Neetel Inside ニートノベル
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DieBention
一話「最初の試練信号」

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 腹が痛い。
 全てはそこから始まった。
 
 帰宅途中、便秘だった私はトイレなどと言う所は小便以外意味の無い時間をつぶす場所と甘く考え、駅のトイレによらず意気揚々と帰途を歩いている時、奴はいきなりやってきた。
 おかしい。何かがおかしい。私の腹の中で一週間たまりにたまった何かが鼓動し始めている。これはやばいかもしれない。もしかしたら、もしかするかもしれない。
 駅からまだ出たばかりだし、定期だし、駅のトイレに駆け込むのは用意ではないが、再びこの人の流れを逆走して改札から改札横にあるトイレに駆け込むのは正直恥ずかしい。私にはそんなことできない。
 混乱しかけていた私はそんな意味不明な結論を出し、駅前から歩みだした。
 駅は坂の途中にあり、大体の人は坂を上っていくが、運命なのか何なのかは分からないのだが、私の家の方向、つまり坂の下り方面は絶望的に人通りが少ない。うん、いつもは一人歩きで怖いと思っていたこの道が、もしのの時には、もしもの時には、って菜に考えてるの私。辞めなさい。そのことを考えるのは辞め……あっ。
 腹を何とか制御しつつ坂を下り終え、坂の途中から見えるいつもは綺麗に見える町並みや夜景、もう何もか全て怨むべき対象と思える、そんな憤怒を宿した私の前に最初の敵とも言える現代的なアレがたちはばかった。

 信号。

 坂を下り終わると大通りとぶつかりT字路になっており、我が家に行くにはその大通りの反対側の歩道を歩かなければならず、しかも信号はここだけ。しかも車の交通は時間帯が時間帯なだけ、赤信号なのに渡ろうとか考えちゃった時には少しどころかかなり恐ろしいことになる。
 だが、今の私にとっては歩行者や車を事故無く行き来するための画期的なそれは、たんなる敵でしかなかった。
 しかもこの信号、車の通らない深夜だの昼間は比較的にすぐに分かるのだが、夕方的なこの時間帯はまったく変わらないと悪名高気信号だった。
 腹の痛さは五段階中二段階と今のところ、腹が痛いだけに収まっている。まだ耐えられる。まずはこの荒ぶる便意を落ち着かせるんだ。
 そうだ! 夜景……ダメだ……。もう坂も下り終わり、今は逆に坂の上から見下される存在となっている。何か違うことを考えるんだ。そうだ、なぜ信号は赤はダメで青はいいのか、それを考えるんだ。
 青は確かおばあちゃんが言ってたけど昔の人は緑って言ってた気がする。でも、なんでこんな時に限ってお腹が痛くなるんだろう。意味が分からない。第一なにこれ、痛いんだけど。痛いとかの前にさっきから屁が止まらないんだけど。まだ人がいないだけいいけど、これ人が来たらもうやばいよ。
 ……ダメだ。何を考えても結局は大便のことしか考えられない。あ、そうだコンビニに寄ればいいんじゃないか! 信号を渡らずに行けるし、そもそもコンビニ……。
 
 なぜだろう。神様と言うのはこういう時に限って人に選択をさせるだろうか。
 そう、コンビニと言う妥協案が私の頭の中で出た瞬間に信号が赤から青へと切り替わった。しかも、腹痛段階も一段階へと格下げされていた。
 悔しい。悔しい。
 決意した。私はこの便意と戦うことを。
 信号が変わる前に私は大きく一歩前に前進した。

 さあ、行こう。自宅のトイレまで。

       

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