Neetel Inside ニートノベル
表紙

願うのはハーレムじゃなく純情だ!
第2話 結の依頼

見開き   最大化      

 ――突然の依頼。

 『人を殺して』

 あまりにも突飛した頼みごとに俺は言葉を失った。
 冗談かと思い、俺は一旦結の顔を確認するが、そこには真っ直ぐに、そして真摯に俺のことを見つめている二つの目があった。
 ――ありえない。そんな頼みごとを同級生にするなんて正気の沙汰とは思えない。それに、俺にしかできないと彼女は言ったが、一体どういう意味なのだろう。俺が殺人を軽々とこなしそうにでも見えたのだろうか。まぁ、何にせよこんな依頼は考えるまでもなく却下だ。
 俺は、一度咳払いをしたあと結の両眼を見つめた。そして、俺が口を開こうとすると、それを牽制するかの如く結が先に切り出した。
「ごめん。人を殺してって言うのは大袈裟な言い方だった。本当はそんな頼みごとじゃないよー。殺人は犯罪だもん。冗談冗談!」
 結は陽気な微笑を浮かべながら言ったが、その表情の奥にはなんとなく闇が潜んでいる様だった。
 俺は安堵の息を漏らしながら胸を撫で下ろした。
「冗談って……本気で驚いただろ。それに、目つきがマジだったし」
「…………。だってマジだもん」
 少しの沈黙を経たあと、結はニコニコとした笑顔を消し、無表情でそう言った。
 俺は恐怖を覚えた。『だってマジだもん』という言葉と、また彼女自身に。
 その言葉だけでなく、眼が語っているようだった。本当に殺したいくらい憎い人物が存在するということを。だが、これは完全に俺の憶測だ。本当に冗談なのかもしれない。
「マジってどういうことだよ?」
「…………」
 俺が問うと、結は口を閉ざしてしまった。
 二、三秒だろうか。沈黙が続く。たったそれだけの時間でさえも、今は果てしなく長く感じてしまう。この不自然な“間”が、先ほどの俺の憶測が事実だということを暗示させた。
 そして、やっと結が沈黙を破って口を切った。
「あたしには、死ぬほど憎いと思ってる人がいる……。もし、殺人が罪じゃなかったら、あたしはその人を殺してると思う。それくらい憎い」
 結の第一印象からは予想もできない発言だった。
 ただ、俺はそれよりも結の冷酷な目つきが怖い。
 第一印象であった、『どこか抜けていて、陽気で明るい人柄』というのは俺の勝手な偏見で、本当の彼女は残酷で冷酷なのだろうか。……いや、そうじゃない。これが結の本性なわけではないはずだ。その特定の人物に抱く、憎悪の感情が一時的に彼女を蝕んで、冷酷で狡猾な人間のように見せているのだろう。
「そうか……。じゃあ本当の頼みごとってもしかして、その人を殺さない程度にボコボコにしろ、とか?」
 俺が恐る恐るそう問いかけると、結は何も言わず首を横に振った。どうやら違うらしい。じゃあなんだ? 肉体的にボコボコじゃなくて、精神的にボコボコにしろってことなのか……?
「じゃあ、頼みごとって何だ?」
 俺は頭を掻き毟りながら首を斜めに傾げた。
 結は、俺の両目をしっかりと見つめながら言った。
「……その人を、どうにしかしてほしいわけじゃない。話がしたい」
 話……? 死ぬほど憎くて、ヘタしたら殺しかねない奴と話すことなんてあるのか?」
「色々聞きたい」
 結は思い詰めた顔でそう答えた。
 俺には理解しがたい行為だ。憎い存在と話をしてもさらに恨めしくなるだけだと思うから。 
「……俺は結城にどんなことがあったのかも知らないし、いまどういう状況なのかも分からない。だから偉そうなことは言えないけどさ、そうしたらもっとその人のことが憎くなるだけだと思う」
「うん。でも、それでも聞かないといけないんだ。絶対に。これはあたしだけの問題じゃないから」
 結は迷うことなくそう言うと、さらに続けた。
「だから、雄一郎君にその人と話す機会を作って欲しい。これは、雄一郎君にしかできないから。お願い」
「お、おう。わかった……」
 俺にしかできないというのはよく分からなかったが、俺は結の勢いに押されて依頼の承諾をした。
 まぁとにかく、結には色々問題があって、それを解決に導くには“その人物”と話をするのが一番手っ取り早いということだろう。
「じゃあ今日は帰るから、また学校でねー!」
 結はニコリと微笑むと、俺に向かって軽く手を振った。
 切り替えの早い結に、俺は少々戸惑ったがなんとか手を振り返すことができた。そして、俺と結はそれぞれの帰路についた。

