Neetel Inside ニートノベル
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もみてぃっく
S01-3 対価を知る

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「タカオカさん、はいこれ」
 とクールに数学のノートを渡す俺。
「はい。ありがと! ちゃんと先生に渡しておくから安心してね?」
 タカオカさんは数学係だ。
 クラス全員分のノートを教員室に持っていくのが面倒だったのか、数学担当の教師が授業終わりにそういった時は、天にも昇る気持ちだった。
「ねぇ、タカオカさん」
「どうしたのー? ナギサくん」
「メアド、交換しない?」
 とポケットから携帯を取り出しながら言う俺。
 こんな事でもないとさり気なく聞ける自信な――カッコイイ。ヤバイくらいにカッコイイ! と自分で思ってないとやってられ――違うな。俺はイケメンなのだよ! と自分に言い聞かせる。
「うん、いいよー」
 拒否られたらどうしようと、内心考えたいたのだが、とりあえず良かった。
「あれー携帯、けいたいくーん……」
 とブレザーのポケットを触りまくり、ようやく見つけたのかポケットから携帯を取り出そうとして、手が滑ったのか、床に携帯を落としてしまった、タカオカさんを背に「天然萌え」なんて不届きな考えをしている俺は、なんてイケメンじゃないんだろう。
 俺は、そんなことを思いつつ、タカオカさんが落としてした携帯をさり気なく拾って、タカオカさんに渡してあげると。
「ありがとう!」
 とチワワのように目をウルウルさせ、俺に感謝してくれたタカオカさん。
 ヘタをスレば一発で恋をしてしまいそうな、そんな錯覚に襲われるが、が、俺は知っている。この間女子トイレで叫んでいたあれがタカオカさんの本性だったとしたら、こういう行為は全て計算の上でしてることだと。
「じゃあ、俺が送るから赤外線受信モードにしといて?」
 と心の中の不満を隠しながら俺は携帯を差し出して言った。
「はいー」
 お互いの携帯を向かい合わせて、まず先に俺の連絡先を送る。
「うん。登録出来たー。じゃぁ、次は私がおくるね」
 今度はタカオカさんの連絡先が俺の携帯に送られてきた。
「改めてよろしくね、ナギサくん」
「うん。よろしく。タカオカさん」



 今、俺は、このクラスのどの生徒よりもタカオカさんのことを知っているという優越感を持っている。
 あの不良女三人も知らないであろう、タカオカさんの本性を知っているのは、多分、俺だけだ。
 この間録音したあの罵声を利用して胸を触るっていう手もあるが、それはやりたくない。やっぱり正攻法に行こう。……どうせなら、落とす間際で揉むのが一番だろう。
 そういうわけで、携帯の連絡先を交換してから、俺はできるだけタカオカさんに接触することにした。
 暇を持て余しているタカオカさんを発見しては、声をかけたり。
 慣れてきたら一緒に昼食を食べたり。
 少しづつだが、確実に。そうやってタカオカさんの心の中に侵入していったある日の放課後、教室で二人で他愛もない話をしていると、タカオカさんが何かに怯えるように俺を見ながら。
「……ねぇ、ナギサくん」
「ん? どうしたの、そんな暗い顔して」
「あのね……私ね、虐められてるの」
 俺は「キター!」と言いたい所を我慢して。
「……本当に?」
「うん……あのクラスの中に居る不良女子三人、知ってるでしょ?」
 知ってるも何も、俺はこの間、その現場を目撃――違うな、耳撃? してしまったしな。
「……うん」
「私ね、あの三人に虐められてる……」
「そうだったんだ……」
 こういう時、なんて声を掛けていいのか全くわからん。
 素直に「あ、俺知ってるよ! タカオカさんが虐められてるの!」と言って反感買うのも嫌だしなあ……。
「それでね……ナギサくん」
 タカオカさんはうつむきながら。
「あの三人を……その……大人しくさせたいというか……なんというか……」
 あー、なるほどね。一応男である俺を利用して、あの三人を黙らせたいって魂胆なんですね。
「……どうやってやるの?」
「今日ね、この後、あの三人に体育館裏に呼び出しくらってるの。それでね……その現場の写真と言うか、動画を撮ってもらいたいんだけど……」
「助けに行かないでいいの?」
「あー……それは大丈夫かな? 大丈夫」
 何かを考えながらそれを言うタカオカさん。
 こりゃー……なんか……嫌な予感がする……。

