Neetel Inside 文芸新都
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MTGについて少し話そうと思う
voL.13「筆者、大会に行く~後編~」

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 しかしそれまでの快進撃がウソのように筆者はあっさりと2連敗し、木星スイングバイで加速したユリシーズのようにあっというまに優勝争いから脱落した。とくに事故を起こしたわけでも強烈に黒をメタったデッキにあたったわけでも《Mishra's Workshop(AQ)》+Moxから《巨大戦車(RV)》がでてきたわけでもない。ただ筆者の力がおよばなかったのだ。上位卓になるほど対戦相手のプレイ精度もあがり、現時点の筆者の腕ではスレマー御大の「黒コントロール」をもってしても彼らをたおすことはできなかった。
 それでも意気消沈することなく最後の1戦を勝利でかざった筆者は初の大会を4-2と勝ち越すことができた。つぎの番付編成には期待していいだろう(なお最終的にこれが神河物語までつづく筆者のMTG生活におけるキャリアハイとなった)。春日くんは3-3とイーブンパーでホールアウトし、黒沢くんは0-6と無念の全敗に終わった。最終戦を終えた筆者と春日くんが黒沢くんのところへ行ってみると人のよさそうな対戦相手が黒沢くんのデッキを卓上にならべながらデッキ構築の基本についてレクチャーしていた。軽いカードと重いカードのバランスや土地の配分などを教授してもらった黒沢くんの目はすでにつぎの大会を見据えているように筆者には思えた。筆者ふくめた3人が今大会で得られたものは大きかったはずである。
 そんなわれわれが到達できなかった決勝卓ではふたりのプレイヤーが〝優勝〟の2文字をめぐってにらみあっていた。卓をかこむギャラリーに筆者もくわわってゲームをのぞいてみるとそれぞれ《謙虚(TE)》《貿易風ライダー(TE)》《ボトルのノーム(TE)》、《適者生存(EX)》《スパイクの飼育係(ST)》《骨砕き(UL)》を場に展開しながらつぎなる一手を慎重に模索していた(パーマネントをみるかぎり青白系の「ヒューミリティオアリム」と《繰り返す悪夢(EX)》を失ってなおメタゲームの一角にあった「サバイバル」という組みあわせだった)。おたがいライフを1点ずつ削りあうタフなゲームだったが、クリーチャー数で押し切った「サバイバル」がその名に恥じず大会を制した。
 その後も筆者は場所をかえデッキをかえ何度か大会に出場しているが、十数年という時が過ぎ去ったいまでもこの大会にうずまいていたあの特異な〝空気〟を思いだすことができる。それはある程度ベテランとなったいまの筆者にはもう2度と経験することのできない特別な〝なにか〟があったためだろう。できるならもう1度あの雰囲気のなかでMTGをプレイしてみたいものである(もちろんデッキは手札破壊と《暗黒の儀式(US)》のたっぷりはいった黒単だ)。
 大会出場というプレインズウォーカーにとって大きな一歩を踏みだした筆者だったが、もうひとつ劇的な変化があった。メインで使うデッキ以外――いわゆる〝サブデッキ〟の構築である。このころになると筆者のカード資産もだいぶ増えてきていて、それまで黒中心だった筆者は黒以外のカードをもてあましているという状態だった。ただでさえ身内との勝負が多かったので対戦するデッキは相当にかぎられており、《ショック(6th)》でパーマネントが2つ減少したり、カウンターを5つ溜めた《火薬樽(UD)》を《ブーメラン(6th)》されたり、1/1の《役畜(UL)》をプレデターからほうり投げたりするのにもいい加減うんざりしていた筆者は《再起のオベリスク(5th)》のように部屋のすみでホコリをかぶりながら佇立するカードの山に手をのばした。そして《聖なるガイド(TE)》にみちびかれるまま組んだ青白デッキをサイドアームとして育てながら筆者はカジュアルプレイをよりたのしんだ。その最終的なレシピはこんな感じだ。


・メイン
《島(6th)》……8
《平地(6th)》……6
《フェアリーの集会場(UL)》……2
《近づきがたい監視塔(UL)》……2
《アダーカー荒原(6th)》……2
《サラカスの低地(TE)》……4
《風のドレイク(6th)》……2
《貿易風ライダー(TE)》……2
《銀のワイヴァーン(ST)》……1
《セラの伝令(US)》……2
《変異種(US)》……1
《レイディアントの竜騎兵(UL)》……2
《ルーンの母(UL)》……2
《大天使レイディアント(UL)》……1
《物知りフクロウ(6th)》……2
《対抗呪文(6th)》……4
《放逐(TE)》……2
《禁止(EX)》……2
《転覆(TE)》……2
《解呪(6th)》……2
《天才のひらめき(US)》……1
《不実(UD)》……1
《プロパガンダ(TE)》……2
《集い(US)》……2
《ハルマゲドン(6th)》……2
《神の怒り(6th)》……1


 初期は《ルーンの母(UL)》+《輝きの壁(UD)》のコンボを筆頭に《おとりの達人(TE)》《長弓兵(6th)》《風のドレイク(6th)》などでかためた防御寄りのウィニーデッキであったが、《セラの伝令(US)》《大天使レイディアント(UL)》を引いた筆者は飛行クリーチャー中心にデッキを組みかえながらカウンターを増やしてコントロール寄りにシフトさせた。その結果「《大天使レイディアント(UL)》をかこむ飛行クリーチャーの会」の名がふさわしいファンデッキに近いかたちになってしまったが、青史上もっとも充実していた強力なカウンター群と《貿易風ライダー(TE)》《プロパガンダ(TE)》+《ハルマゲドン(6th)》の強力なシナジーのおかげでかなりのレベルでたたかうことができた。いま思いかえしてみるとけっして完成度の高いデッキではないが、先の「黒コントロール」とともに筆者にとって〝よく手になじんだ〟デッキとなり、テンペスト・ブロックが退場するまで筆者はこのデッキを愛用しつづけた(どんなデッキでもとにかくプレイを重ねて〝使いこむ〟ことが大事なのだと筆者はのちにべつの大会で思い知らされることとなる)。
 さて、筆者がはじめてMTGのカードに触れたときからずっと吹き荒れていた強大な嵐もそろそろ去るときが来たようだ。弱まりゆく風に一抹(というにはあまりに鮮烈なサイクルだ)の寂寥感をおぼえつつ次回でテンペスト・ウルザ編も幕引きとしようと思う。

       

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