Neetel Inside 文芸新都
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短短編はじめました。
中学のときに書いたの(手直し)(中篇) 05/03

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 何もない日常。いいがげん見飽きた景色。吐きそうになるくらい甘ったるい平和。
「暑い」
 季節は夏。
 太陽は俺を溶かそうとせっせと夏を送り続け、アスファルトはその熱を吸収して熱くなっていく。
「今なら三輪車に当たっても死にそうな気がする」
 頬を伝う汗。
 拭うのはもうあきらめた。
 何もない曲がり角。
 いつもの曲がり角。
 俺はただいつものように退屈な通学路を歩ていた。
「ちょっとあなた~あぶな…」
 注意力が暑さの中で散漫していたのだろう俺はそれにまったく気づくことができなかった。
「ぁ?」
 間抜けな声を上げて確認しようとするがもう遅い。
 それはすでに向こうの方からの俺に向かって突進してきている。
「死んだ」
 本当にそう思った。
 なぜならそれと言うのは自転車で、三輪車で死ねるだろう俺には到底耐えられる代物ではなさそうだったからだ。
「ててて……」
 腰をさする。
 なんだ案外丈夫だな俺。
 正直なにが起こったかよく把握できていないがとりあえず俺は生きているみたいだ。
 俺の代わりのない退屈な日常にちょっとした非日常が舞い込んだ。
 まぁ、自転車に引き飛ばされただけど。
「ちょっとあんたどこ見てんのよ!!」
 何もせずにただずんでいたが何者かの声でふと我に返る。
 考えてみれば事故というのは加害者と被害者がいないと成立しないわけで、この場合は俺が被害者になるわけだから加害者がどこかにいるはずだ。
 加害者といってもこっちがボーっとしていたのが悪いところもあるし一応怪我がないかぐらいは聞いておかなくてはならないだろう。
 そう決心を決めて回り見るとそこには俺を引き飛ばした加害者の姿が……。
「あれ?」
 不思議なことにどこを見たってそんな奴は存在しなかった。
「どこにいったんだ?」
 まさか俺は暑さにやられて幻覚でも見ていると言うのか?
「こっちよ馬鹿!」
 ふと視線を下げるとそこには俺の肩よりも少し小さいおさげ髪がひょこひょこ動いていた。
 どうやらこの子が加害者らしい。
「怪我はなかったかい、嬢ちゃん?」
 なんて俺は優しいんだろうか、自転車に跳ね飛ばされたと言うのに引き飛ばした子を心配してあげているなんて。
「だれが嬢ちゃんだって?」
 なぜか目の前の少女はものすごく怒っている。
 落ち着け俺、何かまずいことをしただろうか?
 よし確認しよう。
 まず①俺は通学路を歩いていきなり跳ね飛ばされた。
 そして②俺は引き飛ばして犯人を見つけても身を案じてやっている。
 最後に③俺は何もやってない!!
「よし偉いぞ俺。何もしてないじゃないか!」
 おもむろにガッツポーズをして叫ぶ。
「え?」
 しまった……思ったことが口に出てしまったようだ。
 思いっきり変な目で見られている。
「とにかく、あんた、ぶつかっておきながら謝罪の一言もないなんてどういうことよ」
 このちびっ子は何を言っているんだ?
 そりゃ俺にも多少の責任があるとはいえ、ぶつかってきたのは自分の方だろうに……。
「すまなか……ってなぜだ」
 華麗にノリツッコミをする。
 流石は関西人。関西人の血なんて流れてないけど。 
「なぜってあなたが自転車に当たってきたんじゃない」
 なんてことを言うんだこの子は?
 俺がこの子の自転車にタックルを仕掛けに行ったとでも言うのか?
「あんた?名前は?」
 唐突に目の前のおさげが聞いてくる。
「教える義理はないぞ」
 いきなり名前を聞かれても答える義務はないのは当たり前だ。
「そう?じゃあポチでいいわね」
「ポ……ポチィ!?」
 ポチって言ったらよくある犬の名前じゃないか。
「ポチ?あんたも愛嬌学院の制服を着ているみたいだけど何年生?」
 あいかわらずおさげは高慢な態度だ。 
「ポチポチ言うな俺の名前は緒方幸一だ」
 流石にいつまでも犬扱いされるのも癪なので名前を名乗ってやる。
「名前なんてどうでもいいことよ。ポチ、さっさと質問に答えてよ」
 この女だまっていれば好き勝手に言いやがって。せっかく名前を教えてやったのに無視だと?
「さっさと答えなさいよポチ」
 そう言えばこいつ「ポチ?あんたも愛嬌学院の制服を着ているみたいだけど何年生?」って言ってたよな。
 あんた”も”愛嬌学院っていったよな?
「あんたもって……」
 よく見ればこのちびっ子おさげは、俺と同じ学校の制服を着ていらっしゃるではないか。
「お前、その年でコスプレか?」
「は?私もあなたと同じ愛嬌学院の生徒よ」
 このちびっ子はなんてことを言いやがる。
 まさかうちは中学生でも入れるのか?
「だから名前と学年を教えなさいよ」
 目の前のおさげは手を腰に当てて明らかに不機嫌そうな顔をしている。
「俺の謝罪を返せ!」
 信じられないが本人が同い年というならそうなのだろう。ならば俺も遠慮する必要性はない。
「何をいまさら言うのよ?ポチ」
 おさげもいきなりの俺の態度の豹変具合に驚いたのか腰が引けている。
「黙れこのミニマム女」
「ミ、ミニマムですって?」
 そうとう気にしていたようでかなり起こっている様子だ。
「そうだよミニマム女」
 弱点がわかれば早い。そこをつつけばいい。
「あんた?ぶつかって来ておいてせっかく許そうと思ってたのに……気が変わったわ」
 小さいくせに生意気だ。
「許すだ?もともとお前がぶつかってきたんだろうが」
 俺は怒りを爆発させて吹っかける。
「あんた、さっき謝罪したじゃない」
「だから俺の謝罪返せってんだろ」
 自分でも無理なことを言っているのは分かっているがどうにも頭が働かない。
「冗談を、一度やったことは取り消せません」
「なんだと?」

       

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