「呼びつけ守るとか偉いじゃん。マジえらいねぇ」
 とタカオカさんの頭を撫で回すミカンとかいう、不良女の中心的な人物。
 タカオカさんより頭ひとつ大きいミカンとかいう女は、そんな不良なんてやってないでモデルでもやってたほうが儲かるんじゃね? と思ってしまうくらいにスラリとした体型をしているが、残念ながら胸はほとんど無い。俗に言うペッタンコだ。
「えらいよー、マジ偉い!」
「わたしもビックリー」
 とミカンに続き、タカオカさんを弄る取り巻き二人。
 こいつらは良くも悪くも不良女と言う所で、なんかもういいかなって感じの女子だ。
 俺はタカオカさんが持ってきたデジカメで、その場を録画することしか、タカオカさんに求められていないので、物陰からレンズを四人の方に向ける。
「っていうかさ、イケメンがあんたに告白したって聞いたんだけどさ! どーなってんの?」
 とミカン。
 タカオカさんは、そんなミカンの顔を睨みつけるだけで何も言わない。
「なんかいえっつーの」
 ミカンは怒りと共に、タカオカさんの腹をける。つま先がみぞおちに入ったのか、嗚咽を起こすタカオカさん。
「マジぶざまじゃね?」
「超かっこわりー。うちだったらやり返してるわ」
 とはしゃぎ回る、ミカンの取り巻き二人。
 俺は物言わぬ木と同化するようにカメラのレンズをあの四人に向けることしかできない。というか、それ意外やりたくない。俺の体型からして、ミカンに勝てるとは思えないし。そもそも、あの取り巻きも、なんだかんだ言って男より強そうだし……。
 いやね、決して俺がチキンハートの持ち主ってわけじゃないんですよ! 手が震えて動画がブレまくっていたとしても、それはただたんに武者震いってやつでですね……。銀河的イケメンの俺がびびるわけねーじゃん? み、みたいなー……。
「っつーか、イケメンがさ、あんたにこっ酷くフラれてって、アタシのとこに泣きついてきたんだけど……どういうことなの?」
 と悔しいのか、それとも、こんな事言っている自分が恥ずかしいのか顔を真っ赤にしてミカンは言った。
 そんなミカンを見てフッと鼻で笑うタカオカさん。
 女ってマジ怖いんだけどっていうか、なんというか、イケメン君もイケメン君でなに考えてるかわからないと言うか。というか、あだ名がイケメン君っていろんな意味で可哀想な奴だな、そいつ。
「なんかいえよ!」
 と再びタカオカさんの腹に蹴りを入れるミカン。
 女の子のお腹は殴ったら駄目だと、父にしごかれるように教育された俺は、正直激怒していた。でもビビッて――違う、タカオカさんに出てこないでと言われたからこうやってカメラを構えて……。あああ、もう!
 これ以上タカオカさんが蹴られている所を見るものシャクに来るので、俺は一つ演技をうつことにした。
「せんせぇえええ! こっちです、こっちからなんか変な声聞こえてきますぅうう!」
「なんだとぉ!? どこだぁあああ?」
 と声を太くして先生の真似をする俺。これじゃダメだろうと自分でも分かったたけど、分かってるけどな!
 その声が聞こえたのか、不良女達は「やべぇ。センコーだ」と驚いた声を出し、逆側から逃げていった。
 不良女がいなくなったのを確認して、俺はタカオカさんに近づいた。
「大丈夫……?」
「たすけてくれて……ありがとう……」
 息が上がっているタカオカさん。これはちょっとヤバイんじゃないか?
「保健室……行こう?」
「ダメ……それよりも……動画の方……ちゃんと……撮れてる?」
「うん。でも少しブレてるかもしれないけど」
「……そう……ならいいの……。ちょっと横になりたいから……そこのコンクリートのところまで連れていってくれない?」
「うん……」
 初めて触れる女の子の体は柔らかく良い匂いがした。



