13、とにかく別として


 右近の解釈は間違っていた。
 正確には一部間違っていなかったが、大事なことを彼女は知らされていなかった。
 保健室の先生(自称妖精生態学研究者兼右近の担当医)によると……。
 なすび妖精は水中で人(♀)から雌性を吸収し、その力を植物が有効活用できる形にして再び水中へ排出するとのことだ。
 右近の体にできる痣。あれは雌性を吸われた跡なのだそうだ。
 つまりなすび妖精は人と水を材料に植物の液体肥料をつくる生き物なんだと。
 この液体、実際のとこ動物へは何の影響もない。
 故に、以前右近が言っていた「雌牛の乳は高性能な乳になる」ようなことは決してない。
 まして立川女史のオッパイがエロ凄くなるようなことも全くないのだ。
 むしろ立川女史のオッパイは現在、危機的状況に置かれているのである。
 このまま女史があの妖精を飼い続け、右近のように入浴を共にするようなことになれば……。
 立川女史も雌性を吸い取られ、オッパイどころか素敵なボディーの曲線美までも失われかねない。
 そんなことになれば、僕たち思春期の男子には死活問題となるだろう。
 僕ら男子は何をオカズに迫りくる股間のモンモンと戦えば……、あ、いや、そんなこと今はよい。
 しかし既に雌性を吸われまくってしまっている右近はこの事実を知らない。
 右近が男子体型なのは彼女が長年に渡って己のペットへ自分の雌性を与え続けてきたからにほかならない。
 右近は言ってみればあの妖精の被害者でもある。
 このことは彼女の耳にも入れたほうがいいだろう。
 けどその前に。
 保健室の先生はどうしてこんな大事なこと右近に話さなかったんだ?


「何故右近はこんな大事なこと知らないんですか?」
「うん。僕が言わなかったから」

 ――イラッ!

「なんで!」
 酷い主治医だ。
「う~ん。研究者としての興味かな」
「先生、あなたって人は……」
「いやね、最初は僕も真面目な治療のつもりだったんだよ」

 どこでどう間違ったのか。
 10年前、当初なすび妖精は男の娘で有名な右近の兄の治療に使うはずだった。
 けれどある日、本人の意思で治療はとりやめになった。
 その時保健室の先生は妖精の始末に困り鴨川へ放流したら、いつのまにか右近に拾われていた、とのこと。
 その後右近はなすび妖精を頑なに手放そうとしなかった。
「妖精といる自分はいちばん気持ちいいんだと言ってね。」
「はぁ……それはまた個性的な……」
「最初は“僕もその気持ちいい”って意味が解らなかったよ。でも今は解る。君もそれが何なのかよく知っているだろう」

 そうだ。僕は知っている。
 あの妖精の何が右近にとってそんなに気持ちいいのか……。
 彼女は魅入られてしまっている。異種間での快楽に――。 

「でもね、右近は幼いころからその少年っぽさはずば抜けていた。だからあれは彼女の素地でもあるんだ」
「じゃあ、なすび妖精は右近の個性を引き出したと?」
「結果的にそう言える」



 僕は保健室の席を発った。
 右近に話したいことがいっぱいできた。
 早く彼女に会いたい。
 いや、会って色々よく話してあげなくては。
 きっともう部活が終わって僕の寮に来ているはず。
 はやく、はやく、はやく。
 デブにとって可能な限り僕は早足で歩いた。
 お尻を揺らし、腿を揺らし、腕の肉をブンブン振りながら廊下を急いだ。


 息を切らせて寮へたどり着いたとき、僕の脇は汗でべっとりしていた。
 多分体育の授業以外で2週間分の有酸素運動をしたに値するだろう。

 部屋のカギはかかっていなかった。


 つづく