Neetel Inside ニートノベル
表紙

京 出町なすび
1、起源だとか野菜だとかは別として

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 僕デブ。
 小食だけど何故か太っているデブ。
 デブは皆そう言うとかこの際よして。触れないで。
 ご飯のとき、マヨネーズが僕のジャスティス。
 エレベータに乗るとき、「失礼します」が僕のスペル。
 新陳代謝は年中良好。パンツは股から穴が開く。
「ブラしてみれば」女子が言う。「チンコ見えるか?」男子が問う。
 結論。
 君のブラくれ。パイパイ揉ませてよ、女子。
 先っぽくらい見えるよ男子。自分で掻けるよほらシャコシャコ。
 思春期後半のデブ舐めんるんじゃないよ。コラ!
 あ、でも、ちょっとくらいは舐めてもいいんだよ。いや、嘘。
 むしろ舐めてください。もっと、もっと……。
 もっと……。そ、そこ。あ、そ、それ。いい、いいよ。
 いいよ右近。う、右近もっと……。
 みたいな夢を見たんだけど悲しいかな右近、君は夢の中でもやっぱり男だった。
 おかげで僕は第二次成長期必須の発達ステップ、夢精ですら叶わなかったよ。
 何たる無念。16歳男子、春のパンツはうららかに。

 
 ねぇ右近、君は一体いつ女子らしくなるんだい。
 折角の美形なのに致命的な欠点はそこだ。男みたい、いやむしろ男そのものなんだ。
 おちんちんがない男。それが君、桐王右近なんだ。
 けれど僕はそんな君が好きで好きで仕方がない。
 今はしがない片思い。でもいつか実ると信じて僕は君を見守る。
 このふくよかな眼差しで。
 時に今君が入浴中の風呂場から、雄々しい喘ぎ声が艶かしく聞こえているのはなぜだろう。
 君は人んちの風呂場で何をやらかしているんだ。
 もしこれが真に女らしい喘ぎ声だったら僕にだってとるべき行為があっただろう。
 なあ、そこのチリ紙よ。
 念のために言っておくが、僕だってボーイズのデリカシーくらいは弁えている。
 だから仮にも女子の入浴を覗くことはせず、ただその男らしい喘ぎ声を耳にコーラを飲むしかないんだ。ゲップ。
 それから暫らく後。
 やっぱピザにはコーラじゃん。などとリポビタンD風にポーズを決めていると、パン一姿の右近に背後からコーラを掠め取られた。
「サンキュー、ブーちゃん」
 取られたコーラはさておき右近さん、女子の恥じらいは何処ですか?
 そしてやっぱり制服着る前にブ、ブラは付けないのね。
 だよね。そうなんだよね。胸、引き締まってるもんね。逞しい胸板だもんね。
 制服だって男子のだもんね。いらないよねそんなの。うん。
 でも僕はちゃんと解ってるよ、大事なこと。
 女子の価値は胸じゃないって。そう、大切なのは、大切なのは……。
「何?」
「ななななな、何でもないです!」
 ……。
 何だろうこの汗。コーラって実は燃焼系飲料だたのかな。ははは。
 右近、目、鋭いよ。怖いよ。ゾクゾクするよ。
 でもそこが、スキ。
 この際だから「僕のオッパイ分けてあげるよ」なんて言ってみようか。
 死を覚悟して。
 だって僕は死ぬほど君が好きなんだから。多分、食の次に。ブヒ。
 それにデブという要素を除けば僕はこんなにもイケメン。向かうとこ敵なしだろう。
 男子な君を包み込めるのはこの世界においてきっと僕しかいないはず。
 解るかい? そこで人のピザをたいらげている男性的女子。最後の1スライスくらい置いといてよ。
 あ、いや、駄目。ちょ、あ、それ、無理なの? 無理みたいね。
 つまりはだから、君さえよければいつでもデブ専になってくれていいんだよ。とまあ、そういう話なんだこれが。解るかな。解んないか。
 でも僕は待ってるから。
 ずっと待ってる。
 待って……。
 仕方ない。デザート用のママカレーでも解凍して食べよう。


「ごちそうさまブーちゃん」
 いえ、お粗末さまでした。ママカレーまで楽勝に完食した右近へもはや何も言うまい。
「これ、ピザのお礼」
 右近はそう言って彼女のお兄さんのライブチケットを僕にくれた。
 カレーのお礼はないのね。ブヒ。
「女装して歌うらしいんだ。是非行ってやって」
「もちろん行くよ」
 右近のお兄さんは学校でも有名な男の娘。もちろん僕は女装男子を愛でる嗜好はない。
 しかし君の誘いだ。是非行くとしよう。
 大きなあくびをした右近は当然のように僕のベッドで昼寝を始める。
 微妙にシャツがはだけているがそんなことは構いなし。いつものことだ。
 まったく、なんて羨ましい胸板だろう。これが本当に女子だなんて。
 僕は彼女を見ながら何気に自分のオッパイを揉んでいた。
  
 ○月○○日
 軽音学部お花見ライブ : 学内、本館エントランスホールにて
 全席立ち見 動員300人になり次第締め切り
 
 
 つづく

       

表紙

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