Neetel Inside ニートノベル
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Paradoxical Parallel Paradise

Prologue
自分の周りの世界すべてが等しく完全に自分を愛してくれるのならば、その世界はどんなに愛しく安全なのだろう。

 今日も世界は順当に愚鈍に絶え間なく動き続ける。
それは明確な意思の元、正確な位置の上を動いているのかも知れない。
そうでないかもしれないが、少なくともそれは僕の関与しうる話ではない。
世界は僕に関与しても僕は世界に関与することなんてできない。
違うな、できるだろう。
だがそれすらも違う、僕は世界に関与せざるを得ない。
ぼくの望む望まないにかかわらず、僕の臨む世界は僕抜きでは存在し得ない。
それならばいっそ、できるならじっと。
世界を壊してしまおうか、自分を殺してしまおうか。
消失はどちらが先か、事故を起こすためのチキンレース。
そんな、参るほどに滅入る現実逃避を頭の中から払拭して、今日も僕の一日は始まった。
正しくは、始めさせられたなのかもしれない。

 また意味不明な思考が頭を支配していたらしい。
夢とはまた違う、夢のように儚いものではない。
明確な理性の元の思考、自分の物でない誰か他人の自己主張。
頭の中はどうしようもなくぐちゃぐちゃで、整理などできるはずもなく、勿論整理する気もなかった。
しかたなしに体から無理やり起こしていくことにする。
胃の中になにか詰めればこの主張は摘めるのだ。
何か朝食を用意しようとしたが、僕以外誰もいない部屋の中はどうしようもなくぐちゃぐちゃで、整理などできるはずもなく、
(いやこっちは整理する気はあった。整理する機がなかっただけで)
当然それは部屋だけでなく台所まで続いていて、とても料理なんてできる状態じゃなかった。
仕方ないので安売りしていたインスタントスープを水で飲む。
自己を起こすためのチキンスープ。
なかなかどうしてこれが不味くない。
頭の中の領域を徐々に自分の理性で詰める。
先ほどまでの主張を頭から追い出すように、世界から拒絶させるように。
時計は1時限目開始を意味する時間に針を置き、こうして、今日も朝は変わりもなく、関わりもなく終わっていった。

 講義が始まっているあの教室の中では僕の返事の代わりもないのだろう。


 陽のあたる坂道を自転車で駆けのぼる。
文面は爽やかな青春の1ページだが、そんなページは分厚い文庫本の中にしかない。
今年の初夏は暑い。
容赦なく日差しは背中を照りつける。
だがペダルをこぐ足を止めるわけにはいかない。
時間が僕を蹴りつける。
百円均一で買った百円もしない釈然としない腕時計に目を向け時間を確認。
2時限目開始5分前。
微妙なところだ。
どうしてあれだけ時間があったのに余裕を持って家を出れないのか。
いいんだ、社会不適合者だから。
不敵に笑って見せるが素敵ではない。
無敵の免罪符にもなりえない、愚的だ。

 どうして僕がこんなにも必死で走っているのか、走らなければいけないのか。
答えは明確明白。
僕は社会不適合者であって社会不適応者ではないからだ。
確かに僕は社会に合わない。(これを社会が僕に合わないと言った病めた時期もあったが止めた。)
だが社会に応じることができないわけでない。
と思いたい。
そう僕は思い込むことにしている。
勿論この二つの言葉の違いが正しい意味である訳でもないし、その考え自体が脆く危うい社会不適なのかもしれない。

 そんな下らないことは問題ではない。
上り坂は続く。
2時限目を遅刻できない訳、理由。
今回遅刻するともう進級ができないぞと、わざわざ電話をよこしてまで針灸を据えられたのだ。
まあ、こんなドロップアウトも放っておかない草中英語担当には感謝すべきなのだが。
まったく誰のせいだ。
僕のせいなんだけどさ。
僕の性のせいなんだけどさ。
そんな毒吐くを毒っと毒づいたあたりでガッコが見えてくる。
汗は毒毒(さすがに無理か)。
乗ってきた自転車を適当に駐輪所の柱に立掛け、教室にダッシュ。
したかった。
できなかった。
そもそも僕はこの次の英語の授業がどこの教室なのか知らない。
よく考えれば灸を据えられたのも、休で占めすぎたせいであるわけで。
よくよく考えれば、僕は入学してから今日この皐月終わりのさっきまで、英語の授業を受けたことがないわけで。
よくよくよく考えれば考えるだけ無駄でしかなかった。
息絶え絶えの逝きかけの小粋な授業遺棄意気消沈。
なかなかどうして無粋じゃないか。

