Neetel Inside ニートノベル
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数日ぶりに部屋の電気を消した。真っ暗という感覚を久方ぶりに味わった気がする。
ここ数日は寝ない努力に勤しんだ。寝たらまたあの夢を見てしまう、という恐怖心だけが支えだった。
深い眠気に襲われるたびに、僕は頬の内側の肉を奥歯で強く噛んでいた。そのたびに血の味が口の中に広がった。今も鈍い鉄の味が、下の裏や歯茎を覆いかぶさるように残っている。

とは言っても意識とは裏腹に、肉体は睡眠を求めていた。それは夢の中と同じだった。嫌悪する意識と快楽に溺れる肉体。
意識は肉体を時折支配できない。では、その時肉体を支配しているのはなんだろう?それは僕の無意識だというのか?ならば僕の無意識は何を求めているのか?
あの知らない部屋で見せられている夢こそが、僕の無意識が求めるものだというのか。それは違う。

「それは違う。」
声に出してみた。暗闇の中で、僕の声が反射する。しかし、こだまはすぐに消えてしまう。もう一度同じ言葉を口にする。さっきより大きな声で。

「それは違う。」
線香花火が消えるよりも早く、声はその場から消えていく。否定の言葉がこれほど儚いと心細い。
今は、小町あの子の言葉を信じるしかない。小町あの子の「心配するな」という声がどこかから聞こえてくる。その声が消えないうちに眠りにつきたい。

闇が疲れた僕を優しく包み込んだ。




これは天使のお話。
知らない部屋にはベッドが一台。その上には天使が一人。
天使は羽を休め、今日も王子様を待っていました。瞳を閉ざし、天使は意識を暗闇に閉ざしています。やがてドアをノックする音が聞こえません。
「美咲さん、美咲さん。今日も来ました。中に入れてください」
美咲、そう天使の名は美咲。虎次郎くんのもとにやってきた、おっちょこちょいの天使。
ところで虎次郎くんはどこにいるんだろう?なぜ私はここにいるのだろう?
しかしそれは美咲にとって別に知る必要のないことでした。この部屋の中では知る必要のないことは知る必要がなく、知る必要のあることだけが知ることができます。
美咲にはそれで十分でした。この部屋に王子様がやって来て、王子様と結ばれる。美咲にとってそれは彼女がここにいる理由のすべてです。美咲はそのことも知っています。
「美咲さん、美咲さん。ドアを開けてください。私です。」
おっと、王子様を待たせてしまったようです。彼を部屋の中に迎え入れなくてはなりません。
美咲の意識はまだ暗い闇の中。ベッドから動くことはできません。でも、美咲はドアを開ける方法を知っています。それは彼女にとって知る必要のあることだからです。
「美咲さん、美咲さん。早くしてください。!?なんだお前は!?」
王子様に急かされた美咲は急いでドアを開けます。ゆるりんえんじぇるん。こう唱えればいいのです。眠っている美咲には声を上げることはできませんが、美咲はここでこの呪文を唱える方法を知っています。
しかし王子様はいつまで立っても入ってきません。一体なにが起きているの?美咲にはそれが分かりません。
「他人の夢の中で何やってるんだよ!このレイプ魔が!」
ボカ。美咲の知らないところで、王子様の頬骨が凹むむ音がします。一発、二発、三発。たちまち王子様の身体はアザだらけ。
「君!暴力はいけないんだぞ!暴力は!!」
「じゃあ性暴力も駄目だよな!おいコラ歯食いしばれェ!」
「合意だ!僕と美咲は合意なんだ!」
美咲は王子様が来るのをいまかいまかと待ち構えています。美咲には王子様の身に今降りかかっている災難を知ることができません。なぜなら、それは彼女にとって知る必要のないことだからです。

       

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