5、君がおっぱいガーディアンなのは別として


 板についた男装。否、むしろ男子そのものでるそのさま。
 長身、明色の長髪、整った男前の顔立ち、しばしば顎に無精髭。
 そんな人間が男子寮へ来ることを誰が咎めるだろう。
 誰も文句なんか言いやしない。
 故に彼女は今日もやってくる。分厚い紙袋をたずさえて。僕ん部屋へ。
 おかげでチリ紙の消費がかさむ16歳男子ぽっちゃり型の友人のことを彼女は少しでも憂いてくれたことがあるだろうか。
 ないだろう。ないに違いない。ないに決まっている。
 だって彼女の家はお金持ちなんだもん。学校の理事長の娘なんだもん。そりゃそうさ。
「女性ならではの細やかな配慮だろ。京女はこうでなくてはな。ははは」
 などと言ってエロ本の入った茶色い紙袋を見せて笑っているだけ。
 なんて的外れな親切、奥ゆかしさ。そして可憐なセレブ男装女子高生。
 君みたいな女子なんかに僕は、もう……。
 抱きしめられたい!
 因みに高校生ボーイズの嗜みとして僕は毎朝生えてきた髭を剃る。そりゃもちろん。
 ところがどうだ。君は女子。なのに何故だ。度々僕の部屋で顎髭を剃っている。
 しかもずいぶん手馴れているじゃないか。
 おかげで昨日スーパーなかたに行ったとき、剃刀をお徳用サイズで買ってしまったよ。
 二人分なら普通こういうシチュエーションで歯ブラシピンク&ブルーになるはずだ。
 そうならない君との関係、僕は今夜もシングルデブナイト。
 幅が足りない掛布団、お腹の回りに隙間風。
 でも、顎剃り中しゃくりながら、
「何?」
 とか言ってる君の下目使いがまた男前過ぎて眩しいよ。好き。
 だからいつも剃刀代ちょうだいとか言えないんだ。
 その代わりといってはなんだが今日は君が僕に手料理を作ってくれるそうじゃないか。
 関心関心。
 そこはそれ、やっぱり良家の女子。手料理くらいはできるんだね。

 ドン!

「何、これ?」
「サームラーイラーイス!」
 米と水を炊飯器へ。スイッチポン。焚けたご飯に鰹節ファサッ。だけじゃないですか。
 しかも米、洗ったんですか? 
「脚気になるよ」 
「ピザより禅だ。食え、ブーちゃん」
 禅はむしろ動物性蛋白質のない……。
 3時間ほど右近とマヨネーズの争奪戦を繰り広げた末、僕は5合分のおかかご飯を食べつくした。なに、ちょろいもんさ。


 その後右近の気元が悪かったのは何も僕がおかかご飯をマヨ味で食べたからではない。
「俺の憎きイトコがこいつを奪取しようと狙っている」
 右近が僕の頬へポヤ~ンと例のなすび妖精をあてがった。
 この生温い感触、思い出すよ。ライブの時これが君の股間にあった……。
「聞けブーちゃん。こいつにはなんと凄い力があるんだ! だから俺はイトコなんかに絶対奪われたくないんだ!」
 す、あ、はい。凄いんだね。そうですか、はい。うん。
 僕は今、少し頭の中でおかしなビジョンを開きかけてましたよ。
 ほうほう、そうかい。なになに凄い力ですと。
「いいかブーちゃん、俺は断固イトコのムラサキ奪取を阻止し、立川さんのおっぱいを死守して見せる!」
 ……。
 何なの、またそのファンタジー。
 立川女史のおっぱいを死守って。
 そしてなすび妖精、それってムラサキっていうのね。
 初めて知ったよ。


 つづく
sage