Neetel Inside ニートノベル
表紙

京 出町なすび
3、異性入寮禁止は別として

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 桐王右近は女子であります。
 類稀な男子色の濃い女子であります。
 その顔立ちは鋭い目つきの男前。一丁前に髭もはやす。身長だって僕より高い。
 こんなお嬢さん、あなたは好きですか?
 僕は好きです。とてもとても。
 ずっと彼女に恋してます。運命のあの日から。
 
 僕と右近の出会い。
 それは高校入学式の朝でした。
 口寂しかった僕はロバのパン屋でカレーパンを買いました。
 何となくお約束的な展開を期待してそれを銜えると通学路を疾走してみました。
 鞠小路の角で腹肉の反動を活かし迅速に方向転換、パンチラを期待しつつ来るべき女子との正面衝突に備えました。
 ドシン! 
 彼女とはそんなふうに……出会いませんでした。ブヒ。
 
 ――――

 先週「若人よ、お米を見直せ! 白ご飯大食い大会」が校内で開催されたんです。
 右近との出会いはつまりそれです。
 このイベント、デブである僕が唯一学校で輝ける聖なる食祭です。
 僕は昨年の優勝者として、王座の防衛を賭けて今年も臨みました。
 対する彼女は今回が初参加。僕が負けるはずありません。
 僕の武器、ご飯の友は勿論マヨネーズ。ここは譲れません。
 ところが右近は武器であるご飯の友を一切持たずに参加していました。
 何てことでしょう。アンビリーバボーです。どうやって白ご飯を食べるのでしょう。
 僕の心配をよそに彼女はただひたすら白ご飯だけを延々食べ続けていました。
 いたって美味しそうに。
 ご飯を多く頬張ったり、少し口に含んだり、時は丼から口へ流し込み噛まずに喉ごしを堪能しているようでもありました。
 大会中、8人の参加者は徐々にリタイアしていきました。残るは僕と右近の一騎打ち。
 男子の叫び声や女子の黄ばんだ声援、ご飯粒が飛び交うさなか、右近の何気ない一言で勝敗が決しました。
「君は俺に勝てない。だって、ほら……」
 彼女が指差す先に僕の左手がありました。その手の中には空っぽのマヨネーズ容器が虚しく握られている。
 その瞬間、箸が停まった僕の口内へ無味乾燥な白ご飯の風味が一気に押しよせました。
 ご飯は眼前で白光る勢いを増し僕の目を焼きます。モハッとする湯気が鼻腔を貫きます。
 ――味が……、ない!――
「く、くそっ。マヨさえ、あれば……」
 惜しくも僕はその場に臥してしました。リタイアです。
 すると右近は食べかけている自分のご飯を奇麗にさらえ、ご馳走さまと合掌しました。
「な、俺の勝ちだろ。ブーちゃん」
 それは実に涼しげな爽やか男子の口調でした。
 この時、彼女の胃と心にはゆとりがありました。少なくとも僕にはそう見えた。
 けれど僕にはこれっぽちも心にゆとりはありませんでした。胃は別として。
 王者に必要もの、それは精神的ゆとりです。ご飯が白であるという事実に打ち勝つだけの心のゆとりが必要なのです。
 しかし僕にはそれがなかった。だから僕は負けたのです。
 さらに、彼女の男前で妙に人懐っこい笑顔には不思議な魅力がありました。おかげで僕は自分に付けられた素敵な仇名への怒りを忘れていたのです。
 以来僕は右近からブーちゃんと呼ばれようになりました。
 表彰式の後、傷心している僕のもとへ右近が近づいて来ました。
「ブーちゃん、君でも俺に勝てることがある」
「え?」
 高校生活で女子にモテモテのリア充男子にデブサイクがこれ以上何で勝てると?
 僕は拗ねていました。哀れみなんて沢山な気持ちでした。
 マヨネーズをママカレーにかけて、浴びるほど飲みたい衝動でいっぱいした。
 けれど右近はそんな僕に掴みかかると、両手で激しく僕のオッパイを揉み解したのです。
「これなら俺に勝てるぞブーちゃん! ぅあははははははは」
「うわっ、うわうわうわうわうわうわぁ――」
 無防備だった僕は突然の初体験にとても驚きました。
 この刺激、もしかして少し気持ちいいかもしれない。などとも考えてしまいました。
 放課後藤井大丸へどんなブラを買いに行こうかとも一瞬悩んだほどです。
 ま、兎に角おかげで沈んだ気持ちはその時どこかへ行ってしまいました。
 それから右近は僕をグイッと引きよせると、耳元で囁きました。
「俺、本当は女の子なの。でもこれ、皆には秘密な」(ハートマーク)
 まさか……。好きになっちゃうかも……。
 二つの感情が僕の胸肉辺りでもやついたような気がしました。
 しかしながら、彼女が女子だなんてなかなか信じられませんでした。
「嘘だ……」
「いずれ遊びに行く。ブーちゃんの部屋へ」 
 右近の言葉に嘘はなく、以来彼女はほぼ毎日僕の部屋にやってきます。
 そして僕の部屋の中を真っ裸のままでうろついたり、僕の剃刀で髭をそったり、お風呂に入って喘いだりしています。
 どうしてなんでしょう。解りません。謎です。
 僕は一体、彼女にとってどういう存在になったのでしょう。
 疑問です。


 つづく
  

       

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