           ☆

 翌日の昼休み。
 俺は特に駄弁る友人がいるわけでもなく、昼食もすませてしまったので自分の席につき、右腕で頬杖をつきながら窓越しの景色を遠望していた。雲ひとつない快晴だ。見ていて心地が良い。
 俺が暇そうにボンヤリと窓の方に目を向けていると、足音が近づいてきた。足音が聞こえる方向に首を回すと、結の姿があった。依頼の話をしにきたのだろうか。
「やっほー雄一郎君!」
 暢気な声で俺に駆け寄ってくる結の態度からは、昨日の姿など想像もできないだろう。
「おう、結城。どうした?」
「昨日の頼みごとの話なんだけどさ」
 やはり依頼の話か。あの話は重っ苦しいのであまりしたくないのだが。でも、引き受けてしまったものは仕方がない。
 俺は渋々応答する。
「なんだ?」
「同じクラスの蔵崎って人ね。その人を放課後屋上まで呼んどいてー」
「わかった。でもさ、それなら自分でもできるだろ? 何で俺にしかできないんだ?」
「それは、あたしが話しかけても取り合ってくれないから。あの人はあたしから逃げてる」
 結は悩ましげな表情を浮かべたが、それだけの理由なら別に俺である必要はないはずだ。
「なるほど。でも、それだけなら俺以外にも人はいると思うぞ?」
 俺がそう言うと、結は何も言わず、俺の顔を見つめながら首肯した。
「確かにそうだね。でも、杉坂誠と仲が良かった人の方が頼みやすいから」
 聞き覚えのある名前に俺は目を見開き、不意に顎から手を離した。……誠。幼馴染の杉坂誠だ。理沙の兄でもある。
「ってことは、誠に関係のあることなのか……!?」
 俺が咄嗟にそう問うと、結は黙って頷いた。
 誠に関係のあること……?
 結は俺の顔をチラリと見たあと、こう言った。
「杉坂誠が死んだのは知ってるよね?」
 『杉坂誠が死んだ』。結はさらりと口にしたが、そんなことは今の今まで知らなかった。俺は一瞬、理沙の席に視線をずらし、すぐに戻した。そして少しの間、動揺を隠せずにいた。小学生の頃以来一度も会ってはいない幼馴染とはいえ、自分に関係のある人が死んだという事実を知らされたのだから。しかし、不思議と悲しみや絶望といった感情はわかない。きっと、“思い出の中の人物”として割り切れてしまっているのだろう。
 俺はしばらく戸惑った。
「マジかよ……。全然知らなかった」
「……そっか。じゃあ、簡単に話すね」
 結は思い詰めた表情を浮かべながらそういうと、少し躊躇いながらも話を進めた。
「えっとね。杉坂誠は去年の夏に死んだんだ」
 結は辛そうな顔で言ったあと、唇を噛みしめた。
 そして、さらに話を続けた。
「中学生の時、あたしと理沙と誠と蔵崎は超がつくほど仲がよくて……毎日のように遊んだり駄弁ったりしてた。でも、誠が死んだ次の日の告白であたしと理沙は蔵崎との縁を切ったんだ……」
「次の日の告白……?」
「うん。誠の死因は事故だったんだ。でも、誠が死んだ次の日に、蔵崎は言った……」
「なんて?」
 俺がそう問うと、結は少し躊躇いを見せた。きっと誠の話をするのが苦痛なのだろう。
 俺は結が切り出すまで、黙って待った。
 あいかわらず結の顔は曇っていて、ぐっと堪える様にして下唇を前歯でかみ締めている。視線は地面に向いていた。
 それから数秒経ったあとに、結がやっと口を切った。
「蔵端は『本当は俺が殺したんだ』言ってた。そう言うだけでも許せなかったのに、あの人はヘラヘラと笑いながら言った……。それからあたし達は蔵崎とは絶縁した」
「…………」
 俺は言葉を失った。
 結の両目の端には涙がうっすらと見える。――なんとなく、なんとなくだけど、俺が何かを言える雰囲気ではなかった。結がこんな深刻な状況におかれているとは思わなかった。俺は利いた風な口でものを言ってしまったことを、いまさらになって俺は後悔した。そして、同時に理沙の前で誠の名前を発したことも後悔した。
「あたしはさ、誠のことが好きだったんだ。だから余計に辛くて……だ……からぁ……」
 そう言いかけると、結の頬に雫が伝った。そして次から次へと涙の雫が頬を伝い、流れ落ちていく。
 俺は、そんな結の泣き顔をただ呆然と見ていることしか出来なかった。そして、俺は咄嗟に頭の中から数少ない言葉を拾い上げ、必死にそれらを繋げる。
「もう話さなくてもいい。それ以上はキツいだろ。依頼はちゃんと遂行するからな……」
 そういいながら俺は、無意識のうちに結の頭の上に片手を乗せていた。
「……ご……めん。泣いたり……して……」
 結は震える声を絞った。
 今の俺には理解しがたい感情だった。だが、自分の愛した人間が死去してしまうと言うのは尋常ではないほどの悲しみなのだろう……。

