――なぜなのか。
――どうしてなのか。
いつも最後はそうなっていく。
寒い朝だった。
前日から降り積もった雪に足を取られて転んだ君は、何ともないよと笑いながら膝から燃えるように真っ赤な血を流していた。
僕にあの色の血は流れているのだろうか。どうせ、もっと黒くてどろりとしていてグロテスクなんだろう。僕は君にはなれない。
別段、それくらいなんともなかったのだろう。
別段、騒ぎ立てることもなかったのだろう。
ただ「大丈夫?」って聞いて、「ドジだなぁ」なんて笑って手を貸してあげればよかったんだろう。それが普通なんだろう。
それでも、僕は君が心配だった。
周りのみんなは君を笑って手を貸している。君も笑ってその手を取る。だけど僕はそこに入れずに苦笑いを浮かべて「さっさと絆創膏くらい渡してやれよ」と小声で悪態をつく事しかできない。まったく、ままならないものだ。
君はちょっと御手洗いで洗ってくるといってその場を立ち去った。
別に誰も引き止めないし誰も気にしてはいないと思う。たぶん。
僕は何となく気になって後をつけた。つけたって言ってもトイレに行くのは知ってるし、結局誰も渡さなかった絆創膏もかばんに入っているからそれを渡そうと思ってるだけなんだ。なんてよくわからない自己弁解を展開して結局、君についていった。
流石にトイレに入るわけにもいかないし、かといって入口で待ち構えるのもおかしいかなんて周りをうろうろしていたら君は出てきた。
「え?」
その言葉を口にしたのはどちらだったか。
なんでいるのという驚きか。
なんで絆創膏をしているのという驚きか。
嫌な、気まずい沈黙が場を支配する。
「トイレ?」
沈黙を破ったのはもちろん君で、僕はただ頷いてしたくもないトイレに入るのだった。
「なにやってんだか」
ため息が出たのが先か愚痴が出たのが先か、まったくもって、なにやってんだろう。
一応恰好だけはとトイレの間に立ってみたら、案外出るもんである。しかも結構長い。
「まぁいいか」
どうせたかが絆創膏一枚だ。渡せなくたってそう悲観することはないだろう。次の機会までどうかお休み絆創膏君よ。