Neetel Inside ニートノベル
表紙

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目の前で遅刻少年―――つまり僕が倒れたことに、小町あの子は驚愕した。まさかショルダータックルを、それもボディではなく肩に喰らっただけなのに、この遅刻少年が倒れるとは夢にも思わなかったのである。
軽い報復のつもりだったが、過剰な結果が生み出されてしまった。不良少女とは言え、小町あの子にも罪悪感というものは芽生えるらしい。

「おい、なんで倒れちゃうんだよ!起きろよ!おい!!」
さながら人身事故を起こしたドライバーのような必死さで倒れた僕の肩を揺らす小町あの子。轢かれた人をこのように激しく揺さぶるのは勿論よくない。
やがて、小町あの子は僕が寝ているということに気づいた。なあんだ、寝てるだけか。なら、いいやとその場を立ち去ろうとする彼女。
いや、待てよ。いくら寝ているだけとはいえ、あのままほっとくのは良くないだろう、と良心から引き返し僕のもとへと戻ってくる。
そもそもコイツはなぜ急に眠りだしたのか。あんなに急に人は眠りに落ちるものなのか。理解できないことは多少あれど、小町あの子はとりあえず、僕を保健室に連れて行くことにした。

小町あの子は華奢な身体からは想像もできないようなパワーで、身長162センチ体重50キロの僕を背負うと、「しょうがないな」とつぶやきながら保健室に向かった。
小町あの子はこの年代の女子にしては背が高い。おそらく僕よりは身長があるだろう。足も長く、校則違反のミニスカートから惜しげもなくその脚線美を披露させている。それはそれでありがたいことだが、昔のスケバンのような地面につくようなロングスカートを穿かせてみても、けっこう様になるだろうというのが同級生の間での定説となっている。
胸があまり発育しなかったことを除けば、ビジュアル的にはほぼ完璧と言わざるを得ない。欠点と言えば不良であることと、「あの子」という少しマヌケな名前を付けられてしまったところだけだろうか。彼女のような美人に背負われるというのは考えてみれば、素晴らしいことである。
しかしながら、僕の意識は夢の世界。彼女の華奢な背中に体を密着させながら、その感触を堪能できない状況にいた。

しつこいようだが、繰り返す。小町あの子は不幸な少女である。

保健室まで僕を連れてきた小町あの子。見かけによらない力持ちとはいえ、喫煙によって心肺機能が低下している彼女にとって男子一人を背負ってくるということはなかなかの重労働だった。

「さっちゃん、疲れたから寝かせてくれ。ベッド借りるよ~!」
と、息絶え絶えの彼女は、背負っていた僕を床に無造作に投げ捨てると、エタノールの臭いが漂うベッドに飛び込もうとした。それを保険の希美(のぞみ)さちこ先生が制止する。

「ちょっと小町さん!いきなり男の子放り出して一体何なのよ!」
さちこ先生はハスキーな声を上げて、ベッドに倒れこもうとする小町あの子の細腕を掴んだ。

「こいつ急に倒れて眠りだしたんだよ。こいつ背負ってくるのに疲れたから寝かせてくれ!頼む!」
「だったら、ベッドはこの子が優先よ!小町さん、寝かせるの手伝って!」
「いやだ!私を寝かせろ!」
こうしてさちこ先生と小町あの子によるベッドをめぐる攻防戦が始まった。小町あの子は度々寝かせてもらおうと保健室を訪れ、そうはさせまいと応戦するさちこ先生との間でベッド防衛戦が行われるのが恒例化している。小町あの子はかなりの強者であるが、さちこ先生も大学時代はレスリング部に所属していた手練れで、学生時代以来早朝のジョギングを欠かさず行っている分スタミナで部があるため、現在32戦連続の防衛に成功している。
今回も見事防衛に成功し、見事連勝記録を33に延ばした。「まいった、まいった」とマウントポジションを取られ降参する小町あの子。その時、さちこ先生はある異変に気付いた。

「小町さん、なんか……臭くない?」
「え……たしかに……なんか……」
「烏賊臭い」
あなたの背中から臭うの、とさちこ先生は小町あの子を起き上がらせ、その背中を除く。迂闊に背中に触れてしまったのが命取りとなった。

「なんか……ねばねばしてる!!」
「えぇ!?」
「これってまさかひょっとして……精液!?小町さん、いつやられたの!?」
「嘘……いつって……私変出者なんかに……あっ!!」
小町あの子は、相変わらず床に放置された僕の方に目をやった。学ランズボンの股間の部分が湿り妙な光沢を見せていた。

小町あの子は不幸な少女である。

       

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