Neetel Inside 文芸新都
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MTGについて少し話そうと思う
voL.8「ようこそ、偉大にして愚かなる男の物語へ」

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 はじめての大型エキスパンション発売とあってわれわれは学校が終わると《ボール・ライトニング(5th)》よりはやく自転車をころがしてウルザズ・サーガのパックを買いに直行した。われ先にと店内にはいっていくと入荷したばかりのウルザズ・サーガのトーナメントパックとブースターパックが山積みされていて、「おお……」と筆者たちはその堂々たる風姿に圧倒された。われわれはあたらしい土地を手にいれるためにトーナメントパック(これまでは60枚入りだったが、このエキスパンションから75枚入りとなって名称もスターターパックから変更された)をひとつとブースターも買えるだけかかえると意気揚々とレジにむかい、この日のためにためておいたこづかいを惜しげもなく散財した。いかにも強そうな《ファイレクシアの巨像(US)》のイラストがえがかれたブースターが人気で、天使の好きな春日くんは《セラの伝令(US)》がイラストのパックを買いこんでいた(ディスプレイ箱のなかにたくさんのこった《キマイラ杖(US)》がイラストのパックは10/10のアーティファクト・クリーチャーに変形して手にとろうとする客を手あたり次第に威嚇していた)。トーナメントパックには《稲妻のドラゴン(US)》が印刷されていて、そのカッコよさからスリーブを使用していないコモンデッキ用のデッキケースにする友人もいた。「これ引きたいよな」と荒れ狂うドラゴンに恋焦がれながら筆者宅に帰投するとわれわれはさっそくパックを開封しはじめた。ウルザズ・サーガの発売に先立ってわれわれは例のネット環境を持つ兄のいる友人からフルスポイラーを入手していたのだが、カード名は英名のみであったしイラストもわからないのでいまひとつピンとこないところがあった(それでも発売がまちどおしいわれわれは教室内で一枚のスポイラーをかこんで大いに盛りあがっていたわけだが)。というわけで筆者が記念すべき最初のパックをあけるといっせいに視線があつまった。「お、なんかカッコよくね?」とでてきたカードをみてだれかが言った。そう、このサイクルから日本語版のフォントが一新されて現在のものになったのだ。はじめてみるカード名とイラストをじっくりと味わいながら筆者は一枚一枚ゆっくりとカードを繰っていく。内容はやはりおぼえていないが、レアは《調律(US)》《時のらせん(US)》《汚染(US)》《花盛りの春(US)》《よりよい品物(US)》《トレイリアのアカデミー(US)》《ガイアの揺籃の地(US)》あたりとアーティファクトを何枚かだったと思う。黒使いの筆者としてはイラストがクールになった《暗黒の儀式(US)》、水原くんが「これは使えるよ」とこっそり教えてくれた《強迫(US)》、すこし重いがエンドカードとなりうる《堕落(US)》、待望の小型フライヤー《走り回るスカージ(US)》、なんか使えそうな気がする《ギックスの僧侶(US)》、プロテクション対策になる《陰極器(US)》、そしてジャクロ先輩がこのみそうな《汚染(US)》が収穫というところだった。ほかの友人たちもおのおの自分のデッキに使えるカードを手にいれたが、残念ながら《稲妻のドラゴン(US)》が姿をみせることはなかった。当時の環境では重すぎる《シヴ山のドラゴン(5th)》とちがってじゅうぶんに構築レベルのドラゴンであるこのカードをとくに渇望していた赤使いの友人は非常に落胆していた。せめてだれかが引けばトレードで入手できる可能性があったからだ(もっとも、われわれのなかに引いたものがいたとしてもトレードに応じるものはいなかったと思うが)。
 さて、われわれはこのようにして無事にウルザ・ブロックとの邂逅を果たしたわけだが(べつに偶然でもなんでもないが)、つぎにすることは自前のデッキからミラージュ・ブロックのカードをぬいてウルザズ・サーガのカードを投入することだった。あらたに導入された新システムやキーカードとなりそうな強力なカードを中心に新デッキを組むプレイヤーももちろんいるが、大半のプレイヤーはあたらしいエキスパンションがでるといまあるデッキに使えそうなカードをさがすというのが一般的だろう。友人たちがまだ新鮮な紙のにおいがのこる引きたてのカードをスリーブにいれていくなか、筆者はスリーブから色あせたカードをぬいていく行為に没頭していた。《祭影師ギルドの魔道士(MI)》《堕ちたるアスカーリ(VI)》《ネクラタル(VI)》と黒い主力にくわえて《吸血の教示者(VI)》《大クラゲ(VI)》《ウークタビー・オランウータン(VI)》などのサポートカード、さらに《宝石鉱山(WL)》《水蓮の谷間(WL)》という5色ランドをうしなって問答無用で解体となった筆者の「5CB」はふたたび黒単にもどることとなった。とりあえず先ほどあげた黒いカードを適当にほうりこみながらほかにも使えそうなものはないかと友人たちのカードをあさっていた筆者は《潜伏工作員(US)》なるカードをみつけ、この1マナ3/3とマナレシオ抜群のクリーチャーをどうにかして使うことができないだろうかと不誠実なミニオンと真摯にむかいあった。だが熟考のすえ「いや、こいつはムリ」という結論に到達し、すでに6点のダメージをあたえられていた筆者はそっとそれを友人にかえした。けっきょく頼れるのはテンペストのシャドーたちしかおらず、筆者の黒単は否応なしに原点回帰となってしまった。筆者的にはこのサイクルのいれかわりによって得たものはあまりなく、むしろうしなったもののほうが多かった。だがこのあとのウルザズ・レガシーとウルザズ・デスティニーの登場、さらにクラシックこと第6版の発売によって環境は大きく変化し、筆者もそれに適応していくこととなる。
 だがそのまえにやはり話しておかなければならないだろう。そう、あの冬のことを。ウィザーズ・オブ・ザ・コーストの開発室にある終末時計が1分前をしめしたあの数ヶ月間のことを。筆者の部屋のゴミ箱でクシャクシャになった《セラの伝令(US)》はたしかになにかをわれわれに伝えようとしていたのだ。

       

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