 ――守ってあげたい。助けてあげたい。

 結の泣き顔や、必死に声を振り絞る姿を見て、俺はそう思った。純粋に、そう思ったのだ。
 そして、俺の身体は考えるよりも先に動いた。気づけば立ち上がり、結のことを抱擁していた。心意気なんてどうでもよかった。理沙一筋とか、理沙以外の女子とは一切かかわりを持たない、などというのはもはや無意味だった。――完全に衝動だった。本能だった。
「気にすんな。辛いんだからしょうがない」
 俺はそれだけ言って結のことを慰撫することしかできなかった。何も言葉が見つからなかったのだ。
 しばらく結を抱擁した後、その両手をを解き、俺は言った。
「じゃあ、結城の頼みごと、やってくる」
 そして、俺は回れ右をし、教室の出口である引き戸へと足を運んだ。そのまま戸の下をくぐり、教室をあとにして、廊下へと出た。
 廊下には昼食を終えて暇をもてあます生徒たちが盛りだくさんで、その場にとどまっている生徒のほかにも、廊下を移動する生徒がわらわらといた。道幅が狭いのが唯一の救いだが、そんな中から、蔵崎という生徒を探すのは容易ではない。
 俺はキョロキョロと廊下を見渡しながら、生徒の胸の部分に引っ付いている札を一つ一つ目で確認していく。そんな俺を見て不審がる人間も多くいたが、今はそんなこと気にしている場合じゃない。依頼の遂行が最優先だ。 
 
