Neetel Inside ニートノベル
表紙

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見知らぬ部屋の中には、真っ白なシーツで飾られたベッドがあり、その中で僕は眠っていた。
深い眠りから醒めない僕のもとへ、今夜も王子様がやって来た。
王子様は裸になると、優しく、一枚一枚僕の服を脱がせる。生まれたままの姿になって身体を火照らせた僕のヴァギナに、王子様はインサートをする。深い眠りから覚める。目の前で澤井君が獣のように腰を振る。僕は翼をはためかせて快楽によがる。

こんな夢の内容を、どういう顔で話したらいいのだろうか。
しかし、小町あの子に背負われている間に夢精をし、彼女の制服を汚してしまった以上、何らかの説明が必要である。

今、僕はレイプ被害者たちの気持ちが良く分かる。性犯罪者は、逮捕後に供述で実際に被害届が出されている数よりも多くの犯行を自供するらしい。
被害者にとって、自分が無理矢理穢されたことを話すのはレイプを追体験することと同義で、さらに自分が犯されたという事実を他人に知られてしまうという二次的な苦痛までも被る。
故に、被害者が泣き寝入りしてしまうことが多くあるという話を、ニュース番組のドキュメンタリーで知ったが、まさに自分も似たような境遇に置かれている。
夢と現実の話を比較するのはおかしな話ではあるし、厳密には自分は犯されたとは言い難い状況ではあるが、美咲たんになって澤井君とSEXをしたことに自分が嫌悪感を感じている以上、自分も穢されてしまったと小声でどこかに訴える権利はある。
しかし、事実をありのまま話すのはやはり抵抗があるし、ましてや面識のほとんどなかった小町あの子に対して話すのは唐辛子入りローション責めのような拷問である。

僕と小町あの子はジャージに着替え、保健室の中で向き合っていた。さちこ先生が替えのジャージ(とパンツ)まで用意してくれた。
そのさちこ先生は汚れた制服をクリーニングに出しに行ってくれているそうで、不在となっていた。有難い限りである。しかし、彼女の不在が、現在の膠着状況を生み出してしまったのもまた事実である。

「ぶつかってきたり……人の制服穢したり、一体何なんだよ!!」
何なのよ、と言われても返す言葉に困る。「眠ると変な夢を見て、しかも夢精してしまうんだ、俺。へへ……」なんて言っても納得してもらえるわけがない。

「ごめん、ごめん。マジごめん。」
ここは、とにかく謝っておくしかない。根気強く謝っておくしかない。しかし、短気な不良少女はその程度では許してくれない。

「ごめんで済むなら警察なんていらないんだよ!」
となかなか許してくれない人の良く使う常套句を吐き捨て、小町あの子はその拳を振るった。固く握られた拳が、僕のテンプルに直撃した……と思われた。

「うぅ……ぐすっ……」
紙一重で寸止めをすると、小町あの子はいきなり涙を流し始めた。

「あんたなんかに……あんたなんかに……!!」
嗚咽が止まらない。保健室中に響き渡る。どうやら僕はこの不良少女を泣かせてしまったらしい。

「どうしてくれるんだよ!……ばっちいもんぶっかけやがって……私、穢されちゃったじゃない……」
普段はつっぱているが、彼女も列記とした女の子なのだ。故意ではないとはいえ、男に精液をかけられたショックは相当なものだったろう。そして、彼女の目の前にいる僕は、その加害者なのだ。

「殴って済むならそうしてくれよ。」
思えば彼女は急に眠ってしまった僕を背負ってここまで連れてきてくれたという。故意ではない。故意ではないのだが、僕はそんな彼女の恩を仇で返してしまったのだ。殴られるくらいの覚悟をするのは当然である。

「夢精ヤローになんて触りたくないんだよ……」
しかし、そんな僕の覚悟を粉砕するような冷酷な言葉が投げかけられる。夢精ヤロー……たしかに僕は夢精ヤローです。

そして沈黙が訪れる。小町あの子は泣きやみ、その代わりに孫の代まで呪ってやると言いたげな恨めしい視線で僕を睨み付ける。
これがなかなか応えた。夢精ヤローと罵られるほうがマシだったかもしれない。沈黙と視殺に耐えかねた僕は、最後のあがきとして事情を話すことにした。

とは言っても、事実をありのまま話したわけではない。話したのは、最近何者かに犯される夢を見ること。その夢から目覚めた後に必ず夢精してしまうこと。そして、その夢を見るのが怖くてここ数日僕は眠らずにいて、彼女にショルダータックルされたときに限界が来てしまったということ。
僕を犯す相手が澤井君で、そのとき自分が「ゆるゆるエンジェル」の美咲たんになり、しかも自らの意志とは裏腹に身体はよがっていることは伏せておいた。そこまで話したら僕は完全におかしな人だが、そこまで話さなくても僕は彼女にとっておかしな人だった。

「きめぇんだよ!変態夢精ヤロー!」
第一声がこれだ。僕は夢のことを話したことをすぐ後悔した。澤井君とSEXする夢をみるは、その夢が寝取りだったりするは……そして今ここで不良少女を敵に回してしまった。もう散々である。
しかし小町あの子は僕は罵った後で急に真剣な顔になると

「お前、家はどこだ?」
と僕に尋ねた。まさか腹いせに家まで押しかけて僕をシメるつもりなのか。僕は口を閉ざしたが、「早く言え!」の一喝にあっさりと口を割った。

「天神町の7丁目……21番地……」
「……分かった。これ以上お前にぶっかけられる奴がでてきても困るからな。私がなんとかしてやる。」
「なんとかしてやるって?」
「心配するな。今日は安心して寝ろ。私に任せておけ、夢精ぶっかけ魔。」

変出者扱いは心外だが、窓から差し込む光に照らされた彼女の得意げな表情を、僕は天使のようだと一瞬思った。

       

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