Neetel Inside ニートノベル
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「ようちゃ~ん、鱒浦くんから電話よ~」

夏休み1週目。ボクは部屋で実況パワフルプロ野球をプレーしていた。オリックスの内野手がまーたフィルダースチョイスをしでかした。

「クソ!フェンスに頭ぶっけてしねや!」「ようちゃん電話~」

ボクはテレビにコントローラをブン投げると階段を転がる岩のように下り降りた。

「なんだよマッス」
「ああ、ティラノ?いつものミスドに集合な」
「ええ?マジかよ?!」
「マジだよ。おまえ、携帯どうしたんだよ」
「また止まったんだよ!」
「...色々大変だな。とにかく急いで来てくれ。重大発表があるからさ」

そう言うとマッスは電話をガチャ切りした。外は猛暑で出たくねぇんだわ。ボクはとりあえずママから2千円もらうと蜃気楼歪む街角をアイスを舐めながらちんたらと歩いた。

「さっき言った『だからだからだから~』のとこなんだけどズンチ、ズンチ、ズンチに戻した方がいいと思うんだ」
「OK。じゃ、ズンチ、ズンチ、ズズンチはキャンセルで」
「いや、ちょっと待って。どっちにしようかな...」
「おう、みんなお待たせ!なんだよ話って」

マッスとあつし君がなにやら話し合っている。ボクがいつものように三月さんのとなりに座るとマッスが話を切り出した。

「俺達のライブハウスデビューが遂に決まったぞ!今週の土曜日のザ・ロックスで17時から。ドンドンズの対バンの前座だ。ティラノ、おまえ新曲は書けたんだろうな?」

ボクは静かに息を吐き出し手に握ったsyrup16gをアイスコーヒーの中に落しいれストローをマドラーの代わりにしてぐるぐるとかき回した。
黒と白の液体が螺旋を描いて灰色に結ばれる。その流れはまるで世界の縮図のよう。可も無く不可もなく不甲斐ないボク達は、

「おら!情景描写に逃げてんじゃねぇよ!!びっくりするなぁ、オイ!次会うまでに一曲しあげてこいって言ったろ!このずんぐりむっくり!」

珍しくマッスがボクに暴言を投げかける。

「今週の土曜日って急だね」
「ああ、本来演るはずのバンドが解散しちゃってさ。急に昨日出演オファーがあって。おれ達もう、全然余裕ない、って感じ」

マッスに叱られている間、三月さんとあつし君がそんな会話をしていた。
「持ち時間は何分なんだよ?」「あァ!?」「20分だって」
「じゃあ、『ぼくどう』を6回演れば?」「いい加減にしろ!!」

マッスがテーブルを叩いて立ち上がる。

「鱒浦君、どうしたの?いつもとキャラ違うよ」「...ああ、すまない」

三月さんに諭されマッスは席に座った。

「街中のライブハウス全部周って交渉したんだけどよ、いま夏休みでどこもスケジュール一杯だったんだよ」

あつし君が付け足すように言う。

「ドンドンズはこの界隈で一番知名度のあるバンド。ここは次にライブ演る時にためにも関係を繋いでおきたい。その点で今回のおれ達のパフォーマンスは重要なんだ」
「関係を持つ...つまり一発ヤラせてください、ってことか?」「...もうそういう解釈でいいよ。ごめんな大声だして」

T-Massの暫定リーダーであるマッスはライブハウスの出演予約が取れなくて責任を感じているようだった。

「気にすんなよ。いざとなったら学校の音楽室や公園のステージで演奏すればいいんだから」「そ、そうだよな」ボクは立ち上がって大声でこう宣言した。

「ライブジムミスタードーナッツにお集まりの皆様、お待たせいたしました!ボク達T-Mass初のライブハウスライブが今週土曜日、遂に決定!
なつかしのあの曲やアグレッシブな新曲が観られるか。こうご期待!...カミングスーン...!!」

ボクがカッコよくポーズを決めていると「あのー、静かにしていただけませんか?毎度毎度のことですが」と店員に注意された。

席に座りアイスコーヒーをすするとマッスが話をまとめだした。

「それじゃ、三月さんはブログとツイッターでライブ情報を拡散してね。本番まで時間が無い。オレ達はこれからスタジオで練習。場所は3時からスタジオガッチャな」
「マジかよォー、これからニコ生で『まどか』の再放送があるのによォー!」
「そっか、ネタバレしてやる。さやかは魔女化する」
「ちょ、マッスてめぇ...」
「よし、解散。時間がもったいない。ティラノ、オレ達は先にスタジオ行ってるから家からギター持って来いよな」
「いいよ、スタジオでレンタルするから」

4人が立ち上がり店を出ると三月さんと別れの挨拶をしてボクらはスタジオに向かった。まさかあんなに頑張っていたさやかが魔女になるなんてな。

畜生。マッスの野郎。興が削がれちまった。『まどか』はレンタルで観るとしてここは目先のライブに集中するか。そんなこんなでボクらは

スタジオで練習を重ね、土曜日がやって来た。


「やぁ!キミらがT-Massの子らやな!今晩はよろしく頼むで!」

ザ・ロックスのロビー。ドンドンズのボーカル、ドンキホーテ浜田さんがボクに握手を求めてきた。あ、この人深夜の音楽番組で観た事ある!ボクが手をぶんぶんと振られていると

「ステージングとライティングはどうする?」スタッフのお兄さんに聞かれたので「おれが話付けとくよ」とあつし君がその役を買ってでた。

「なんや、キミ、ステージ燃やして警察に捕まったんやて?オレも若い頃よくヤンチャしとったわ~」

はぁ、そうですか。ボクはその後ドンキさんの武勇伝を延々30分聞かされた。「おい、ティラノ!なにしてんだよ!本番15分前だぞ!」

マッスが慌ててボクの腕を掴んだ。いつもは冷静なマッスだが今回は余裕が無いらしい。ボクらが走り出すと「若人諸君、がんばりや~」

と気の抜けた声がロビーに響いた。果たしてライブ開演時間に間に合うのか!?いや、間に合うんだけどさ。ボクらT-Massの3人は楽屋裏で

最後の打ち合わせをした。次回、「遂にライブハウスデビュー!!!」の一本でお送りします。

       

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