 しばらく血眼で生徒達を見ていると、俺の視界に『蔵崎』の名前が入り込む。俺はすぐさま人ごみを掻き分け、その名前を胸につけている生徒の下へ駆け寄った。
 ツンツンとした茶色がかった髪が特徴の、細身で筋肉質な体つきをした男子生徒だった。
「蔵崎君!!」
 見覚えのない生徒から突然話かけられて戸惑っているのか、蔵崎は釈然としない顔つきをしている。だが、そんなことは気にしてられない。なぜなら、もうすぐ休み時間が終わってしまうから。
「何?」
「放課後、屋上にこれるか? 少し話があるんだ」
 俺がそう言うと、蔵崎はあからさまに引きつった表情を浮かべながら、どぎまぎしている。
 ――俺の言い方が悪かったのだろうか……。きっと同性愛的な意味で捉えられてしまったのだろう。だが安心してほしい、俺は断じて男を愛したりはしないから。
「話……?」
「そ、そう話……。重要な話なんだ。だから頼むからきてくれ」
 俺はそう言ったあと、頭を下げながら、両手を重ね、それを頭の前に持ってきた。――が、そこで俺は間違いに気づいた。
 これじゃあもっと変態みたいじゃねぇか、と。
 このままでは、どんどん勘違いがひどくなってしまう! 早いうちに切り上げたほうが無難だ!!
「とにかくきてくれ!! 別に変な話はしない!」
 と、俺は半ば、無理やりごまかし、迅速な足取りで教室に戻った……。あえて後ろは振り向かなかった。苦笑している蔵崎が頭に浮かんだから。

           ☆

 放課後、校舎の屋上。生暖かい風がフェンスの網目の間から吹き込み、温かい太陽の光がコンクリートを照らしつける。
 屋上は、緑色のフェンスに囲まれた硬く無機質なコンクリートの上に、俺と理沙と結、そして蔵崎という生徒がいるだけで他は殺風景だ。
 オレンジ色のスポットライトの下に佇む四人の生徒の面持ちは真剣で、どこか悩ましげだった。
 しばしの沈黙。
 始めに痺れを切らしたのは蔵崎だった。
「やっぱり結、お前の差し金だったのかよ……」
 呆れたような口調でそう言う。
「そうだよ。いっつもあたしから逃げるでしょ。だから雄一郎君に協力してもらった。誠の事、ちゃんと話してよ」
 神妙な面構えで結は言った。
「だからさ、俺が殺したって言ってんじゃん? それでいいだろ?」
「……なんで、なんでそんな軽々しく言えるの!? 蔵崎と誠は親友だったのに!!」
 蔵崎の軽率な発言に、結が激昂する。
 俺はそれをただ黙ってみているだけ。理沙も同じくだ。
 大体、なんで俺がこの場にいるのかがわからない。こんな殺伐とした空気はきつ過ぎる。俺の役目は、蔵崎を呼び出した時点で終わってるはずなのに。まぁ、誠の元親友だったわけだし、しょうがないといえばしょうがないけど。
「軽々しく言って何が悪いの? 俺が憎ければ憎んでればいいじゃん。恨んで、殺したくなったら殺せばいいんじゃない?」
 結は歯を食いしばった。必死に感情を押さえつけた。
 ――殺したい。憎い。
 憎悪の感情を必死に抑えた。
「……じゃあ、なんで殺したの……?」
「うざかったから。それだけ」
 蔵崎は表情を一切変えずに答えるが、それで諦める結ではなかった。
「嘘でしょ」
「嘘じゃねぇよ」
「本当のこと言ってよ」
「嘘じゃねぇって。だから、本当にうざかったから殺し――」
「本当のこと言ってってば!! そんな嘘聞きたくないから!!」
 結は蔵崎の言葉を遮断し、声を張り上げた。感情が抑えきれず、溢れ出てしまっているのだ。
「私にも教えて……。本当の理由……」
 いままで俺と一緒に口を閉ざしていた理沙がここで始めて発話した。理沙の表情も、実に神妙で真剣だ。
 二人に凄まれて、観念したのか蔵崎は嘆息を漏らした。そして、理沙と結を瞥見したあとに腰に両手をやり、口を開いた。
「じゃあ、後悔するなよ? 本当のことを言うから」
 理沙と結は深く頷いた。
 しばらくの間、蔵崎は視線を落とした。そして、切り出した。
「実は、俺が殺したというのは嘘。完全にあれは事故だった。でも、なんで『俺が殺した』って言ったのか……。わかる? 二人とも」
 理沙と結は首を横に振る。その様子を見て、蔵崎は、さらに嘆息を漏らした。そして、頭を掻き毟りながら言葉を続ける。

