Neetel Inside ニートノベル
表紙

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「め~ると、と~け~てしま~いそぉ~、っと」
「あー、病院で電子機器使ってる~。駄目なんだ~、先生に言いつけてやる!」

ボクが病室でPSPのリズムゲームをやっていると隣の部屋のユキヒロがやってきてボクを指差して廊下に戻って行った。

入院して1週間。毎日のようにユキヒロ少年は部屋にやってきてボクにちょっかいを出してきた。うっとうしいな、本当に。

看護士の魚住ジュンさんが部屋に入ってきて体温計をボクに手渡した。それを脇に挟むとジュンさんが思い出したように言った。

「あ、ティラノ君。今日の2時にお見舞いの人、来るから」「うそ?可愛い子?巨乳?!」
「...知らないわよ。とりあえず起きてなさいよ。てか、この部屋いつも臭いんだけど。窓開けるよ」

ジュンさんがカーテンを開くとまぶしい夏の日差しが目に飛び込んだ。

こんな辛気臭いところさっさと退院してみんなとバンドやりてぇ。「今日は長いやつね」点滴の針が血管を突き刺すと、ボクはまた眠りについた。


コンコン。部屋のドアをノックする音が聞こえる。「どうぞ」眠い目をこすってボクはドアに答えた。

「ひさしぶり。洋一、元気?」「えっと...どちら様ですか...?」ドアを開けたのはボサボサの頭をして無精ひげを生やしたおっさんだ。

「...相変わらず失礼なやつだなぁ。俺だよ。お前の親戚の八橋勉だよ」「やつはし君のツトムくん...あ、アニキ!ひさしぶり!!」

「やっと思い出したか。...3年ぶりだな」目の前の老け顔の大学生は黄色い歯を見せて笑った。

「アニキ今年で大学何年目だっけ?」「今年で8年目」「まじで!?こんなとこ来てないで学校行ったら?」

ボクが笑うとアニキがうつむいた。

「...その話なんだけど先週また留年の通知が来たよ」「え!?」
「俺、やっぱ周りの大学生のノリについていけないっていうか...コミュ障つーの?俺、人と一緒にいるとストレス溜まんだよ」
「...だから学校行かなくなっちゃった訳?」「...まぁな。この8年間ずっとオンゲーばっかやってたよ。俺の東京での8年間はなんだったんだって感じ」

アニキがベットのボクを見て言った。「もうセックスした?」「は?!」アニキが自嘲気味に笑い出した。

「高校時代、地元でハブられて東京でもう一回やり直そうと思ったけど無理だったよ。このままだとリアルに『魔法使い』になっちまいそうだ。
笑ってくれよ。おまえ今年で16だっけ?10も年が離れてる親戚に童貞越されるんだぜ?もう消えちゃった方がいいよね、俺」

「あ、あにき...」壊れたおもちゃのように笑う親戚のアニキを見てボクは怖くなった。しばらくして笑いが収まったアニキが言った。

「わり、わり。自分の話ばっかりして。お前入院中ヒマだろ?これ貸してやるよ。てかあげるわ」

アニキがギターケースを部屋の壁に立てかけた。

「バンド演ってるんだってな。知り合いから聞いたよ。これオェイシスっていうメーカーのエレアコ。好きに使ってくれよ」

ボクは我慢出来なくなって言葉を振り絞った。

「アニキ、どうしちまったんだよ...東京に行って絶対ビッグになって帰ってくる、って言ってたじゃねぇか。カラオケ連れてってくれたり
CD貸してくれたりしてロックスターになる、って言ってたじゃん。あの言葉は嘘だったのかよ!!」

ボクが声を張り上げるとアニキの顔から雫がこぼれた。

「...頑張ったってどうしようもないことだってあんだよ。俺、そろそろ帰るわ。これからの事、親と話合わなきゃいけないから」

すり足でドアの前まで歩いたアニキがつぶやいた。「俺の仇、とってくれよな」「えっ?」「なんでもねぇよ。お大事にな」

アニキが早足で部屋の外へ出て行った。

「イッツオーライ!俺のギターで世界を変えてやるぜ!!」

ボクは自信満々で飛行機に乗り込む8年前のアニキの姿を思い出していた。

       

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