Neetel Inside 文芸新都
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文芸クリスマス企画~あんち☆くりすます~
夢はうたかた余はサンタさん/岩倉キノコ

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 余はサンタさんだ。誰がなんと言おうとサンタさんだ。
 だってこの時期一番人気のお年寄りと言えばサンタさんしかいないんだもん。
 だから余こそがサンタさんなのだ。
 ああそうだ。そうなのだ。
 この赤い服だって、どこから見てもサンタさんの衣装にしか見えないし、白い髭だって説明はいらないはずだもん。
 だから余がサンタさんなのだ。よいか皆の者、覚えておけぇ~。
 それを証拠に余の功績をしかと見るがいい。
 町を行けば誰もが余を振り返る。女子高生やちびっ子が一緒に一枚と記念撮影を求めてやって来る。もの珍しく写メする者も少なくない。
 だからやっぱり、余は年に一度のスペシャルなこの日のために選ばれた宿命のお年寄りなのだ。
 いざ名乗らん余がサンタさんであるぞ~。押して参る。
 
 サンタさんの仕事は世にも過酷な重労働であると心得ている。タフでなくちゃならん。
 寒空の下、子供たちのお家へ一つ一つプレゼントを届けるのだからな。
自動車は無論使わない。トナカイが引く橇に乗るのだ。
橇は地面を滑走した後上空を飛ぶ。故に最低でも時速500kmぐらいのスピードは出るだろう。となれば空にいる時の寒さは半端じゃない。
 鼻水も凍れば手足がいうことを利かなくなるこだって必至。
 リウマチや冷え性などというお年寄り定番的疾患なんて可愛らしいもので、薬用養命酒はただの気休めカクテルでしかなくなる。
 おそらくその仕事の過酷さからサンタさんは何万年の時を経て懇ろに肉のついた体格へと進化したのだろう。うむ、そうに違いない。白亜紀以降その変化がうかがえる。
 で、あるならば尚のことサンタさん業はこの余が成すべきなのである。
 否、もとい余こそが現在サンタさんなのだから。
 余にはサンタさんとしてやっていけるだけの強靭な肉体がある。雨の日も風の日も、雪の日も毎日厳しい鍛錬で鍛え上げてきた強固な肉体が。
 普通のお年寄りが犯される疾患なんかに屈しないハイパーボディーが余にはある。
 だから皆の者、安心して待つがいい。眠るがいい。
 クリスマスには余が必ずサンタさんとしてそちたちの枕辺へ最高のプレゼントを届けて見せよう。
 ぬはははは。ぬはははははは。
 白銀の夜はこの手にあり~。

 さてそこでだ、余はこれから早速プレゼントを届けに行こうと思う。しかしこれがまたどうしてどうして脚がピクリとも動かない。
 常日頃より鍛えられているはずの我が身でなあるが、どうやら本格的な運動を要するとなると話は別らしい。
 けれどそんな悩み、橇に乗ってしまえばこっちのもの。トナカイたちが良しなにやってくれる手はずだ。何所へなりと余の足となって運んでくれるだろう。「毎度こんにちは」でお馴染みのMKタクシーのようにな。
 問題は余が今いる場所からどうやってトナカイと橇を手配しに行くか。
 少し前、心優しい若者たち四人が余の背を押し、手を引きここまで連れてきてくれた。が、そんな彼らもナンパした娘子たちと一緒に姿を消してしまって久しい。
 何処へ行ってしまったのだろう。ホテルは今夜、休憩一時間延長無料だと喜んでいたが。
 余も一緒に連れて行って欲しかった。
 しんしんと降りしきる雪の中、余はこれからどうしたら良いのだろう。
 サンタさんとしての才能を存分に発揮することなく、ただ手をこまねいて無駄に時を過ごし、この地で果てていくしかないのであろうか。
 折角今年もこの赤い服に袖を通したというのに……。 
 積年の本懐がようやく遂げられようとしているというのに!


「お、いたぞ! あそこだ」
 ぬぐっ。何たる不覚。またしてもやつらに見つかってしまったか。
 もはやこれまでか。
 サンタさんになる夢、今年も叶わぬか!
「まったく、しょうがない爺さんだな。それにしてもいったい誰がここまで手引きして来たのか」
「毎年この服を着せると必ず悪戯されるんですよね店長」
「うむ、早く連れ戻すぞ」
 たわけ。何が悪戯じゃ。
 あの四人の若者たちは通りすがりに少し余に加勢したまでだ。ま、ちっとばかしエッチな子らではあったが。
「重いっすね店長」
「文句言うな、がんばれ」
いや、だから前たち、止めるんだ。余を連れ戻すのは止めるんだ。
 余はもうクリスマスにおぬしらと仕事をするのはこりごりなのだ。止めてくれ。
 余を皆のところへ行かせてくれ。
 たまには余にも外回りの仕事をだな……云々かんぬん。
しがない年寄りの頼みじゃ、きいておくれってば。
「だめだ、二人だけだと重すぎる。トラックを呼べ」
「了解!」

 むむむ。いよいよこれまでか。かくなる上は最後の手段。
 この情報を世界に散らばる余の分身にリンクして皆で一挙同時に聖夜の突撃プレゼント配達作戦を実行するしかないようだ。
 余の体には実のところマイクロチップ型AI式コンピューターが内蔵されていて、そんなこといとも容易くできるはずなのだ。多分。おそらく。ん、自信はないが。
 とりあえずそんな話をどっかで見た。気がする。
 何か知らんがここは一つやってみるしかないのだ。
 という訳で、リンクいくぞ。
 そりゃっ!

 ――――――。

 ドンゴロリン!

 何も起こらんではないか!

「て、店長、爺さんこけました!」
「吹雪いてきたからな。とっとと撤収するぞバイト君!」
「ウs」

 余はこの瞬間またも例年どおり悟った。
 余はただフライドティキンを売るしか脳のない老いぼれ人形であるのだと。
 しかし余は決して諦めない。いつかきっと成し遂げてみせよう。
 町が白銀に染まる聖夜、そちたちの枕元をほかほかティキンで埋め尽くす偉業を。
 だってティキンは、ティキンは皆の好物のはずだもん。ね。
 余は負けぬぞ―――………。
 いつか、いつか!
 天下枕辺を油漲る我がティキンで治めん。
 待っていろよ~。
 
 
 老いぼれ人形を乗せたトラックは雪夜の街を走り出す。
 清し夜は今年も無常に更けていくのでした。



 おわり



 
 油っぽいけどいまいちアンチ性に欠けますかな。  岩倉キノコ(土下座なう!)

       

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