Neetel Inside 文芸新都
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MTGについて少し話そうと思う
voL.9「目には目、歯には歯、アカデミーにはアカデミー」

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 発売から一ヶ月が経ち、ついに公式戦でもウルザズ・サーガが解禁された。前回あらたなる物語へとびこんだわれわれはその後もちょくちょくウルザズ・サーガのパックを買いつづけ、例の店でほかのプレイヤーたちとデュエルやトレードをくりかえしながら新デッキを着々とチューニングしていた。身内以外とのデュエルはいつも以上にわれわれを真剣にさせ、いつも以上に勝敗にこだわらせた。「このデッキ構成でこのカードを使うのはきびしいよ」というゴブにいの指摘をうけた赤単の友人は悩みながらも一枚刺しの《シヴのヘルカイト(US)》をぬき、使いどころのむずかしい《降り注ぐ火の粉(US)》や自陣のクリーチャーも一掃してしまう《断層(US)》のかわりに《弧状の稲妻(US)》を増やすなど実践的な調整をおこなった。また「《汚染(US)》あるんなら黒単でやってみなよ。これつよいよ」というジャクロ先輩の悪魔のささやきに青や赤をタッチしようかと迷っていた筆者はけっきょく黒一本でいくことを決意し、まわりのアドバイスどおりウルザズ・サーガのエコークリーチャーをつっこんだ少年の緑単は予想以上にとんでもなく強力なデッキへと変貌をとげた。
 こうした先輩がたの助力もあって勝率が現実的な数字になってきたわれわれはそのうちにもっと自分の力をためしたくなってきた。一地方の小さな店とあってあつまるメンツもほぼ固定化されつつあり、デュエルスペースにはりつめていた緊張感もいまやうすれはじめていた。そんな退屈な日常に飽きた少女のようにもやもやしていたわれわれはある情報を耳にする。
「こんどの大会どうする?」
 そうゴブにいたちが話しているのをきいた筆者がくわしくたずねてみると「来週の日曜に○×大学でMTGの大会があるんだ」と教えてくれた。「これはいくしかねぇ!」と一気にテンションのあがったわれわれはものすごい勢いでデッキをシャッフルしながら「どこ集合にする?」「朝めし買うからコンビニにしようぜ」「バス代いくらかかるかな」「大会のときだけこのカード貸してくれよ」「学生証とかいるのかな」「メシはマックでいいよな」「優勝したらインタビューとかされんのかな」などとさっそく計画を立てはじめた(このようなハルヒ的行動力があったからこそ当時の筆者たちはMTGをよりたのしめていたのかもしれない)。
 で、当日。筆者はアカデミックでインテリジェンスな大学ではなく、ふるめかしく愛すべき母校の教室にいた。そう、きょうは数学検定の日なのである。どうしてこんなことになってしまったのか筆者にはわからなかったが、意味のない数式をルーティーン化された思考回路で淡々と解きながら戦友の活躍をねがった。しかし翌日、吉報をまちわびていた筆者に「なんかアカデミーとか精神力とかでめっちゃカード引かされるデッキばっかだった」と友人たちはげんなりした様子で語った。過酷な数字の海を泳ぎきった筆者にもそれがどんなデッキなのか見当もつかなかった。
 前置きが長くなってしまったが、「MoMa」はこのように一地方の非公式戦にまで蔓延しており、世は猫も杓子も「MoMa」というぐあいであった。そのあまりに完成されたデッキはもはやファッションであり、昨今の街にプリウスやクロックスがあふれているように「MoMa」は流行の最先端をいく当時エコでオシャレなMTGプレイヤーたちのマストアイテムだった。
「コントロールするアーティファクトの数だけ青マナを生みだせる土地だって? そいつはかなり笑えるジョークだ。え? スポイラーにも載ってるって? ならそれはまちがいなく修正されるよ。なぜならそんなカードが印刷されたら地球の地軸がかたむいてみんな凍えちまうからさ」ウルザズ・サーガの発売前、アイスエイジの氷雪ランドをテーブルにならべながらプロプレイヤーたちは大笑いしていたが、正式なカードリストが発表されると彼らはあわてて防寒具を買いに走っていった。巣にキノコや木の実をためこむアナグマのように一部の賢しいプレイヤーはきびしい冬の到来をすでに予感していたのだ。
「MoMa」とは前述の《トレイリアのアカデミー(US)》と青のエンチャントである《精神力(EX)》をキーカードとし、《天才のひらめき(US)》《時のらせん(US)》《意外な授かり物(US)》などの強力なドローサポートを駆使しながらマナを増やして相手のライブラリーを一瞬で削りきってしまうコンボデッキである。
「このデッキのすぐれた点は」とあるプロプレイヤーは話している。「その圧倒的なつよさもさることながらソリティアとことなり対戦相手もいっしょにカードを引いたりライブラリーをシャッフルしたりしてプレイをたのしめることである」
 さらにべつのプロプレイヤーも当時猛威をふるったこの無慈悲なデッキについてつぎのように述懐している。「MoMaはコンボデッキでありながら「プロスブルーム」のようにたった一枚の《禁止(EX)》に完封されることがなく、青でありながら「カウンターポスト」のように神経を衰弱させることもなく、血に飢えたヒョウのように手のつけらない強力なデッキでありながら「スタックス」のような高度なプレイングを要求されることもない。必要なのはコイントスに勝つための〝日頃のおこない〟と「おれは《トレイリアのアカデミー(US)》を引くんだ」という《鉄の意志(UL)》である」
