Neetel Inside ニートノベル
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最低の君を忘れない
嘘と逃避

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 高校に入学してわずか一週間後、クラスの男子が私につけたあだ名は「オナ顔」だった。どうやら私の顔は男子から見ると、毎日夜な夜なオナニーをしているような顔らしい、ということを、そのあだ名を面白がった同じクラスの女子から聞いた。
 そういうことを言う男子にも、面白半分に私に話す女子にも嫌悪感を覚えたが、なぜかその女子とは高校生の間ずっと親友だった。その女子は、カナコという名前だった。

 カナコは強烈な女だった。小柄で色が白くとても痩せているせいで、後ろから見るとただの清楚な女子高生だったが、とても気が強い上にプライドが高く、卑屈でいつもけんか腰であったため、ほとんどのクラスメイトから嫌われており、またその性格の悪さが顔に出るのか、ひどく歪んだ顔をしていた。そんなカナコを珍しく特に邪険にすることのなかった私は、必然的に一日中カナコの話し相手になる羽目になった。
 はじめは私に話しかけてくれる優しいクラスメイトもいたが、いつも無理矢理話に割って入るカナコを嫌がったクラスメイトは私達二人をまとめて避けるようになり、二ヶ月後には私達に話しかけるクラスメイトは誰もいなかった。

 二年生になりクラス替えがあったが、私は幸か不幸かまたもやカナコと同じクラスになった。どうやら私とカナコの仲の良さは学年中に知れ渡っていたらしく、メンバーが変わってもクラス内での対応は一年生の時とあまり変わらなかった。
 レズ・カップルだと言われても特に気にならなかった。もともとあまり外交的なほうではなかったし、好きな男子もいなかったので、一人きりにさえならなければいいかなと思っていた。しかし二年生になってしばらくすると、クラスメイトの私達に対する考え方が変わってきているのを感じた。どうやら私達の関係は、カナコのとんでもない我侭に振り回されている人の良い私、というふうに思われているようだった。その頃から少しずつ、私が一人でいるわずかな時間を狙って、何人かのクラスメイトが話しかけてくれるようになった。私としては嬉しかったが、私が他のクラスメイトを会話しているところをカナコに見つかると、しばらくカナコの機嫌が理不尽なほど悪くなるので大変だった。

 二年生になってから半年ほど経ったある日、クラスメイトの男子から告白された。この高校で、唯一の同じ中学校からの出身者だったが、ほとんど会話をした覚えはなかった。
 簡単な告白だった。廊下を一人で歩いていると、後ろから声をかけられた。「ずっと好きでした」と、彼は言った。私は一瞬どういうことか理解ができなかったが、すぐに理解して「ごめんなさい」と言った。彼は何かを言おうとした様子で数秒間うつむいた後、何も言わずに走って行った。朝起きて歯を磨くくらい簡単な告白だった。


 それから十年の月日が流れた。私は五年前に外資系の会社に勤める四歳年上の男性と結婚し、二年前に子供も生まれた。カナコとは今でもたまに会う。
 学生時代を振り返ると、嘘と逃避の日々だったように思う。男の人を好きになって傷つくことを恐れるあまり、誰かを好きという感情を誤魔化し続け、極めて同性愛的な友情の中に逃避していることに、自分自身気づいていなかった。

 生まれて初めて私に好きだと言ってくれた彼は、今頃どこでどうしているのだろう?あの日彼が飲み込んだ言葉を、私はもう知ることはできない。そう思うと、少し悲しくなる。

       

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