Neetel Inside ニートノベル
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土曜日の午後6時、ボク達は待ち合わせ場所である公園の噴水前でダベっていた。「あつし君、ドラムオッケー!?」「イッツオーケー!」

空き缶やバケツなどを組み合わせて作ったゲリラライブ用の簡易ドラムを見てあつし君がニヤける。

「革命の日がやってきたな」
「左様。時はきたれり、ということだ」
「...おまえら本当にやるつもりなんだな。ティラノやめとけって。おまえ、退学のアウトカウント2つめだろ?」

マッスが携帯をイジりながらボク達と合流した。「ごめんねー、こないだのライブ、うまく宣伝してあげられなくて~」

三月さんが居心地悪そうにマッスの背中から顔を出した。チッ、しゃーねーよ。いままで失敗してきた分、今日のライブで卍解してやるぜ!

「おー、平野洋一。なんか知らないけど頑張れよなー」

イカ焼きを食いながらバイト先の先輩、一ノ瀬司も集合した。「...おい、なんでここにコイツがいるんだよ」マッスがボクに耳打ちする。

「アァ!?俺は祭りに参加しちゃいけねぇのかよ!このインテリ眼鏡ちゃんよ!」
「ハァ!?チンピラ風情が目障りなんだよ!このオシャレ鼻ピアスが!」
「おー、だったら勝負するか?」
「いいぜ、いまからここの公園にいる女の子のアドレス、どっちが多くゲットしてこれるか闘ろうじゃねぇか!」「のぞむ所だぜ!」

口喧嘩が終わると2人はメンチを切りあいながら別々の方向に走り出した。ちょっと、ちょっとォー。主人公はボクなのにナニ勝手にバトル

おっぱじめてるんですかぁ~。「ティラノ君!今日ゲリラライブ演るってほんと?」三月さんがボクのシャツを引っ張ったので「オ、オウヨ...」とカタコトで答えた。

「私も時間あったら観にいくからね!ロッカーは国家権力なんかに屈しちゃダメだよ!」

そういい残すと三月さんは出展している屋台通りに向かって走って行った。残されたボクとあつし君は覚悟を決めたように微笑みあった。

「イクぜ?」「おう!」「「セックス!」」お決まりのT-Mass始動の合図が公園に鳴り響いた(と思う)。


「おら!どけ!」「きゃあ!」「なんじゃ!おまえらは!」


――午後8時、10分前。ボクらは公園のステージで「ハレ晴レユカイ」を踊っていた健康老人団体を一人残らず追い出した。

あつし君が例のドラムをセットし終わるとボクはあーやが歌っているラジカセの電源を切り、設置してあったセンターマイクの高さを整えながら公園の連中にこう宣言した。

「みなさんこんばんわ!ボク達はT-Mass!...じゃない?...バンド名なににする?...え?ジャックナイフピストルズ?だせぇ。...T-あつにする?...ああ、それでいいよ...」

ボクは後ろにいるあつし君と即興でバンド名を考えた。マッスがいない以上、T-Massを名乗る訳にはいかないからだ。そして結論は出た。

「えー、ミナサン改めましてこんばんわ!ボク達は『T-あつ』というオシャレユニットです。女子高生のみなさん、チェックよろしく!」

ボクの投げキスを浴衣の女の子が避ける。「花火が上がるまで時間がない。早く始めようぜ」あつし君がボクを急かすので持参したミニアンプに

ギターをジャックすると平和ボケした連中に向かいこう叫んだ。

「1曲目!イクぜ!カバー曲で『君という花』!らっせー!らっせい!!」

だがら、だったん!あつし君が中に石を入れたバケツを力強く叩く。ボクらは珍しくゲリラライブの1曲目にアジアンカンフージェネレーションと

いうバンドの「君という花」という曲をセレクトした。演奏に余裕があるのか、あつし君がボクの歌にコーラスをつける。


「カバー曲」なんかをして、オリジナルを越えられるわけではないと
知ったフウな事を言う者もいるだろう。
持ち歌を演ることが大切なんだという者もいる。

だが、
自分の肉体をドブに沈められて、その事をネットでバラされて
生活するなんて人生は、私はまっぴらごめんだし…
私はその覚悟をして来た!!