 このとおり「MoMa」においてプレイヤーがすべきことは「軽コストのアーティファクトを大量にばらまいて」「《トレイリアのアカデミー(US)》をプレイする」という二点だけであり、あとはなにをしなくても勝手に手札と青マナがどんどん増えていくというMTG史上初のセミオートプレイシステムを搭載したハイテクデッキとなった(にわかには信じがたいという読者はプロキシでもいいので「MoMa」を組んで実際にプレイしていただきたい。当時スタンダードで最速をほこったテクニカルレギュレーションすれすれのマシンをとおしてアイルトン・セナやミハイル・シューマッハのみた世界をあなた自身の目で体感してみてほしい)。相手のライフを計算しながら火力の対象をプレイヤーかブロッカーにふりわけるというマニュアル操作の必要な「スライ」より単純明快であり、なおかつ「ヘイトレッド」より高速で安定していたことから「序盤のゾンビやゴブリンの猛攻を耐えしのぎながら隙をみてアドバンテージをすこしずつ稼ぎ、根気よく土地をのばしながらじょじょに場をコントロールしていく」というひねくれた信念を持つ青使いですらその誇りを捨てて対極である「MoMa」にはしるありさまであった。その表情にはいつものような「島をひとつプレイするのに10分かける」慎重さも「場に視線を落としたまま無言でOKサインをだす(呪文をとおすの意)」謹厳さもうかがえず、「カードを7枚引く」「序盤から青マナが使い放題」という突如もたらされた快楽の海にただおぼれていた。それはパワーストーンの魅力にとりつかれたテリシアの兄弟そのものであり、史実どおりスタンダード環境は《大荒れ(TE)》ののちに《焦土(WL)》と化した。「MoMaにあらずんばデッキにあらず」というトミィ・ホビィのプロツアーローマ98での発言はドミナリアやファイレクシアにとどまらずMTG界全体をまきこんだ大論争に発展し、冬の風物詩となった「とりあえずMoMa」とともにその年の流行語大賞にノミネートされるほどであった。
 日本においてもThe Finals98のメタは「MoMa」ただひとつによって形成され、予想どおり結果は凄惨たるものであった。だがこんな状況がつづくはずもなく、すでにこの成りあがりのインチキデッキ討伐にのりだしていたDCIは《トレイリアのアカデミー(US)》と《意外な授かり物(US)》を発売からわずか3ヶ月でトーナメントシーンから葬り去った。その後も「MoMa」根絶のためにマーク・ローズウォーター率いるR&Dによって禁止カードの追加やルールの変更などの残党狩りがおこなわれた。そして《精神力(EX)》の尽きた「MoMa」は関門海峡の潮流によって完全に解体され、長らくつづいた冬の最期の残滓は猛暑のなかにとけて消えた。
 ウルザズ・サーガはまた「MoMa」以外にもトーナメントレベルのコンボデッキをいくつも輩出し、後続のウルザズ・レカシーとウルザズ・デスティニーもそれに拍車をかけた。《通電式キー(US)》《ガイアの揺籃の地(US)》《厳かなモノリス(UL)》《スランのタービン(UD)》など強力なマナ加速もあってテンペストサイクルとはまたべつの意味で環境は異常に高速化し、最終的に「MTG史上まれにみる悪辣なサイクル」として今日の語り草となっている。
 このようにトーナメントシーンは〝瞬殺コンボ〟を中心にてんやわんやであったわけだが、ウルザ・ブロックがのちにそんな悪名をとどろかせようなど夢にも思っていなかった筆者をとりまく環境はじつに平和そのものであった。《セラのアバター(US)》は《実物提示教育(US)》すら用いることなく素出しされ、「これは伝説の土地だからデッキには一枚でいいよな」と《ガイアの揺籃の地(US)》は一枚刺しがふつうで、「いやマジでそれつよいんだけど!」と3ターン目の《アルゴスのワーム(US)》に阿鼻叫喚していた。そこには「MoMa」はおろかコンボデッキの気配などみじんも存在せず、しいて言うならわれわれが見向きもせずにカスレアBOXにほうりこんでいた《波動機(US)》《トレイリアのアカデミー(US)》《精神力(EX)》などが異様にトレードで人気だったくらいである。その手のデッキをいかにも好みそうなジャクロ先輩やトーナメントの情報を逐一チェックしていたであろう大学生組が悪しきコンボデッキをこの店に持ちこまなかったのはきっと彼らが大人であったからゆえにちがいない(もっとも、ジャクロ先輩がこのむのは「ロックデッキ」であって「コンボデッキ」ではなく、いまにして思えば彼がこの環境を好いていなかったことは容易に想像できる。「MoMa」や「ピットサイクル」を相手にロックを決めるなどワイリー・コヨーテがロードランナーをつかまえるより不可能だからだ)。《トレイリアの風(US)》の吹き荒れるスタンダード環境においてその店はまさに《セラの聖域(US)》だった。
 だがウルザの物語はまだはじまったばかりである。コンボデッキを抜きにしてもこの壮大なサーガは強力なサイクルだったのだ。というわけでつぎはウルザズ・レカシーの登場である。
 最後にクックパッドでみつけた「MoMa」のレシピを載せておこう。もう何年も土地にさわっていない筆者にもタイトルどおりじつに簡単につくることができたので初心者でも安心して調理できるだろう。ではたのしい冬を。




