Neetel Inside ニートノベル
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Palpitate

 「お前死相が出てるぞ?」
いきなりこいつは上から目線で何を言っているのだろう。
事実、こいつは僕を上から見下している。
わざわざそんなことするために駐輪所の屋根の上に座っているのだろうか。
なかなか損な性格の人である。
だが渡りに船とはこのことである。
僕は人に話しかけるのはあまり得意なほうではない。
だが話しかけられればそれは別だ。
それは相手が僕に対し何らかの感情を向け、いくらかの興味があることに他ならないからだ。
他ならないはずだ。僕は他ならないと考える。
「ああ、丁度いい所に、君、草中英語担当がどこで授業をやるか知らないかい?」
本題から入る。本題以外話す気はないのだが。
「なんだ迷子か、丁度いいわけでもないが案内してやろう。」
ふわりと、そんな擬音が似合うような動作で彼女は屋根から飛び降りる。
綺麗な髪がふわりと、シャツの裾がひらりと、ミニのスカートがピラリと、うん、まあ悪くないんじゃないでしょうか。
綺麗な着地、バランスを崩す風(ふう)もなく、着地音もしなかった。しょっちゅうこんなことをしているのだろうか。
着地するや否やとっとと行くぞと僕の手首を掴みおもむろにに走り出す。
場所を聞こうとしただけなのに、なぜ今僕は女の子に手を引かれ校舎を全力疾走しているのか。
彼女が有無を言わせぬ巧者なのか僕が流されやすいだけなのか、きっと後者。多分。
渡りに船どころかとんだ北の不審船に拉致されてしまったようだ。
普段僕はあまり波風を立てようとは思わない質なのだが、この不審船は日本海に荒波を自ら立てて進んでいくのだった。

 階段を三階分駆け上がり、校舎の端から端までを走りきったところで、彼女は足を止めた。
急に止まられても勢いを殺しきれない僕は無様に廊下と仲良くする羽目になった。
彼女が足を止めたということはここが北の港改め草中将軍様が授業を行う教室だろう。
事態が急変しすぎて混乱している気もするが気のせいだろう。
そのまま手を引かれて教室の中へ、体はもう轢かれたか挽かれたかのようにぼろぼろな気がした。
傍から見れば仲良く手を繋いで来た二人だが教室の中の誰も気にするそぶりはない。
引かれるようなこともなかった。
最近の若者は他人に対し極めて無関心だ。
その例外に僕は拉致られてしまったのだが。
そのまま、陽が当たってとても暑くなりそうな飛び切りの特等の空席に二人仲良く寡欲に座る。
固定された椅子と机の狭い隙間に腰を下ろし息を落ち着ける。逝きを押し付ける。
自転車からの障害物競走。バイアスロン自由形なんて二度としまいと心に誓った。
左腕の腕時計に目を通す。11時11分。電子盤に並んだ縦線を見てちょっとにやっとした。
いや、数字が同でもどうでもいいんだ。
確か2時限目の開始は11時10分だったと思うが。
壇上には将軍の姿は(将軍?何を言ってるんだ?)草中英語担当の姿はない。
本人が遅刻をするとはいいご身分だ。
そんなだからロクな治国が(??だから金土日は関係ないだろ?)
「あれー?草中さんが遅刻とは珍しい。彼女いつも5分前にはいるのにな。」
・・・まさかな。
頭にありがたい在り難い妄想が過ぎったがきっとただの妄想だろう。
することもなし、草中英語担当が来るまで休もうと目を瞑る。
その考えを彼女が潰す。
「聞かないの?」
「聞かないよ」
「興味ないの?」
「興味ないよ」
「死相とか言われたのに?」
「死相とか言われてもだ」
「変わった人だね」
「・・・君ほどじゃない」
「じゃあ聞かれなくても言うけど・・・」
彼女は一旦そこで言葉を区切る、僕を縊るかのように。
「お前、近いうちに死ぬよ」

 そんな、嘘みたいな嘘みたいな嘘、当然興味など持てなくて。
だがこれが真実味のある真実と信じる場合でも僕は興味などは持たなかっただろう。
それが僕の在り方であり、それが僕の成り方であり、それが僕のやり方であったからだ。

       

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