Neetel Inside ニートノベル
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ボクたちT-Massのメンバーはライブを終えると学祭の他の出し物を見て周った。ボクは客席に投げ入れた制服が戻ってこなかったので

全裸で周ろうとしたが「ちょっと!それはいかんでしょ!」と保健室の先生に呼び止められたので先生からもらった「田中」と名前の

書かれたブリーフ一枚を穿いて廊下を歩いた。もちろんひとりで。普通ライブが終わったらバンギャの女の子とかが群がってくるものじゃ

ないのか。窓の外からステージを眺めると他のバンドがオーディエンスを盛り上げている。まるでボク達の演奏など無かったように。

もっとうんこ、出しとくべきだったかな。そんなことを考えていたらムカついてきた。ボクは目の前にあった公衆電話のボタンをプッシュした。


学祭ライブも終わりが近づき始め、グラウンドのステージの周りには「デビルヘッドカーネーションズ」のライブを見るためにたくさんの

観客が集まっていた。もちろん演奏するメンバーは青木田集団だ。「デビルヘッドて。厨ニ病乙」ボクが毒を吐いてステージを見上げると

「おう、ティラノ!こんなところにいたのか!」とマッスとあつし君がやってきた。キスマークだらけでマッスが言う。

「いや~ライブの後に女の子に囲まれて大変だったよ~」あっそう、ボクがそっけない言葉を返すと「平野くん、例のモノ渡しとくよ」

と後ろから理科部の田辺くんの野太い声が聞こえたのでそれを受け取り、「次が学祭最後のバンドだ。これ、投げ入れてやろうぜ」と

マッスとあつし君にそれを手渡した。「これは...ペットボトル?」「そう。よくライブで演奏者が客席にペットボトル投げるじゃん。

その逆バージョン」ボクは田辺君に目で合図をするとそれをあとからやって来た三月さんにも手渡し、ライブが一番盛り上がる

所でこれを投げようぜ、と打ち合わせた。そして開演の時間がやって来た。

「おまたせー!学祭最後になりました!精一杯楽しんで行って下さい、ヨロシクー!!」

マイクを持った青木田が上半身裸でオーディエンスをあおり始めた。けっ、いまのウチに粋がっているといい。あんたらみたいなチンピラが

ライブやったところで上手くいくわけねぇよ。しかし現実は残酷...!青木田バンドはメロコアを主体とした盛り上がる選曲をし、カバー曲

の演奏ながらもオーディエンスを大いに熱狂させていた。畜生。軽音部なだけあって上手ぇよお前ら。だかだかだかだか、じゃーん!岡崎のドラム

の音が鳴り止むと歓声が暗くなりかけた空に響く。「アリガトゥー!それじゃ、最後の曲、聞いてくれ『This is a my Girl』!」

ミヤタのベースのイントロが流れると青木田が低い声で英語の歌詞を歌いだした。「なんだか、あの人達、キラキラしてるね」

三月さんが目を輝かせる。「あいつら、ああ見えてちゃんと練習しててんだな」マッスが携帯の電話帳を整理しながら言う。

ああ、お前らの努力は認めるよ。でも俺にはお前らにずっとオモチャにさせてた恨みがある。大嫌いだ、大嫌いだ。復讐の言葉をもっと、

上手に伝えたいけど、やっぱ、『ブッ殺す』しか出てこない。「なあ、これいつ使うんだよ」あつし君がペットボトルを取り出したので

「じゃあそろそろ逝こうか」とボクはペットボトルの先端についた線香に火をつけた。スモークの炊かれたステージ周りを見つめ、

「3、2、1でみんなイクぞ!」とみんなにペットボトルを投げ入れるよう呼びかけた。そしてステージに向かってペットボトルを投げると

ありえないことが起こった。


ス テ ー ジ が 爆 発 し た 。


ボクが子供の頃「くれよんしんちゃん」を見ていたらなぜか野原家がきんたま臭荘みたいな名前の団地に引っ越していた。次の日友達にそれを話したらしんちゃんの

家は爆発したという。いやいや、そんなことありえないっしょ。「くれしん」は結構リアルな設定が多くてそんな馬鹿みたいなこと起こる

わけない、と思っていた。検証するために本屋に立ち寄りコミックスを立ち読みするとボクは度肝を抜かれた。臼井先生。ご冥福をお祈り

します。


「うおーい!誰だ!今なんか投げ入れたのー!発炎筒か!?」悲鳴が飛び交う中、夏木先生の声が聞こえる。メラメラと燃える炎を見て三月さんがぺたん、

と座り込む。「ティラノ、おまえ...」あつし君が言葉を失う。「おまえ、やっちまったな」マッスが口元に笑みを浮かべながらボクに言う。

こうなった以上、後戻りはできない。理科部から電動メガホンを受け取ると瓦礫から起き上がる青木田達をみてボクは叫んだ。

「ざまあみやがれ!普段の行いが悪いからこうなるんだ!みんな、だまされんな!こいつらは俺にションベン飲ませたり、カツアゲしたり
裸の写真バラまいたりする最低のヤツらなんだ!てめぇらはそこに立っちゃいけない人間なんだよ!わかるかこの野郎!」

メガホンを地面に叩きつけると青木田のとりまきのヤンキー集団が僕たちに向かって罵声を吐きながら走り寄ってきた。

ヤバし。ボクは急いでメガホンを拾うと後ろの文化部連中に向かって叫んだ。

「いけー!お前ら!お前らだって散々あいつらにムカついてたんだろ!対して才能も無いくせに女喰いまくりやがってよォー!!
今こそ立ち上がるべきなんだ!童貞の意地、奴らに見せ付けてやれ!」

「そうだ、そうだ!俺達だって女にモテたいんだ!」
「将棋部だからってネクラ扱いすんじゃねーよ、腐れマンカス共!」

普段は大人しい奴らが声を震わせながらボクの声に反応する。青木田達のせいで腐女子の前でオナニーさせられた経歴を持つ田辺の口が開く。

「時は来たれり。」

そんなこんなでリア充ヤンキー集団と根暗文化部の殴り合いが始まった。2011年、6月、ボクはこの暴動を「童貞達の戦争」、つまり

「チェリーウォーズ」と名づけようと思う。筆で戦おうとする美術部がバールのようなもので殴られ、釘バットを振り回す元野球部の額に理科部の作った

花火ロケットが命中する。「おおー!盛り上がってきましたね~!園芸部の内田もいけぇ~!」体育教師の夏木安太郎が実況を始める。

ボクはまだ倒れている三月さんを引き上げるとマッス達を見てこう言った。


「逃げよっか」


全員が静かにうなづいた。

そしてボクたちはグラウンドから全速力で走り出した。こうしてボク達の初ライブが終了した。グッバイ。おれたちが夢見た伝説。

ボクはその後3週間の停学処分になり、「なぜ学祭のステージを爆破したのか」というテーマで反省文を200枚書かされた。

読書感想文にはまだ早いぜ、ベイベ☆ 部屋でパソコンを開こうとすると窓に小石がぶつかる音がする。窓を開けるとあつし君と

ベースを抱えたマッスが立っていた。

「おーい、ティラノ、スタジオいこうぜー」あつし君がボクに手を振る。「いつまでも部屋でシコシコやってないで外に出ようぜー」

マッスがボクに笑みを向ける。そうだ、ボクには一緒にライブをやる仲間がいるんだ。神様ありがとう。ボクはギターを持ち、

急いで階段を降りると、無職の親父に「働け」と言い放ち、母親のサイフから2000円抜き取って仲間達の元へ走った。もちろん全裸で。

突き抜けるような青空の下、ボクたちは肩をくんでぐるぐる回りだした。これが性春。一生懸命って素敵じゃん?ボクは回りながらも

焦りが込み上げてきた。話を終わらせたいのだかオチが見当たらない。マッスとあつし君に聞いてもわからない、という。ボクらは意味も無く

2時間ぐるぐる回ったので気持ちが悪くなって倒れた。太陽を見上げながらボクはこの二ヶ月を振り返った。色んなことがあったなぁ。

そしてボクは心の中で思った。最低でクズといわれてもこれが俺の生き方なんだ。It's my tule life !

女も抱かねぇで このまま死ねねぇえぞゥー。

まあ、こんなカンジでおわりです。作者の精神が持つなら2部も始まるかもしれません。

       

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