「だれでも簡単お手軽MoMa!!」
 かつてあらゆるレギュレーションで大流行し、いまでもヴィンテージでコアなプレイヤーに根強い人気をほこる「MoMa」を《羽ばたき飛行機械(5th)》より簡単につくっちゃいます♪ 
 1ターンキルしすぎに注意 (^o^;


・材料
 ウルザズ・サーガのパック    10BOX
 《精神力(EX)》        3枚
 《島(US)》          適量
 各種アーティファクト      適量
 各種ドローカード        お好みで


 1.ウルザズ・サーガのパックを開封して青のカードをピックアップし、そこから手で不必要なカードを取りのぞきます(《変異種(US)》は各種青デッキ、《カブトガニ(US)》は「カニクラフト」や酒のつまみ、《調律(US)》や《エネルギーフィールド(US)》は「パララクス補充」にあとで使用するのでとっておきましょう)

 2.つぎに《トレイリアのアカデミー(US)》をピックアップします(《意外な授かり物(US)》《天才のひらめき(US)》《時のらせん(US)》は3枚でもかまいませんが《トレイリアのアカデミー(US)》は4枚必須です。あつまらなければ箱を買い足すかシングルカードで購入しましょう)

 3.1と2のカードをあわせ、さらに《精神力(EX)》とドローカードをいれてよく混ぜあわせます(事故を起こさないようにしっかりと混ぜましょう)

 4.3に各種アーティファクトをトッピングします(0~2マナのアーティファクトが基本ですが、あえて《ブービートラップ(TE)》や《アラジンの指輪(5th)》などのガラクタを隠し味にして対戦相手をおどろかせるのもいいでしょう)

 5.最後に《島(US)》とコショウで味をととのえて完成です♪ 


「コツ・ポイント」
・今回は当時のスタンダード環境でのレシピを掲載しましたが、現在はDCIによって使える材料がかぎられています。制限・禁止カードリストをよくチェックして環境にあわせた調理をしましょう
・カウンターカードをいれるとさらに安定感が増します
・赤や白をタッチするとさらに安定感が増します
・おそくても4ターン以内に決められない「MoMa」は見苦しいとされます。万が一5ターン目をむかえてしまった場合はいさぎよくマナバーンで自決しましょう。またいったん途切れてしまったコンボを次ターン以降ふたたび開始させることも禁忌とされます(再起動がゆるされるのは最初の連鎖で《死体の花(MI)》を引けなかった「プロスブルーム」か夏のペンティアム4搭載のPCだけです)。強力なデッキを使うということはそれなりの責務や品性がもとめられることを意識し、ノブレス・オブリージュを心がけましょう
・「MoMa」はかならずしも勝利を確約するものではありません。現在ではカードプールも増えて強力なコンボデッキやロックデッキがいくつも存在します。最後に勝敗を左右するのはあなたのプレイングなのですm9(・∀・)

       

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