 そんなとき声をかけてきたのがそいつだった。
欠けていた僕に。
賭けていたのは互いかもしれない。
とにかくそいつが僕と掛け値なしのかけがえのない友になるそいつ。
僕と真逆の、正反対、対称、反対、水と油、雪と墨、だけれども一周回ったメビウスの先で、全く限りなくどうしようもなく同質の同義の同値の同様同体同心の同一人物。
ただひとつ言えることは僕は一生そいつのことを認めるわけにはいかないし、そいつは一生僕のことを認めないだろう。
そんな矛盾した平行線上の楽園世界。

     

Palpitate

 「お前死相が出てるぞ?」
いきなりこいつは上から目線で何を言っているのだろう。
事実、こいつは僕を上から見下している。
わざわざそんなことするために駐輪所の屋根の上に座っているのだろうか。
なかなか損な性格の人である。
だが渡りに船とはこのことである。
僕は人に話しかけるのはあまり得意なほうではない。
だが話しかけられればそれは別だ。
それは相手が僕に対し何らかの感情を向け、いくらかの興味があることに他ならないからだ。
他ならないはずだ。僕は他ならないと考える。
「ああ、丁度いい所に、君、草中英語担当がどこで授業をやるか知らないかい?」
本題から入る。本題以外話す気はないのだが。
「なんだ迷子か、丁度いいわけでもないが案内してやろう。」
ふわりと、そんな擬音が似合うような動作で彼女は屋根から飛び降りる。
綺麗な髪がふわりと、シャツの裾がひらりと、ミニのスカートがピラリと、うん、まあ悪くないんじゃないでしょうか。
綺麗な着地、バランスを崩す風(ふう)もなく、着地音もしなかった。しょっちゅうこんなことをしているのだろうか。
着地するや否やとっとと行くぞと僕の手首を掴みおもむろにに走り出す。
場所を聞こうとしただけなのに、なぜ今僕は女の子に手を引かれ校舎を全力疾走しているのか。
彼女が有無を言わせぬ巧者なのか僕が流されやすいだけなのか、きっと後者。多分。
渡りに船どころかとんだ北の不審船に拉致されてしまったようだ。
普段僕はあまり波風を立てようとは思わない質なのだが、この不審船は日本海に荒波を自ら立てて進んでいくのだった。

 階段を三階分駆け上がり、校舎の端から端までを走りきったところで、彼女は足を止めた。
急に止まられても勢いを殺しきれない僕は無様に廊下と仲良くする羽目になった。
彼女が足を止めたということはここが北の港改め草中将軍様が授業を行う教室だろう。
事態が急変しすぎて混乱している気もするが気のせいだろう。
そのまま手を引かれて教室の中へ、体はもう轢かれたか挽かれたかのようにぼろぼろな気がした。
傍から見れば仲良く手を繋いで来た二人だが教室の中の誰も気にするそぶりはない。
引かれるようなこともなかった。
最近の若者は他人に対し極めて無関心だ。
その例外に僕は拉致られてしまったのだが。
そのまま、陽が当たってとても暑くなりそうな飛び切りの特等の空席に二人仲良く寡欲に座る。
固定された椅子と机の狭い隙間に腰を下ろし息を落ち着ける。逝きを押し付ける。
自転車からの障害物競走。バイアスロン自由形なんて二度としまいと心に誓った。
左腕の腕時計に目を通す。11時11分。電子盤に並んだ縦線を見てちょっとにやっとした。
いや、数字が同でもどうでもいいんだ。
確か2時限目の開始は11時10分だったと思うが。
壇上には将軍の姿は(将軍?何を言ってるんだ?)草中英語担当の姿はない。
本人が遅刻をするとはいいご身分だ。
そんなだからロクな治国が(??だから金土日は関係ないだろ?)
「あれー?草中さんが遅刻とは珍しい。彼女いつも5分前にはいるのにな。」
・・・まさかな。
頭にありがたい在り難い妄想が過ぎったがきっとただの妄想だろう。
することもなし、草中英語担当が来るまで休もうと目を瞑る。
その考えを彼女が潰す。
「聞かないの?」
「聞かないよ」
「興味ないの?」
「興味ないよ」
「死相とか言われたのに?」
「死相とか言われてもだ」
「変わった人だね」
「・・・君ほどじゃない」
「じゃあ聞かれなくても言うけど・・・」
彼女は一旦そこで言葉を区切る、僕を縊るかのように。
「お前、近いうちに死ぬよ」

 そんな、嘘みたいな嘘みたいな嘘、当然興味など持てなくて。
だがこれが真実味のある真実と信じる場合でも僕は興味などは持たなかっただろう。
それが僕の在り方であり、それが僕の成り方であり、それが僕のやり方であったからだ。

       

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