしき相手が告白してきたので「あ、自分もです」とすかさず筆者がかえすと「あ、ほんとですか。じゃあおたがいがんばりましょう」「はい」と適度な会話で緊張をほぐしつつ筆者たちはデッキをシャッフルしてそのときをまった――(中編につづく)。

       

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