「……お前らのため」

 蔵崎の言葉に、結がすぐさま反応を示した。
「意味がわかんないよ……」
「わかんないの? じゃあさ、俺がもし“そう”言わなかったら? もしお前らの悲しみや憎しみをぶつける相手がいなかったらどう? お前らはもっと辛いだろ。やり場のない気持ちがどんどん溜まっていくだろ。俺はお前らにそうなってほしくなかったんだよ。……俺だって辛かったよ……」
 それだけ言うと、蔵崎は俯いてしまった。
 理沙も結も、納得がいったのか、それとも最初から薄々気づいていたのか、黙り込んでしまった。
 そして、蔵崎は顔を上げ、深く息を吸い込むと、「でも」と続けた。
「お前らのためにならなかったなら俺はあやまる。不謹慎な発言にどうしても許せなくて、全然納得いかなくて、俺のことがまだ憎いなら、俺はそれを受け止める」
 蔵崎は、真顔な面構えでそう言った。
 すると、しばらくの間、静寂が屋上を飲み込む。この場にいる誰もが口を閉ざしていた。
 そして、結が沈黙破った。
「……そう言ってくれるのを待ってた」
「え?」
「あたしは、蔵崎のことを恨んでたし憎んでたよ。でも、やっぱり本心ではそういってほしかった。だって、あたし達親友でしょ……」
 結の意外な言葉に、蔵崎は動揺しているようだった。完全に許してはもらえないと思ったのだろう。
 蔵崎はニコリと微笑を浮かべたが、すぐに真顔に戻って、こう言った。
「でも……、お前らこれじゃあ辛いだろ。誠のこと完全に忘れられるのか……?」
 不安げに言う蔵崎の姿を見つめながら、理沙が口を開く。
「忘れなくてもいいと思うよ。私は、まこちゃんの妹だし家族だからかもしれないけど、まこちゃんのこと忘れたくないんだ……」
「……あたしもそう思うよ、理沙。だって、忘れちゃったら誠との思い出も忘れるみたいでいやだもん。だから、忘れないでいよう……」
 結はそういいつつも、辛そうな表情を浮かべた。理沙も同じように、なんだかモヤモヤとしていて、冴えないような、辛気な顔つきだった。
 蔵崎は、そんな二人の面持ちを瞥見した。
「でもさ……お前ら、そうはいっても辛いだろ?」
 蔵崎はそう言うと、二人にゆっくりと近づいてしゃがむと、二人の肩に手を置きながら言葉を続けた。
「無理はすんなよ。辛かったら泣いたほうがいいと思うぜ、俺は。絶対そのほうが楽だと思う」
 蔵崎は優しく微笑み、理沙と結の二人を抱き寄せた。
 その直後、二人の頬を、熱い雫が伝った。ポロポロと小さな雫が、二人の顔を伝って行く。
 理沙の眼からも、結の眼からも、涙が溢れ出てきていた。二人とも頬を赤く染めながら、眼から零れ落ちた、数え切れない程の涙を両腕の袖で拭った。二人がいままで我慢してきた、すべての感情がこもっているかのように、雫は、二人の瞳から雨のように流れ出た。そして、二人の心からは、口ではどうにも説明のつかない感情が溢れ出てきた。その感情は、自分ではどうにも止められないものだった……。
「まこちゃぁぁん……」
「まこ……とぉ……」
 二人とも、誠の名前を呼びながら、慟哭し続けた。
 俺は、二人のそんな姿を見て、胸が締め付けられるような感情に襲われた。そっと胸を手で押さえたが、おさまらない……。同時に、他人のことでこんなに感情的になれる二人が、とても羨ましく思えた。そして、幼馴染の誠の死に、慈悲を一切示さなかった自分に腹が立った。

 二人は、何度も何度も『杉坂誠』の名を呼んだ……。

 ――結の依頼は幕を閉じた。

       

表紙

雅カイト 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha