Neetel Inside ニートノベル
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はぁ~。とうとう始まってしまいましたか。『T-れっくす―リハビリ編―』。「何よ。若いのにため息なんかついちゃって」

乱暴に段差を越えた魚住さんがボクに聞いた。

「手術ってもっと早くにやってもらうこと、出来ませんか?1秒でも早くこんなところ退院してみんなと性春しなきゃいけないんで」

「...わけのわかんないことを...本当はすぐ手術出来るんだけどあんた、痛み止めの鎮痛剤飲みすぎてたでしょ?
クスリが体から完全にトぶまで手術はおあずけ。」

「え~!?手術ならボクが意識失ってる時にしたじゃないですか!なんでもう一回やんなきゃなんないの?」
「あんた、先生の話聞いてなかったでしょ。こないだの手術は壊れた骨を繋ぐために足にボルトを入れて固定する手術。
そして次やるのが足に金属プレートを埋め込む手術。痛いわよ~。大のオトナが失禁するレベルなんだから」

なるほど。だから今足首に痛みがないのか。でも、足にボルトやプレート。これじゃまるで改造人間だ。

「別に歯医者で顎にインプラント打ち込むのと対して変わらないわよ。考え方としてはね」

喉が渇いたので途中の休憩所でボクが魚住さんに止まるよう言うと、変なおっさんが話しかけてきた。

「よぉ!ジュンちゃん!今日も相変わらずガタイいいね~。そっちのぼっちゃんは?」

ボクは振り返って魚住さんに聞いた。

「ジュンって名前なんですか?」「うっさいわね。そうよ。ビッグ・ジュンよ、私は」

ボクは向き直って競馬新聞を手にしたおっさんに自己紹介をした。

「...へぇ、チキンレースやってバイクに轢かれて骨折!?そいつはロックだねぇ。おじさんはロックより賭け事の方が好きかね。...ああ、オレはみんなから
『ギャンブルのケン』って呼ばれてる。そっちにいるのが...おーい、ちょっと来て見ろよ」

そういうと顔に包帯をぐるぐる巻きにした「ししおまこと」のような人だかミイラだかわからない生き物が近づいてきてボクにひょい、と頭を下げた。

「この人は『あたり屋のテツさん』。なんでも半年に1度車に轢かれてその保険金や慰謝料で生計を立ててるロッケンローラーさ。
ちょうど良い機会だ。にいちゃんもこの人に「あたりのテクニック」、教えてもらえよ」

「ちょっと!若い子に変なこと吹き込まないでよ!」

へらへらと笑うケンさんをジュンさんがたしなめた。

「...パチンコ、スロット、株、競馬、宝くじ。当たった時に頭に走る電流の衝撃。遊ばねぇ今の子供に教えてやりてぇもんだなぁ。
そしてその金で抱いた女のまー、柔らかさときたら!たまんねぇよな!オイ!」

げらげらと笑う2人を見てボクは呟いた。

「そんなもん、全然ロックじゃねぇよ。ただのクズが開き直ってるだけじゃねぇか」
「んー?なんか言ったかい?」
「ジュンさん、行こう」
「ちょっと!」

ボクは自分で車椅子の車輪を漕いで廊下に向かった。ケンさんがボクの背中に言葉を投げかけた。

「あと10年もすりゃ、アンタも俺達の仲間入りさ。俺達はどうせ社会から弾かれた人間なんだ。クズでけっこう。よろしく頼むぜ、平野のぼっちゃんよ!」

下品で不愉快な笑い声が病院内に響く。ボクは車輪を漕ぐ力を強め、部屋のドアを開けた。


「はーい、平野洋一くん。体、拭きますよー」

2日後の病室。ボクはケンさんからムリヤリ渡された「五十路女大ハッスル」というエロ本をベッドの下に滑らせ、若い看護士さんに返事をした。

怪我で風呂に入れないので看護士さんが体を拭いてくれる、ということなのだ。ボクは上着を脱ぎ佐々木とネームプレートのついた看護士さんに背中を向けた。

「はいー、それじゃ背中から拭きますよー」

湯気と一緒に背中に吐息が吹きかかる。そうだね。ボクは勃起した。密室で若い女と上半身裸で密着。これで勃たなきゃ男がすたる。

「はいー、右腕上げてくださいー」

ボクが悦に浸っていると急に部屋のドアが開いた。

「あー、かんごふと部屋でえっちしてるー。いーけないんだ、いけないんだ。せーんせいに言ってやろー!」

ボクが振り返ると入り口に8歳くらいの子供が立っていた。

「こらこら、オトナをからかうのは止めなさい」

ボクの声を無視し、少年はベッドを回り込みボクの正面に走って来た。

「あー!この人、ちんちん出してるー!やっぱ、えっちするつもりだったんだー!」
「え!?ちょっと何してんだよこのイカ臭童貞野郎!お前とヤるくらいなら舌噛み切るからな!!」

後ろにいた看護士さんが急に本性を現して背中にタオルを叩きつけた。ボクはちんぽをしまうと目の前の子供を睨みつけた。

「ぼくの方がおおきいー。それ!」

少年がバンツを下ろした。「おいおい...っておい...」

ムケてこそいなかったが少年のペニスは太くたくましく、精通の始まっていないキンタマはみかんのように膨れ上がっていた。

「ガキのチンポじろじろみてんじゃねーよ、ホモ野郎!」

看護士さんが洗浄器具を持って部屋から出て行った。ボクは慌てて少年にズボンを穿く様、促した。

「そうだ、ぼくガム持ってるんだ!一枚あげるよ!」

そういうと少年はボクにガムのケースを向けた。ここ何日か流動食のようなもんしか食っていない。

「ありがとう」

ボクがケースに手を伸ばすとバチン!とひとさし指がはさまれた。

「やーい、やーい!ひっかかった!!このいかくさどーていやろー!!やーい、やーい!」

そう叫ぶと少年は一気に部屋から走り去って行った。くそ、てめぇも童貞だろ。...それにしてもここ、ロクな患者がいねぇじゃねぇか。大丈夫かよ。

ボクは赤くなったひとさし指をふりながらこれからの病院生活をがっつり危惧していた。

       

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