Neetel Inside ニートノベル
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もみてぃっく
S06-1 欠落した真実

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 ナオが男と一緒に歩いている所を見た翌日。
 俺はニシヤマにミヤノを部室に呼び出してもらい、昨日から考えていたことをミヤノに伝えた。
「なぁ……ミヤノ」
「なによ。人のこと呼び出しておいて、さっきからそればっかりじゃない」
「……いや……その言いづらくてな」
「言い辛いこと? まさかあんた、あたしに告白とかそういうのじゃない――」
「断じて違う」
 さすがの俺でもレズビアン相手に恋心を抱くほど、変な思考は持っていない。まぁ? 異様なまで魅力的なミヤノの胸には興味津々だが。
「じゃあ、なによ?」
 とじとーっとした目で俺の顔を睨みつけるミヤノ。
「だから……その……なぁ……ミヤノ?」
「だから……その、なんだって言うのよ!」
「……カルシウム足りないのか?」
「違うわよ、三十分以上そんなウダウダされてたら、イラつくでしょ普通」
「……分かったよ」
 わざとらしく天井を見て。
「そのだな……ある人の、身辺調査をして欲しいんだが……」
「……え?」
 とミヤノ。
「……えっ?」
 と本を読むのを止め驚くニシヤマ。
「身辺調査ってなに、え? 意味が分からないんだけど……?」
「その、探偵的な、ほら、ミヤノ、お前が俺にしたみたいなことを、俺じゃなくて別の人を対象にしてやってもらいたいのだが」
「……だから、なんであたしがやらないといけないの?」
「いや、そういうの得意なのかなと……思ってただな。も、もちろん! それなりのお返しはするぞ?」
 イマイチ、話を理解しきれてないミヤノが。
「第一、あれはその場のノリでやっただけであって、あんなストーカー行為したのは、あれが生まれてはじめてのことだし」
「え、なに。俺の幼馴染にまで話を聞いた挙句、あれが初めての身辺調査だったとかいう訳?」
「そうだけど?」
 どんだけ行動力があるんだよ、こいつ……。
「ま、まぁいい……そのー……だな……それを見込んで、その身辺調査を」
 うだる俺を分かつように、イラつきながらミヤノが割り込んできた。
「だから! もう、めんどくさいなああ! 誰をその調べて欲しいっていうのよ!」
「……俺の幼馴染のナオをだな……」
 はぁ!? と大声を出すミヤノ。
 持っていた本を落とすニシヤマ。
「いやいやいや、意味が分からないから。なんであんたの幼馴染、しかも他校の生徒の身辺調査をしないと行けないわけよ!?」
 このまま黙っていてもいいことは無い。ミヤノが少しでも話に興味を持っている内に離してしまうべきだ。と言う結論に至った俺は、昨日のことを事細かくミヤノに説明した。
 一人で地元の駅前を歩いていたら男連れのナオに会った。そのまま尾行しようかと思ったが、足が進まず、何も出来なかったと。
「……は、はぁ……」
「どう思う、ミヤノ?」
「何が?」
「その相手、男がナオの彼氏だと思うか?」
「普通に考えればそうでしょうね」
「……ニシヤマはどう思う?」
 と視線をミヤノからニシヤマに写す。
「……その……多分……そうなんじゃ……?」
「いやいやいや!」
 俺は何かをごまかすかのように両手を振り回して。
「彼氏がいたら俺と二人っきりとかにならなくね? 一緒に帰ったりしなくね? ね!?」
「いやー別に、幼馴染ってか、古馴染みになら普通そのくらいするんじゃない? まぁ、その彼氏がどんな人かにもよると思うけど」
「……ニシヤマ! お前もそう思うか?」
「……うん」
「そう……か」
 何かが切れる。ぷっつりと切れるということは、こういうことを示すのかと言うくらい、全身に力が入らない。
「それよりさ」
 頬杖をしながらじとーっとした目で俺を見つめながらミヤノは言った。
「なんでそんなに落胆してるの?」
「……分からない。自分でも分からないから――そのお願いをしてるんだ。本当にあれがあいつの彼氏なのかどうかをしりたくて……」
 はぁ。と吐息を漏らし。ミヤノが。
「分かった。分かった。でも、これくらいは払ってもらうからね?」
「五千円……でいいのか?」
 肩指を全て上げるミヤノ。五千円か。思っていたよりもずいぶん安いなぁ。と思っていると。
「違うわよ、五万。五万よ」



 二週間時間を頂戴。と言い残し、ミヤノは部室から消えていった。
 もちろん、俺の知っているナオの情報――と言っても教えられるようなことだけをミヤノには教えた。
 ミヤノはこうも言っていた。
「二週間の間に、あんたに取って、そのナオって子がなんなのかきっちりと考えなさい」
 と。
 俺にとってナオとはなんなのか。それは今まで考えたことのない事柄だった。
 ただの幼馴染。でも、ただの幼馴染なのに、なんで俺はこんなモヤモヤした気持ちになっているのだ? 好きと言う言葉で片付けてしまうのは簡単だ。でも、そんな簡単に片付けてしまっていいのか?
 ――分からない。
 そんなことを思いながら、レシピ通りに料理を作る。
「……大丈夫、ナギサくん?」
 いつの間にか俺の後ろに立っていたサヤさんが心配そうに俺に声をかけてきたので。
「大丈夫……です。はい」
「本当に? 顔色すごく悪いけど……」
「生まれつきなので心配しないでください」
 我ながら失礼なことを言っていると思う。でも、今はなんか、そういう気分じゃぁない。
 二週間と言う短いようで長いこの期間中に答えを出さなければならない。
「そ、そう……? 本当に今日はごめんね……キッチンさんも休みでナギサくんに余計に負担をかけるようなことになっちゃって……」
「……大丈夫です」
 姉がいたらこんな感じなのだろうか。羨ましいなあ。と思いながら手を進めていると。
「私にもね、弟が居るの。ナギサくんより一つ年が下なんだけど……今の旦那さんと駆け落ちした時以来会ってないから……もう随分会ってないんだけどね……」
「弟さんがいたんですか?」
「うん!」
 サヤさんは満面の笑で。
「タカシって言う名前なんだけどね。パンチラが好きで好きでしょうがない変な弟なんだけど。でもね、私にとってはただ一人の弟で……。なんか、ナギサくんに少し似てるっていうか」
「俺にですか?」
「うん。顔とかそういうのじゃなくて、雰囲気がね」
 サヤさんは言葉通りお姉ちゃんだったのか。そう思いながらサヤさんの顔を見ると、いつもの優しいサヤさんとも怖いサヤさんとも違う、姉としてのサヤさんが少しだけ見れた気がした。
「そうなんですか……」
「さすがにパンチラを見せるわけにはいないけど、相談乗ったり励ましてあげることくらいならできるから……その言いたくなったら、その悩み事、私に相談してね?」
「……はい」
「じゃぁ、私、休憩終わるからホールの方に戻るね!」
 と言い残し、サヤさんはキッチンから出ていった。
 二週間。俺はこの間にどんな答えをひねり出すのか。そんなことを思いつつ、手元にあるお客様用に作っていたケーキを手に取り、むしゃぶりついた。
「……うめえ……でも、注文の品どうしよう」
 独り言、そして一人ケーキほど切ないものはないと知った日だった。

       

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