Neetel Inside ニートノベル
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DieBention
閑話「ShowBention」

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 大便を漏らしかけたことは何度かあるが、正直、小便を漏らしかけたことは一度もない。
 大便ほどの便意を巻き起こさない小便は、自分にとっては脅威などと言うモノとは関係のない別次元の話だと、その時までは思っていた。

「はい……今、首都高に居るんですが渋滞に巻き込まれてて……予定より遅れそうです」
『分かった。先方にはこっちから伝えておく。なるべく早く戻れよ」
「はい!」
 ちょうど入社半年目のことだった。この日は朝から忙しく、本当に小便に行く余裕もないくらい忙しかった。
 先ほどの電話は会社の上司だ。商談に遅れるなど、この新米の自分が言えるわけがない。というか単にチキンなだけなんだが。
 どっかのバカが事故を起こしたせいか、二車線しかないこの大都会を横断する高速道路はほぼ缶詰状態と言っても過言ではないほど、渋滞していた。
 五分に十メートルくらい進めばよし。ヘタをスレば十分動かないこともある。いったいなにをやってるんだ。ふざけんんじゃねえよ、こちとら急いでるんじゃボケ。
 会社の車には幸か不幸かカーナビが搭載されていたので、何キロ先で事故があったとかは一目瞭然だったんだが、逆にそれが自分の怒りを刺激し、そして膀胱を刺激するなんてことになるなんて、この頃の自分は一切考えていなかった。
 カーナビを地図からテレビに変更し、くだらないテレビ番組を見る。
 アイドルの裏側とか、そんなの興味ねえ。でも、暇だから仕方ない見てやるか。そんなことを思いつつテレビを見ていると、急に下腹部が貼り出した。
 おや? おや? そんな風に自分の体に起きる変化を楽しみながら、先程のテレビ番組の続きを見ていると、とてつもない違和感と共に膀胱と思われる部分が痛み出した。
 な、なんだこれは。まさか、尿意!?
 そんなバカな。おかしいだろこれ。痛い痛い痛い痛い痛い。
 ふう、落ち着け、自分。まだ慌てるようなあれじゃない。落ち着け。ほら、テレビだよう。テレビがカーナビの画面に写ってるよお。ほらー、可愛いアイドルの裏事情ですよお。
 そんなの興味ねえよ、と言わんばかりに膀胱が唸った。出させろ、出させろ、この膀胱様に小便を出させろ!!
 アクセルを思いっきり踏みそうになりながらも、自分の将来について考える。
 もしもだ。もしも、ここで車の扉を開け、外に飛び出し小便をする。まあ、自分と言う生体は保たれるだろう。この地獄のような痛みからも解放されるだろう。だが、だ。だが、この車の外装を見るんだ。会社の名前が堂々とペイントされてるんだぞ! そんな会社の名前がバリバリにペイントされた車から飛び出てきた人間が道の端に行き、小便をするとする。渋滞だ。今は渋滞中だ。そのとおり、誰に見られているか分からない。もしかしたら、今日の商談相手の会社の人間に見られているかもしれない。あ、あわわわ……。
 もしもだ、もしも、この扉を開かずに会社の車の中で放尿するとする。するとどうだろう。どうしよう、多分、会社にはいられるだろうが、自分の入れる場所は限りなく無くなるだろう。小便を漏らすなどと言う快挙は、多分、会社設立初だ。うーん、それはそれで魅力的だが。いやいやいやいや、なに考えてんの!
 そうだ、小便ならまだ行けるはずだ。なにか代用できるものを探せばいいんだ。そ、そういえばさっきコンビニでサンドイッチを買ったな……。あの時、たしか店員が小さなビニール袋に入れてたな。うおおおおおおお、それしかねえ!
 
 掛けだったんだ。袋の容量と自分の膀胱の中にある液体の容量、どちらかが多いか。そんなのどう考えても後者のほうが多い。そりゃそうだ。約一日分の液体を放つわけだから、そんなちんけなビニール袋じゃすぐにパンパンになるのはわかってたけど、けど、自分にはそれしかなかったんだ。

 最高だったよ、その日は。
 首都高で全てを放った後、なにを思ったのか知らないが、その足で自宅に帰り、荷造りをして、車のシートにファブリーズをぶっかけ、その上からバスタオルをかぶせ、その勢いで会社の車だったけど、そんなの関係なく、一人旅に出ることにしたんだ。
 勿論、携帯電話なんていう便利アイテムの電源は切ってね。でも、会社の人に心配されるのが嫌だったので「車をお借りします。綺麗になったら返します。すぐに帰るので安心してください」ってメールをしておいたので、たぶん大丈夫。
 さあ、どこへ行こう。今の自分になら行けない場所はない気がする。そうだ、行ってみたかったあそこへ行ってみようかな。こんなことなら母さんも呼んでおけばよかったな。ああ、全く。
 車の窓から心地のいい風が入ってくる。いいねえ、今日は飛ばしちゃおうかな。んー、いいねえ……。
 

       

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