「カバー曲」とは、自分の存在を世界からひきつけるためにあるッ!

by豊崎愛生(大嘘)


「赤坂サカスよー、うおー、君らしい色にィーもえー、もぉえー、ちゅちゅ、らりるった!らりるれらーつらりらった、ふわ、ふわ、ちゅちゅ、おえーとぅとぅ、らりるりらーつらりらったー、おえ、おえ、ちゅっちゅっちゅセイアンサー。いえ!(yeah!)いえ!(yeah!)いえ!(yeah!)いえ!(yeah!)いえ!(yeah!)いえ!(yeah!)や~い~やい~や~!(yeah!)」

オゥフ!知名度のあるキャッチーな曲ということもありステージの前にはたくさんの人が集まっていた。ボクらのライブでコールアンドレスポンス

が起こるなんて学祭以来のことだ。気持ちがイイぜ~。じゃーん、じゃーん、じゃーん。ボクが3回ギターを弾き下ろすと

観客から「フゥー」という歓声が起こった。これ、イケルぜ。イケちゃうんじゃないの~?コレ?!ボクらは調子に乗って2曲目も演ることにした。


「えー、みなさんありがとうございます!次はオリジナルの曲を演りまーす!『あずにゃんの声でイこうよー』!!」

ボクが曲名をシャウトすると頭の上で花火が舞った。「お、もう花火やってんじゃーん」「みにいこーよ」「そうだな、行こうぜ」

そう口々にいうとお客さんは目の前からぞろぞろと民族移動のように公園の出口から出て行った。ちょっと、ちょっとちょっとォー!!

気が付くとボクらの前には酔いつぶれたおっさんと野良猫とステージを返して欲しそうな目で見つめる老人団体の人たちしかいなくなった。

畜生。なんでいつもこうなっちまうんだよ...ボクは「あずイキ」を止め、魂の叫びを去って行った連中に向かって放つことに決めた。


リア充共をふっとばせ 作詞・作曲 T-Rano 編曲 T-Rano 山崎あつし

大体どんなアタック決めてもダメ。ため息でちゃうわ ボクに似合う女なんていりゃしないのYO 絶対勝てないノーゲーム(ナイナイ) 

マジでさぁ、これマジでほんとうにぃ~

ボクらが涙で眠る頃、誰かがあの子を抱いている ボクらが抱きたいあの子らを 誰かがあの子を抱いている

Ah~、ムカつくんだぜ~ ボクが夢見た Oh レジェンド Oh トレンド リア充共を~ ...ふっとばせっ!


リズムもめちゃくちゃ、お得意の韻だって踏んでない。前半B'Zのパクリだし。でもそんなの関係ねぇ。俺はこのムシャクシャした不条理な

気持ちを何かにぶつけたかった。観衆からぱらぱらと拍手が鳴る。

「おら!拍手してんじゃねぇ!帰れ!!」「...まるで昔のエレカシだな...」
「お~ティラノ、やってるじゃね~か。ごくろう、ごくろう」

顔を真っ赤にしたマッスがステージに近づいてきた。

「よかったぜぇ~おまえの新曲~ボクらが涙で眠る頃~誰かがあの子を抱いている~
だっけ?オレも混ぜてくれよ~」

そう言うとマッスはステージに上がり「ベン!ベン!べべべん!!」とエアベース(てか口ベース)を奏で始めた。口がかなり酒臭い。

こいつ相当酔ってやがるな。ボクらが普段とキャラの違うマッスにヒいていると「お、ここに丁度いいステージがあんじゃーん」と言いながら

ヤンキーが上がってきた。彼はボクからマイクを奪うと目の前のツレの女の子に向かってこう言った。

「マリコ!初めて見たときから好きでした!つきあってくださいい~」「...はい」「おお~」見ていたヤンキー共が歓声をあげる。

しばらくしてステージはヤンキー達の告白会場に変わった。「おー、お前らお似合いじゃん」「へへ」「今夜この後ぶっぱなしちゃうんじゃないの~?」


「く  そ  が  !  !  !」「!?」

ボクはいてもたってもいられなくなりステージから飛び降りた。なんでリア充共を駆逐するために来たのに目の前でいちゃいちゃぶりを見せ付けられ

なきゃならないんだ。ふざけろ!いや、ふざけんな!!もう、バーーーカ!!!ボクは公園を出、目的も無くめちゃくちゃに走り出した。

死ね!リア充死ね!しねじゃなくて死ね!!ファッキン!ファッキン!!きええぇぇぇええええ!!!


どん!突然何かにぶつかった。「痛ったぁ~」「す、すいません!大丈夫!」ボクがぶつかったのは女の子のようだ。ボクは慌てて彼女元へ駆け寄った。

「ちゃんと前見て走れってーの」「すまそ!」ボクを睨む同じくらいの年頃の女の子を見てボクは頭を下げた。

お、浴衣の下からぱんつみえてんじゃん。その生地の色はあまりにも鮮やかなショッキングブルーだった。

あれ?キミって、もしかして、もしかしてェー!!頭の上で大会終了を告げる最後の花火が打ちあがった。それと同時に

真夏の夜の延長戦が幕を開けようとしていた。こんなおわりかた、どう?

       

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