 それは突然のことだった。
 あの呼び出しがあった放課後から三日後の帰りのホームルーム中に、タカオカさんは先生がまだ話しているというのに、唐突に手を上げた。
「どうした、タカオカ?」
 と動揺する先生。
 タカオカさんは立ち上がって。
「今日は皆さんに見てもらいたいモノがあります」
 ざわつくクラスを背に、教壇まで行き、ブレザーのポケットからカメラを取り出して、音量マックスで動画を再生し始めるタカオカさん。
 そこには、この間俺が撮った動画が移されていた。編集したのか、動画はところどころ断片的になっていたけど、大体はノーカット、あの時、俺が撮った動画のままだった。
「私はこの三人に虐められています。この三人にです」
 先生は突然のことでどうすればいいのか分からなくなっている様子で、不良女三人に至っては、口をパクパクして鯉みたいな顔になってるし、クラスメイトの連中は、どこに視線を向けていいのか困ってるし。
「先生、こういう場合、どうすればいいんですか?」
 普段とは違う、ハキハキするタカオカさんを見て誰もが慌てていた。
「……この場合はだな……えっと……だな……とりあえっずっとちらえっず、関係者四人は、放課後……生徒指導室に来るように……?」



 その後、あの四人プラス何人かの先生で何かを話したようだが、何を話したかなどというのは、俺の知るところじゃない。
 とりあえず、タカオカさんを虐めていた三人は退学――にはならずに、停学になったようだが、停学期間が終わっても、未だにあの三人は学校に来ていない。
「ナギサくん。ありがとう」
「いやいや……俺、なんにもしてなかったし……」
 あの一件からそれなりに俺とタカオカさんは親密になった――と思いたい。
「あのね……この間のお礼といっちゃあれだけど……一つだけ、一つだけ、お礼でなんかしてあげ……る」
 あー、猫かぶってるなこれ。分かるよー、俺には分かっちゃうよぉ。……ん? お礼? なんかしてくれる? おおっと、これは!?
「えっと……それじゃぁ……」
 俺は、椅子から立ち上がり、目の前に居るタカオカさんの横に立って。
「いただきまぁあああああああす!」
 と言う掛け声と共に、タカオカさんの胸――おっぱい――へと両手を加速させた。
 ブラジャー越しに伝わるその柔らかな感覚、そして中央にある突起物のような感触。これが、これが胸おっぱいなのかぁああああああおれの両手がいっぱいぽいぁいいあいい!!
 一モミ、二モミ、そうやって揉めば揉むほどその柔らかな感触を俺の手は受信しては脳が興奮して……ん? 興奮? 待てよ、これは違う。
 確かにおっぱいを揉んでいる感はある。あるが、俺が触りたいのはこういうのじゃない。もう少し柔らかながらもコシのあるおっぱいが触りたいんだよ。俺が触りたいのは、ただたんにぷるんぷるんしてる乳じゃねぇんだよ!!
 俺は、そんな怒りに似た感情と孕みつつ、タカオカさんの胸から両手を離す。
「……俺の願いはこれさ」
 と言いながら前髪を右手ではらう。
 タカオカさんは、唖然としながら俺の顔を見て言った。
「ってめぇえええええここは告白的なムードだろぉおおよおぉおおおおおおお!」
 一瞬、目を話した隙に押し倒され、その俺の上に馬乗り状態で乗りかかり、今までのストレスを発散するように俺の顔をおおふくビンタをするタカオカさん。
「な、な、な、なにしてくれてんだよおぉおおおお! しかもきゅ、きゅうに!」
 もう周りにバレても関係ない。そんな感じで俺をビンタし続けるタカオカさん。なんと美しい姿だ……人はやっぱり……素のままが……素敵だ……。

 あれからナン発叩かれ、殴られたんだろう? 俺はゲームセンターに置いてあるパンチングマシーンじゃないんだよ……。
 あー……うダメだ。意識が飛びそう……という時、タカオカさんは手を止め言った。
「……ナギサくん?」
「……な……に……?」
「最後に一言だけ聞いてあげるけど、言い残すことある?」
「……素の君の方が素敵だよ……」
 その言葉を聞いて、タカオカさんは顔を真っ赤にしながら俺の顔面に右ストレートを決めた。

       

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